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異能力研究部とストーカー令嬢 13

「……雰囲気が変わったわね? でも無駄よ。私はすでにあなたの情報を取得しているもの」

「……情報を取得?」


 それを聞いて、ふと考える。

 そう言えば、桔梗時雨の能力とは一体何なのだろうか。

 最初は糸を付着させた対象を分解なりなんなりする能力だと思っていたが、その後の武器の創造や超回復とはあまりにも接点がなさすぎる。

 けど今の言葉……『情報を取得』? ますます分からない。

 例えば、景にかけていたのが『情報を取得する能力』だったとして、私は糸に触れていない。能力はかけられていないはずなのに、どうやって?


 思考をクリアにしたおかげで、疑問と仮説が高速で巡る。

 その結果、私が出した結論は情けなくも“分からない”だった。

 何も分からない。確認できている能力がバラバラすぎる。

 一部の例外を除き基本的に能力は一人につき一つだ。桔梗時雨がその例外でないのなら、確実に何かしらの共通点があるはず……。


「……」


 ふむ、さっぱり分からない。

 一方的に切りすぎた。こんなことならもっと加減して能力を確かめてから切っておけばよかった。

 桔梗時雨の言うことが本当なら、現状一方的に情報を握られている状態だ。

 どこまで私の事を把握しているのかは分からないけど、能力だけなら正直そこまで驚異でもない。

 一方的に能力の詳細を知っているからとイキがっているのなら失笑ものだ。


「……その程度で勝てるほど私は弱くない」

「あら、本当にそうかしら? 情報というものは偉大な力よ。その気になればそれ一つで世界すら統べることが出来る程にね」


 大袈裟とも取れない説得力を持つ声音に、私は警戒色を強めた。

 含みのある笑みを浮かべながら、桔梗時雨は右手を虚空に伸ばす。


「その力の一端、あなたにみせてあげる――[武器化]」


 桔梗時雨がそう口にすると、半透明の糸がどこからともなく出現・収束し、幾重にも折り重なることで男とも女ともとれない身長165cmほどのマネキンのようなモノを形成した。

 伸ばされた桔梗時雨の手が、ちょうど頭に乗っているような形になる。


「……マネキン?」

「その呼び方はあまり好きではないの。私はこれを"電子人形(デジタル・パペット)"と呼んでいるから、あなたもそう呼んでくれると嬉しいのだけれど」


 くだらないことをお願いしてくる桔梗時雨を無視しつつ、”電子人形”とやらの動きに警戒する。

 私の経験上、人型の[武器化]は所有者の意思を汲み取り独立して動く場合が多く、簡単に一対二の状況を作り出されてしまう可能性が高い。

 警戒しておくに越したことはないだろう。


「はぁ……、そんなに警戒しなくても現時点で”電子人形コレ”自体に戦闘能力は無いわ。むしろ、警戒すべきはここから」


 桔梗時雨は半透明の糸を指先でくるくると弄りながら、自分の能力の一部を開示し始めた。


「私はね、この《繋魂之糸》を繋げた対象の情報を読み取ることができるの。人間に繋げれば肉体の情報だけでなくその人すら忘れている記憶やその時の感情の揺らぎすらも赤裸々に把握することができる。文字通り、その人のすべてを知ることができるの」


