白銀の少女と真紅の鋏 1
「”行動”って一体何すればいいんだ?」
学校へと向かう途中、俺はギフトの懐中時計の蓋をパカパカと開閉させながらそう呟いた。
願いを叶えるためにポイントを集めるんだから良いことをしたらいいんじゃないか?
と思ったが、実際に考えて良いことって何よ?
誰かのお手伝いか? ボランティア活動か?
そもそも誰に対して良いことなのか分からないし、それ以前に良いことであってるのかすら謎だ。
試しに道中ゴミ拾いでもしようかと思ったが、こういう時に限って落ちてないんだよなぁ。
いつもはそこらへんに落ちてるっていうのに、これが所謂物欲センサーというやつなのか。
ゴミにまで発動しなくてもいいだろうに……。
はぁ、とりあえず昨日分かったとことといえば、俺の能力は懐中時計の蓋を開いた状態じゃないと使えないということだ。
試しに閉じた状態でも発動してみたが、うんともすんとも言わなかった。
ただ、あのゲーム画面のようなモノは何時でも自由に出すことが出来る。
どういう原理かは不明だが、どうやら他の人には見えないらしい。
それは道行く人の反応を見てわかった。
流石に宙に変なものが出てたら二度見ぐらいするはずだ。それがないってことはまず間違いなく見えてない……と思う。
まあ、もしかしたら許可した相手になら見えるとかそう言うギミックがあるのかもしれないが、そう易易と見せていいものでもないだろうし、その辺は保留だな。
とは言え、いくらその辺が分かったところでポイントの稼ぎ方が分からないんじゃどうしようもない。
昨日は時間がなかったから”クエスト”は受けてないが、どうしても”行動”でのポイント獲得方法が分からないんなら、近いうちに受ける必要があるだろうな。
パッと見はそうでもないが、一億って結構な数だからな。
早めにポイント獲得方法を確立しないと生きてるうちに終わらないぞこれ。
本当なら学校は休むつもりだったのだが、出席日数とかの問題もあるし、そもそも俺そんなに頭良くないし。
花奏が生き返っても最高学歴が中卒じゃなぁ。
就職するにしても今時最低でも高卒だし。頑張らないとなぁ。
そんなことを考えていると、ようやく学校に到着した。
昇降口で靴を上履きに履き替え、自分の教室である1‐Bに向かう。
ワァアアアアアッ!!
いきなり喧騒に眉根を寄せるながら振り返る。
まあ、大方の予想は付いている。
これは一人の少女が通る時の声だ。
その少女を一言で言い表すとしたら、『銀髪碧眼美少女』といったところだろう。
腰まで届く銀髪に整った顔立ち、他の人よりも少し幼い容姿、そして氷とまで言われた鉄仮面。
まるで人形のような少女だ。
名前は忘れたが、確か俺と同じ一年で、全校レベルで人気があるらしい。いや、この喧騒を聞く限り『らしい』ではなく確実に人気があるのだろう。
俺としても可愛いとは思うし、周りの連中の気持ちも分からなくはないが、俺はこのパレードにも似た喧騒が大嫌いなのだ。
なのに時々こうして時間が被る。今日はツイてないな。
まあいい。いや良くはないが、とりあえずここを離れよう。
っとその前に、この懐中時計は鞄の中にでもしまっといたほうがいいか。
無いとは思うが、万が一没収されたら困るからな。
そう思いながら懐中時計を鞄の中に入れた。
瞬間、カシャンという音が響いたかと思うと、カラカラと音を立てて俺の足元に鋏らしきモノが転がってきた。
ケースに入っていて全体は見えないが、物凄く高そうだ。
誰のだ? これ……。
俺はその鋏を拾った。否、拾ってしまった。
≪初めてギフトと接触しました≫
≪初回接触ボーナスを獲得します。1000P獲得しました≫
≪条件を満たしました。ギフトスキル[十二の神器]を獲得しました≫
≪未登録ギフトとの接触を確認しました≫
≪【懐中時計】型ギフトのギフトスキル[十二の神器]を発動しますか? YES――NO≫
ギフトに、接触……? これ、ギフトなのか……っ!?
それにポイント獲得……? ギフトスキル……? 何なんだ一体……っ。
と言うか、これ頭に直接響いてるのか……っ!?
「……ねぇ」
俺は突然頭の中に響いた声に混乱しつつ、現実で声がした方を向いた。
すると、そこには先ほどまで喧騒の中心にいた銀髪の少女の姿があった。
「……それ、私の」
「あ、ああ……これか」
「……ん、拾ってくれてありがとう」
「いや、別に……」
あまりの情報量の多さに咄嗟に言葉がでない。
あの鋏がギフトって事は、この銀髪の少女は俺と同じギフト所有者なの、か……?
「……? 私の顔になにか付いてる?」
「あっごめん。何でもないから。それじゃあ俺はこれで」
そう言って、俺は少女から早足で離れた。
俺以外のギフト所有者。その可能性を失念していたっ。
とりあえず、一旦この場所を離れよう。
情報量が多すぎて思考が追いつかない。
それにあのギフト、なんだが嫌な気配がする。
いろいろと通知みたいなのが出ていたが、それも全部後回しだ。
「……あ、まって――――」
後ろから声が聞こえるが知ったことではない。
俺は振り返ることもなくその場から立ち去った。