1 キッカケは何気ない一言から
「俺、いつか絶対お前を甲子園に連れてったるからな! 」
俺の幼なじみである小白井伊予美に声高らかにそう宣言したのは、
俺が小学四年の時やった。
俺と同い年で我が家が隣同士やった伊予美に、
俺は物心ついた頃から想いを寄せていた。
普段からお互いの家に行き来してよく遊んだモンやけど、
生まれつきのシャイガイやった俺は、
彼女になかなか自分の本当の想いを伝えることが出来へんかった。
そして迎えた小学四年の夏。俺の家で、
伊予美と一緒にテレビで夏の甲子園中継をみていると、
何気なく伊予美がこう言った。
「甲子園に出る人って、カッコええな~ 」
それを聞いた俺は、次の様に考えた。
伊予美にとって甲子園に出場する人はカッコイイ
という事は、恋愛対象として好ましい
もし俺が甲子園に出場する事が出来れば、
俺は伊予美から見てカッコイイ男という事になる
結果的に俺と伊予美は恋人同士となり
Aをして、
Bを経て
Cへと到る。
まあ、ABCの件は置いといて、
これは伊予美と恋人同士になるチャンスやと思い、
俺は後先考えずに、さっきのセリフを伊予美に言うたのやった。
ちなみに、それに対する伊予美の答えはこうやった。
「あ~、生で見た方が迫力あるやろうしね~ 」
どうやらこの時の伊予美はただ単に野球観戦の為に、
甲子園に連れてってもらえるものやと解釈したみたいやった。
しかし俺は決してそういうつもりで言うた訳ではない。
俺がエースで四番を務める(予定の)チームのマネージャーとして、
伊予美を甲子園に連れて行こうと、そういうつもりで言うたんや。
まあその誤解も、俺が実際に甲子園に出場する様な選手になれば、
解ける事やろう。
こうして俺は、甲子園出場を目指して野球を始めた。