 嘘は……言っていないように見える。でも、それですべてでもない。

 私の血が溶けたり、ありえないほどの回復能力の説明がつかないから。

 でも、少なくともこれで景に一体何をしていたかは分かった。

 桔梗時雨、あの女は景の記憶を覗いていたのだ。私がここに来るまでの間ずっと。


 真相を知り、私は再び心の奥から怒りが湧いてくるのか分かった。

 だが、ここで怒りに身を任せてしまったら先程の二の舞になる。血が出そうなほど拳を強く握りしめ、どうにか怒りを抑える。

 そんな私の心情を知ってか知らずか、桔梗時雨は不敵な笑みを浮かべながら続ける。


「話は少し戻って”電子人形”についてなのだけれど、これはいわば空の器なの。なんの能力もない代わりに、どんなものにも染まることができる」


 そこで一度言葉を区切り、桔梗時雨は改めて私の目を見た。


「さぁここで問題です。そんな空の器に人間の情報を丸々一人分入れたらどうなるでしょうか」


 その言葉を聞いた瞬間、先程の『私はすでにあなたの情報を取得しているもの』というセリフが脳裏をよぎった。

 全身を嫌な予感が駆け巡り、冷たい汗が頬を伝う。


「思う存分絶望して頂戴? ――《情報投影デジタル・プロジェクション》」


 ”電子人形”が光を発し、グネグネと形状が変化していく。

 身長は縮み、白銀色の髪は腰辺りまで伸び、女子の制服を身に着け、手には真紅の鋏を持っている。

 毎日鏡で見ているその姿を、他でもない私が見間違うはずもない。

 アレは、私だ。細部まで作りこまれた人形とか、そういう次元の話じゃない。

 桔梗時雨の言っていることが本当だとしたら、私と同じ肉体と記憶を持ったもう一人の私自身だ。


「もう分かっていると思うけれど、もちろん能力やギフトスキルだって使えるわよ?」


 そんなことは分かっていると思いながら、目の前に立つ自分自身を見据える。

 いつの間に私の情報を取得したのかと思っていたが、なるほど、今までの戦闘はひたすら時間稼ぎだったのかと今更ながら納得する。

 この際『どうやって』の部分はどうでも良い。どうしようもないことを考えても時間の無駄にしかならない。


「……これなら、ただの独立人形の方が良かった」


 そう小さく呟くながら、《死血之大鎌》を発動して構える。

 目の前の私も、全く同じ動作で大鎌を構えた。

 嫌になるほど綺麗な構え。

 隙が無く、先に動いた方が斬られるという確信だけがある。

 それは”電子人形”も分かっているのか、自分から動こうとはしなかった。

 膠着状態が続く。脳内でどんなパターンで攻撃を繰り出してみても、私ならこういう風に対処するという思考が同時にやってくるせいですべて自分自身に否定される。

 だがそれは、すべて私と”電子人形”が一対一で戦った場合の話だ。

 向こうには桔梗時雨も居るのだから、実際はこちらが圧倒的に不利。更に言えば、桔梗時雨が所有している情報が私だけとは限らない。

 もしも景の情報の取得をすでに終えているとしたら、その時は確定で私の負けだ。


 唯一、こちらに勝利への鍵があるとすれば、それはどの段階で情報の取得を終わらせたのか。その一点だ。

 もし、万が一、私が考えるよりも前に情報の取得を終え能力を解除していたとしたらあるいは――


「さっきまで私をボコボコにしていた人間が今じゃ警戒して身動き一つとれないというのはなかなか面白いシチュエーションなのだけれど、景くんが起きたら面倒だしそろそろ均衡を崩しましょうか――《情報投影:風刃乱舞テンペスト・ブロー》」


 痺れを切らしたらしい桔梗時雨が再度”電子人形”に対し能力を発動する。

 すると、”電子人形”の周囲に暴風が吹き荒れた。

 その姿はまるで嵐を身に纏っているかのようで、ただそこに立っているだけで途轍もないプレッシャーをひしひしと感じる。


 能力の重ね掛け……。まさかとは思ってたけど、やっぱりできるんだ。

 それ自体に驚きはないけど、重ね掛けした能力があの《――暴風テンペスト――》なんて私もつくづく運が悪い。


 私の脳裏に《――暴風――》の所有者と戦った時の記憶が蘇る。

 《――暴風――》は風を操作する能力だ。クラスはAで、私の《――死血デッド・ブラッド――》ほどではないけれど、とても近接戦闘に優れた能力だ。特に身体能力の強化とすべての攻撃動作にワンテンポ遅れてやってくる風の追加攻撃付与の二つの効果を持つ《暴風乱舞》はとても厄介な能力だったと記憶している。

