白銀の少女と真紅の鋏 3
「銀髪の女子生徒って……もしかして阪柳さんのこと?」
天姫はキョトンとした顔をした後、そう聞いてきた。
「阪柳さん?かどうかは分からないが、多分あってる」
生憎と名前は知らないが、銀髪なんて珍しいからな。
間違えるようなことはないだろう。
そんなことを考えていると、天姫がまじまじとこちらを見つめていることに気が付いた。
「なんだよ……?」
「いや、ね? 景が他の女の子のことを知りたいなんて珍しいなぁと思って。特に最近は全くと言っていいほど無かったし。と言うより、景自身そういう話題を避けてたでしょ?」
「まぁ、そうだな……」
最近は、と言うか花奏が死んでからだな。
あんなことが起きたすぐ後に彼女を作ろうとはさすがに思えなかったのだ。
天姫も俺が妹に告白されたということ以外は知っている。
だが、これでも長い付き合いだ。
多少の察しはついているのだろう。
だからか、自分からはこの手の話題に触れようとはしないし、そういう話になったらそれとなく話を逸らしたり話題を変えてくれる。
本当に、俺なんかには勿体無い最高の親友だよ。
「?」
天姫が首をコテンと傾げる。
ヤバイな。もしも天姫が女だったら惚れてると思う。
そのくらい可愛い。
なぜ神様は天姫を男にしてしまったのだろうか。
もしかしてBLの神か? 腐ってそうだな。
俺が夢の中であったあの人がそうじゃないことを願おう。
っと、話が逸れたな。
「それで、その阪柳さんとやらの話なんだが……」
「いいよ! 僕の知ってることなら情報提供は惜しまないから、何でも聞いて!」
「ありがとう、助かる」
なぜこんなにやる気を漲らせているのかは知らないが、そう言うことならお言葉に甘えるとしよう。
「じゃあ、まず名前は何なんだ? 阪柳?」
「名前は阪柳白亜。長い銀髪に幼めの容姿の女の子だね」
この特徴からしても、俺の知ってる奴と同一人物で間違いないらしいな。
「人となりとかは?」
「無口無表情で大人しいかな? でも喋れないわけじゃないから、人見知りってことでもないのかな? あと、成績がいいよ。スポーツもできたと思う。何か問題を起こしたっていう話は聞いたことがないね」
「つまり完璧超人と」
「僕個人での感想はそうだね。当然人気も半端じゃない。毎朝のアレ、景も見たことあるでしょ?」
アレって言うと……あのパレードみたいな騒ぎのことか?
「ある。と言うか今朝見てきた」
「それは災難だったね……」
「ホントにな……」
はぁ、思い出すだけで溜息が。これから本人に会わないといけないかと思うと胃が痛いな。
しかし、これもそれもすべては願いを叶えるためだ。
そのためなら、甘んじて受け入れるとしよう。
「それで? 他に聞きたいことはない?」
「ん~そうだな~」
正直、人となりさえ知れたらそれでよかったんだよな。
聞いた感じ好戦的とは思えないし、話が通じるならそれでいいし……うん、聞きたいことは無いな。
……あ、肝心なこと聞き忘れてた。
「呼び出すにはどうしたらいい?」
「いきなりそこまで進めるの!? ちょっと早すぎない!? もっと関係を深めての方がいいと思うよ!?」
「関係を深める? なんで?」
俺は聞きたいことがあるだけだし、わざわざ関係を築く必要はないんじゃないか?
まぁ全く必要ないとまでは言わないが、別に今じゃなくてもいいだろう。
「それは……ほら! お互いのことをよく知ってからの方がいろいろと成功率も上がるでしょ? 多分、経験がないから分からないけど……」
「成功率? 経験? 何の話をしてるんだ?」
「えっ、告白するんじゃないの??」
「はぁ?」
「え?」
なんだ? 話が噛み合ってないぞ?
まさかとは思うが、こいつ俺が阪柳さんに惚れてると思ってるのか? そんな馬鹿な。
「あれっ? だって、好きになっちゃったんでしょ? 違うの?」
「ちげぇよ! 大体なぁ、阪柳さんに惚れる要素がないだろ」
「一目惚れとかは?」
「ないない」
「でも可愛いとは思うでしょ?」
「それはな~……」
まあ、可愛いか可愛くないかで言ったら、当然可愛い部類に入るだろうが……。
「それを恋愛感情とは言わないだろ」
「確かに、どちらかと言えば性欲だね」
「可愛い顔して性欲とか言うなよ……」
「僕男だもん!」
「はいはい、『だもん!』とか言わない」
俺の言葉に頬を膨らませる天姫。
ホントこいつ可愛いな。
なんというか、阪柳さんよりもこっちに惚れそうなんだが?
つっても、男、なんだよな~。
はぁ、勿体無い。
「俺が阪柳さんを恋愛対象としてみていないことが分かったところで話を戻すが、改めて、呼び出すにはどうしたらいい?」
「その前に一つ質問いい?」
「どうぞ?」
「目的が告白じゃないなら、呼び出して何をするの?」
「話しを聞きたいんだよ」
「話し?」
「ああ、詳しくは言えないが阪柳さんが何か知ってる可能性があってさ。それをどうしても聞きたいんだよ」
「言えないなら聞かないけど……う~ん、とりあえずは分かった。それで、呼び出す方法だっけ?」
「ああ」
「そうだね~、一番ベタなやつだと手紙かな? スマホで呼び出すっていう手もあるけど、僕阪柳さんの連絡先なんて知らないし……。あとは直接会って約束を取り付けるとか?」
「なるほどな」
やっぱりその辺りが一番やりやすいか。
ただ、これは手紙一択だな。
俺も連絡先なんて知らないし、直接会うのはちょっと難易度が高い。
その点手紙は楽だ。分かるところに置いておけばいいんだからな。
「手紙で決まりだな」
「決まりなんだ……。でも、呼び出すのは結構難易度高いよ? なんといっても、『親衛隊』が常に見張ってるからね」
「親衛隊か。確かに見つかるのは避けたいな」
見つかったら何されるか分かったもんじゃない。
少なくとも、阪柳ファンをすべて敵に回すだろう。
嘘みたいな話だが、実際にそういうことがあったのだ。
もちろん俺は当事者じゃないからな?
たまたまそういう話を耳にしただけ。
まあそういう訳で、「阪柳親衛隊には近づくな」っていうのが暗黙の了解だったりする。
「どうすっかな~…………いや、ちょっと待てよ」
「どうしたの?」
「…………もしかしたら、案外楽に解決するかもしれない」
「え?」
「ありがとな天姫! ちょっと光明が見えてきた!」
「それは、どういたしまして? でいいのかな?」
「ああ、もちろんだ!」
そうと決まれは、あとは手紙を書くだけだな。
内容はどうしようか……うん、適当でいいか。
話したいことがあります、的な内容で問題ないだろう。
――よし! 手紙はこれでオッケー!
あとは、次の休み時間だな。たださすがにこの後すぐは時間がない。
と言うかもう少しで授業が始まる。
別にいつでもいいし、昼休みでいいか。