2 バル○ンで集団自殺
部室の前まで来た俺は、その扉をガチャっと開けた。
すると、キャプテンをはじめとする野球部の先輩達が、
真っ白になって机の上に顔を突っ伏していた。
もはや生きる気力もないという様な状態。
やはり昨日の練習試合での敗北が相当応えているみたいやった。
「お、おはよ~っス」
とりあえず部室に入り、遠慮気味に挨拶をする俺。
すると、奥の席で突っ伏していたキャプテンが顔だけ上げ、
「おぃ~っス…………」
と、まるっきり魂の抜けきった声で言った。
そして周りの皆に向かって、こう続けた。
「今日から正式にウチに入部してくれる事になった、正野昌也君や。
皆、仲良うしたってや」
「い、一年の、正野昌也です。これからよろしくお願いします」
キャプテンの紹介を受け、俺は先輩達に向かって深々と頭を下げた。
するとその先輩達から、
「うぃーっス…………………」
と、これまた魂の抜けきった返事が返ってきた。
う~む、こんなテンションやと朝練どころやないやないか。
こんな事ではあかん。
ここは一年の俺がムードメーカーになって、皆を盛り上げんと。
「げ、元気出して下さいよ皆さん!
昨日はたまたま調子が悪かっただけですよ!
夏の大会はまだ先ですから、それに向けてしっかりと練習しましょう!
そうすれば甲子園出場だって夢じゃないですって!」
「いや、もうええんや」
何とか励まそうとする俺に、キャプテンが変わらぬ低いテンションで言う。
「俺らはな、野球をやる資格がないねん。昨日の試合でよう分かったわ」
「そんな事ないですって!野球をすんのに資格もクソもないですよ!
もっと前向きに考えましょうよ!」
「それも、そうやな」
「分かってくれましたか⁉」
「うん、もう、死ぬわ」
「言ってる尻から超後ろ向きじゃないですか!」
「俺ら張高野球部は今日ここで集団自殺するんや」
「ちょっとちょっと!縁起でもない事言わんとってくださいよ!」
「心配せんでもええ。勿論正野君も一緒や」
「そんな心配してませんよ!むしろ俺を巻き込まんとってください!」
「それでは早速、バ○サンの準備を………………」
「バルサ○で自殺しようとしてんの⁉あれはゴキブリ用でしょ⁉」
「俺らは所詮、ゴキブリみたいなモンなんや………………」
「………………」
なんちゅうマイナス思考。
この人は落ち込むととことんまでいくタイプなんか。
まあ、今の部の状態を考えれば、
どんだけ前向きな人でもそうなってしまうのかも知らんけど………。
と、その時やった。
それまで机に顔を突っ伏していた部員のうちの一人が、
やにわにすっと立ち上がった。
名前が分からないので、ここではAさんと呼ぶ。
Aさんはキャプテンにこう言った。
「東倉ぁ、俺、もうこの部辞めるわ」
「ええっ⁉」
驚きの声を上げたのは俺。
しかしキャプテンは半ば諦めた様に、何も言わずに頷いた。
するとそれに続き、
「俺も、辞めるわ」
と、また別の部員(ここではBさんと呼ぶ)の人もそう言って立ち上がった。
そしてAさんとBさんは部室の扉の所まで行き、Aさんが最後に一言言った。
「あどうも♪」
チャー○ー浜か。
分かりにくい。
そして御冥福をお祈りします。
とか考えてるうちに、AさんとBさんは部室から出て行ってしまった。
俺はキャプテンに言った。
「止めなくていいんですかキャプテン⁉
このままやと俺が入っても、試合する人数に足りないですよ⁉」
それに対し、キャプテンは首を横に振りながらこう答えた。
「しゃあないよ。だってチ○ーリー浜の決めゼリフで出て行ったんやから」
それがどないしたんや。
ていうかこのままやと甲子園目指すどころか試合自体出来へんやないか。
えらいこっちゃでこれ。
入部早々いきなりのピンチ。
この部は一体どうなってしまうんや?
と、本気で不安になった、その時やった。




