7 図星を突かれる
「野球はせぇへん、てか」
その日の昼休みの部室。
机を挟んで俺の正面に座って弁当を食っていたキャプテンは、
午前中の俺と碇のやりとりを聞いて、そう呟いた。
「はい、確かにそう言いました」
頷く俺。
そして購買で買って来たヤキソバパンを頬張る。
「う~ん、何でやろうねえ?」
そう言って首を傾げたのは、キャプテンの隣に座っていた鹿島さん。
今この部室に居るのはこの三人だけ。
その鹿島さんに、キャプテンはトゲのある口調で言う。
「ていうか、お前は何でまたここに来とんねん?」
それに対して鹿島さん。
「そりゃああんた、中学屈指のエースピッチャーやった子が、
この野球部に入部するかも知れへんねんで?
これは取材せんとあかんでしょ?新聞部として」
ホンマは一人の女の子としてキャプテンに会いに来ただけなのでは?
とか思ったけど、それを言うとこの場がえらい事になりそうなのでやめた。
一方キャプテンは諦めた様に
「まあええわ」
と言い、俺の方に向き直って言った。
「でも冷静に考えると、
何でそんな凄い選手がウチみたいな弱小野球部の高校に入ったんや?
彼を欲しがる高校は、他に何ぼでもあったやろうに」
「ホンマですねえ」
俺がシミジミ頷くと、目を細めながらキャプテンはこう続けた。
「ていうか、この疑問はそのまま君にも当てはまるんやけど」
「あ、俺ですか?いや、俺の事は気にせんといてください」
「何なに?もしかして何か訳あり?」
気まずそうにする俺に、鹿島さんが口を挟んでくる。
それに対して俺は両手を横に振って否定した。
「いやいやいや、そんな大した理由はないですから」
俺はそう言ったのに、鹿島さんはズバリこう言った。
「ひょっとして、片思いの子がこの学校に入学してるとか?」
「えぇっ⁉」
そのあまりにストライクな指摘に、俺は露骨に取り乱した。
「いやいやいや!あのですね!決してそんな事では!」
「あーっ!図星や!キャハハハハ!」
そんな俺の様子を見て無邪気な笑い声を上げる鹿島さん。
何処か穴があったら入りたい気分や………………。
そんな中、フォローする様にキャプテンが鹿島さんに言った。
「別にそれが理由でもええやないか、そんなに冷やかしたんなって。
それより今問題なのは松山君や。
あれ程の逸材をほっとくのは宝の持ち腐れも甚だしい。
しかもピッチャーで、
おまけにそんな彼の凄い球を受けられる凄いキャッチャーもここに居るんやし」
「いやあ、でも正直な話、
俺はあいつが野球部に入るのは、あんまり嬉しくないんですよね」
「ん?それは何でや?」
俺のげんなりした物言いに目を丸くするキャプテン。
そのキャプテンに俺は、碇の正体を話しておく事にした。




