神様とギフト 3
「………………知らない天井だ」
…………いや、全然知ってるけどね?
普通に俺の部屋の天井だし。
なんとなく言ってみたくなっただけ。
にしても……
「特に変わった感じはしないな」
うん。本当に何も変わってない。
強いて言えば、目覚めが異常にスッキリしてることぐらいだな。
やっぱりというか何というか、あんな神様(自称)もしくは(笑)の言うことを一時でも信じた俺が馬鹿だったよ。
って、なんで俺夢に文句言ってんだろうな。
目も覚めたことだし、飯食って風呂入って……そう言えば今何時だ?
「げっ、もう12時かよ……」
見ると、12時の少し前だった。
普通に深夜だ。
どうやら予想以上に寝てしまっていたらしい。
俺って一人暮らしだからな。
誰も俺を起こす奴なんていないし、悲しいことに、起こしに来てくれるような美少女幼馴染もいないのだ。
まあ、正確にはひとり暮らしに”なった”といったほうが正しいか。
一年前、花奏が交通事故で他界。その時に両親は引っ越してしまったのだ。
と言っても、俺も高一だし。一人暮らしは気楽でいいのだが。
そんなことどうでもいいか。
とりあえず飯はいいや。風呂にだけ――
――――ジャラッ
「ん?」
鎖の擦れる様な音と、右手に違和感を感じて視線を落とす。
するとそこには、細かな美しい六本の黒い薔薇の装飾の施された真っ黒な懐中時計が俺の掌に収まるような形で握られていた。
手の違和感の正体はどうやらコレだったらしい。
鎖の擦れる様な音はこの懐中時計に付いているチェーンだろう。
と言うか、あれ? 俺こんな懐中時計持ってたか?
「まさかとは思うが、これがギフト……だったり? いやいやそんなまさか! 第一アレは夢の中での話で――」
――――もし、あの夢の中での話しが本当だとしたら?
そんなバカな考えが脳裏に浮かぶ。
だが、もし、もしもだよ? あの話が本当だったとすれば……。
ゴクリと唾を飲み、真っ黒な懐中時計を持ち上げる。
深く、深く深呼吸をして慎重に、そしてゆっくりと蓋を開いた。
瞬間、俺の脳内にファンファーレが鳴り響いた。
「な、なんだ……!?」
辛うじて懐中時計を投げ出さずに済んだが、割と危なかったな。
と言うかマジで何なんだ? いきなり鳴ったぞ!?
あたりをキョロキョロと見渡す。
すると、目の前にゲームの画面のようなものが表示されていることに気がついた。
「文字? もしかしてメッセージか何かか? えーっと、『貴方が与えられた特別な力は万物の時間を操作することのできる能力、《――時廻――》です。そしてその媒体となる懐中時計型ギフトです。貴方の思うがまま存分にお使いください』……って、え? 時間? マジ、で……?」
時間って、見ただけでわかるチート級能力だぞ!?
使えるの? 俺が? マジで!?
俺は早く能力を使ってみたいという気持ちをぐっと抑えた。
何が起こるか分からないからな。
最低限、この視界に表示されている画面に目を通してからだな。
そう思いながら、消えたメッセージ画面の次に表示された画面を見た。
―――――――――――――――――――――――――――――
名前:水無月景 性別:男
P:000,000,000/100,000,000
体力:10 筋力:10 魅力:10
能力
●《――時廻――》LV:1
┣《時間加速》/01:00
┣《時間減速》/01:00
┗《時間停止》/01:00
ギフト
●懐中時計型
―――――――――――――――――――――――――――――
ヘルプを見るに、どうやらこの技名の横に書いてある時間は一日のうちに使える最大時間らしい。
例えば《時間加速》を30秒間使ったとしたら、その日のうちに使用できる《時間加速》は残り30秒、みたいな感じだ。
だが、それでもこれは十分すごいのではなかろうか。
しかもLVがあるってことは、上がればその分使える時間も増えるってことだろ?
もしかしたら他にも解放されるかもしれないし、楽しみにしておこう。
あと、体力・筋力・魅力については、”クエスト”や”行動”でポイントを集める時に楽になるらしい。
手に入れたPを消費してそれらの数値を上げることも可能、と。
「さてと、次はクエストについてだが……っと、これか」
画面を”クエスト”の一覧に切り替えて、ヘルプを眺める。
わかったことは”クエスト”は『採取クエスト』と『討伐クエスト』の二種類があるということだ。
だが、正直ヘルプを見てもよくわからない。
『採取クエスト』には植物らしき名前がいろいろと書いてあるが、生憎と見たことも聞いたこともない。
『討伐クエスト』に至ってはスライムとかゴブリンとか、現実には存在しないファンタジーの住人の名前が書かれている。
一体どこで倒すのだろうか……。
仕方ない。一旦保留だな。
他にもいろいろとあったが割愛するとしよう。
ただ、”行動”に関しては特にこれといった情報はなかった。
よって初めから”行動”でのポイント獲得に頼るのは危険だろう。
と言っても、”クエスト”も怪しさ満点でよくわからないし……。
どこから手をつけたものか。
……いや、ここは普通能力からっすよね。
実のところ、ヘルプ見てる時からウズウズしていました。はい。
今はまだ一分しか使えないが、どうせもうすぐ12時だ。
恐らく時間は回復するだろう。
つまり、思う存分フルで時間を使っていいということだ。
まさに絶好のタイミング。ここまできて試さない手はないだろう。
そう思いながら、俺は《――時廻――》の技名を口にした。
「《時間停止》」
そう呟くのと同時に、世界が停止した。
周囲の微かな音すら消え去り、外に出れば車や信号だけでなく、タイミングよく降っていたらしい雨も全て空中で停止していた。
「この時計……本当に時間が操れるのか」
部屋に戻ってきた俺は《時間停止》を解除し、そんなことを呟いた。
別に信じてなかったわけじゃないけど、実際にやってみるとやはり驚いてしまう。
だがおかげで、この力が本物ということがよく理解できた。
そうなると、必然的にあの《神》を名乗る女性が言っていた事の信憑性も上がってくる。
もしかしたら、本当に俺の願いが叶うかも知れない。
――――花奏が生きている未来を作る。
それが俺の願いであり、他の何を差し置いても成し遂げたいことだ。
懐中時計型ギフトを握り締めながら、俺はその事を再確認した。