『全力で走れなくなった俺は』・・・『死辺詩編の氷の詩集』から
『全力で走れなくなった俺は』・・・『死辺詩編の氷の詩集』から
㈠
全力で走れなくなった俺は、全力で走る人を見て、擬態化する。
まるで、俺が全力で走っているかの様に。
全力で走れなくなった俺は、宇宙を見上げては、明滅する光に追いつこうとする。
まるで、空想の中で、光に近づいたかの様に。
全力で走れなくなった俺は、小銭を投げ捨てては、其れを拾う振りをする。
まるで、さも、小銭に先導去れたかの様に。
全力で走れなくなった俺は、両手を前後に動かして、遠目に、走っている様に見せる。
まるで、こんな詩すら、書く必要がなかったかの様に。
㈡
死を前にすれば、全力で走れなくなったことも、心は痛まない。
けれど、生きている間は、俺はもどかしく思うものだ。
それでも、小走りで駆け抜ける街は、俺の振動を感じて、地震を起こすくらに、動態せよ。
そんな、全力で走れなくなった俺は、痛んだ心を、死へと投げ捨てる、詩を書いて居る。