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ハリガネベイスボウラーズ!  作者: 椎家 友妻
第二話 甲子園への道
26/99

10 ストレートとミットの正しい当て字

 「はぁあああああっ⁉何言うてハルんですかキャプテン⁉」 

 思わず声を荒げる俺。

そしてザワつく周りの生徒達。

更に今まで口を噤んでいた碇が、顔を上げて口を開いた。

 「それ、本当ですか?」

 思いっきり食い付いとるでコイツ!

え⁉もしかしてコイツ、そんな事で野球部入部を決めるつもりやないやろな⁉

さっきあれ程嫌がってたのは一体何やったんや⁉

 焦りまくる俺に構わず、キャプテンはこう続けた。

 「君はこの正野君に、想いを寄せているそうやな?」

 「ちょいとちょいとキャプテン!」

 更に焦る俺。

そして更にザワつく周囲。

そんな中碇は、こう答えた。

 「寄せてます」

 頭が痛くなってきた。

何でそこだけそんなにハッキリ答えんねん。

しかもこの状況で。

 周りを見渡すとクラスの奴らが、

不快感と好奇心が微妙に交じり合った視線で俺達の事を見ている。

ああ、俺はこれからこのクラスで、

どうやって生きていったらええんや………………。

 この先の学校生活に多大な不安を抱く中、キャプテンと碇のやりとりは続いた。

 「どうかな松山君、この話、決して君にとって悪いモンやないと思うんやけど」

 俺にとっては悪過ぎまっせキャプテン。

 「それは確かに、悪くはない話だとは思いますけど………………」

 おい碇!

お前も男やったら(いやホモか)、

野球はもうやらんという自分の主張を貫かんかい!

 「松山君、君はピッチャーなんやろ?

そして君が想いを寄せている正野君はキャッチャー。

君の愛を込めた渾身のストレートを、

正野君のミットにぶち込んでみたいとは思わへんか?」

 愛は要らんでしょ、愛は。

 「僕の渾身の(スト)(レート)を、正野君のお(ミット)に………

………はい、ぶち込みたいです」

 うぉおおおいっ!

その当て字はかなりおかしいやろ⁉

ストレートは直球でミットは皮手袋やろ⁉

 「じゃあ、入部してくれるな?」

 「う………………僕………………」

 しかしそこで口を噤む碇。

しかしもう一押しと見たのか、キャプテンはすこし口調を強くして言った。

 「何を迷うてるんや君は⁉こんなチャンスはまたとないで⁉

正野君と両想いになりたくないんか⁉」

 「そりゃあ、なりたいです!」

 俺はなりたくないです!

 「じゃあ入部すればええやないか!」

 「………………」

 「だから何でそこで黙んねん⁉」

 「まあまあ」

 エキサイトするキャプテンを、俺は横から(なだ)めた。

 「本人もこれだけ嫌がってる事ですし、もう諦めましょうよ」

 「あかん!ここまできて引き下がれるかい!」

 「そやけどキャプテン………………」

 「うるさい!俺の事はこれからキャプテンシャーロックと呼べ!」

 意味が分かれへん。

あかんわ、この人完全に頭に血が上ってしもうとる。

キャプテンは野球に熱いのはええんやけど、

ちと走り過ぎてしまう所があるんやなぁ。

一体この状況、どうおさめたらええの?

と、途方に暮れていると、タイミングよく、

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

(出来ればもっと早く鳴ってほしかった)

するとキャプテンは悔しそうに舌打ちをし、碇に

 「俺は絶対に諦めへんからな!」

 と言い残し、教室を去って行った。

そして教室は、嵐が過ぎた直後の様に静かになった。

後に残ったのはこの静寂と、俺と碇に注がれる、

何とも痛々しい周囲の視線だけやった。

 誰か、助けてください………………。



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