 とは言え、身体能力の強化はその実大したことはない。

 所詮は私の死血武器と同じくらいの強化。重ね掛けは面倒だけど、言ってしまえばそれだけ。

 本当に厄介なのは風の追加攻撃付与。アレの威力は自身の膂力に大きく左右される。

 つまり、私の力を持つ”電子人形”が使えば、恐らくそのすべてが一撃必殺の威力を誇る私にとって最悪の能力と化すだろう。


 本当に面倒なのを組み合わせてくれたなと、悪態をつきたくなるのを我慢する。

 でもまぁ問題はない。

 《暴風乱舞》は厄介極まりない能力だけど、過去に降した能力であることに変わりはないし。それ故に弱点も知っている。


「……うん、何も問題ない」


 総合的に見て私はそう判断した。

 それが気に食わなかったのか、桔梗時雨の身体がぴくっと揺れる。


「随分と余裕そうね? その態度がいつまで続くか、見ものだわ」


 桔梗時雨が右腕を肩の高さまで持ち上げると同時に、”電子人形”の脚に力が入るのが分かった。

 そして、まるで銃の引き金でも引くかのように親指と中指を擦り合わせ、パチンッと高い音を鳴らす。


「――殺しなさい」


 刹那、超高速で眼前に迫る真紅の大鎌をバックステップで回避する。

 宙を切った大鎌は勢いよく床に衝突し、部屋中に轟音を響かせる。続いて空気が破裂するかのような音と衝撃が走り、あたりに暴風をまき散らした。

 想像以上の威力。だが、驚くべきことに床には一切の跡が残っていなかった。

 床をぶち抜いてもおかしくないほどの威力だったのに、実際には傷一つついていない。

 桔梗時雨の能力か、それとも情報を投影した能力か。詳細は定かでないがこれは私にとっても好都合だ。

 床や壁が壊れないとしたら、もはや手加減する必要はない。


「……《死血之弾丸》」


 腕を大きく振るい、出来るだけ広範囲に血の弾丸を放つ。

 ”電子人形”はたった一回大鎌を振るうだけですべて弾いてしまうだろうが、それこそが狙い。

 血の弾丸はただの目くらまし。加えて自らの大鎌で一瞬だけ視界が塞がる。私はその隙に”電子人形”の背後に回り込んだ。

 でも、まだ大鎌は振るわない。どうせ今振っても避けられるだけ。だからもう少しだけ待つ。

 すると、”電子人形”は一歩引きながら横薙ぎに大鎌を振るった。

 こちらの攻撃を警戒しているが故の引きながらの攻撃。

 ただ避けても追撃される。かといって能力では間に合わない。ならば避けつつこちらも攻撃を繰り出す。そもそも腕力で勝っているのだからぶつかり合ってもこちらが勝てる。避けようものならその隙に能力を発動する。

 そこまで考えての最善の一手。だからこそ――

 

「……うん、私もそうする」


 その一手は実に読みやすい。


 追撃の暴風がくると同時に大鎌を振るい、そして手を放す。

 支えを失い宙を舞う大鎌を暴風が拾い、そのまま勢いよく”電子人形”の後方に吹き飛ばした。


 武器を手放すという意味不明な行動を見て、困惑の表情を浮かべる”電子人形”。

 自分の意図すら読み取れない哀れで情けない人形に、私は嘲笑気味な笑みを浮かべながらそっと呟く。


「……《死血之縛鎖ブラッド・チェーン》」


 瞬間、飛ばされた《死血之大鎌》が無数の鎖へと変化し、”電子人形”へと飛来する。

 突然の私の奇行に驚くあまり、私の血で出来た物体から意識を外した。

 その時点でお前の負けだ。


「……[武器化]」


 鎖に身体を絡めとられ身動きが取れなくなっている”電子人形”の首に、私はそっと[武器化]した鋏を突きつける。


「……景が寝ててよかった。私のこんな情けない姿、例え偽物でも見られたくない」


 力を込め勢いよく鋏を閉じると、私の首はまるで紙切れのように軽く滑らかに両断された。

 少しの間床に転がる自分に酷似した頭部を冷めた目で見つめた後、[武器化]した鋏を桔梗時雨に向ける。


「……次はあなた」

「……あなたのそれ、自分の生首に向けるにしては冷た過ぎないかしら?」


 若干引き気味な桔梗時雨の言葉に、私は小首を傾げる。


「……偽物相手に思うことなんてない。それよりも、これ本当に私? いくらなんでも弱すぎる」

「それは私のセリフなのだけれど……まさかあそこまで一方的な戦いになるなんてね」

「……私は、てっきりあなたも同時に戦うと思ってた。どうして来なかったの」

「どうしてって……ふふっ、そんなの決まっているでしょう? ”電子人形”なんて所詮時間稼ぎに過ぎないからよ」

「……時間稼ぎ?」

「だってそうでしょう? 私の本来の目的は別にあなたを殺すことではないのだから」


 一瞬、何のことか分からなかった。

 目的は別にある? 殺し合おうといったのは桔梗時雨の方なのに?

 桔梗時雨の言葉が頭の中をぐるぐると回る。血を消費しすぎたからか、それとも気づかぬ内に少しずつ蓄積された疲労のせいか、なかなか思考がまとまらない。


「さっきはあなたが邪魔してくれたお陰で途中で止めちゃったのよ。さすがにあなたの相手をしながらでは楽しめないし、邪魔された腹いせもあったから少し相手をしたけれど――」


 そこで一度言葉を区切ると、桔梗時雨は私の方をジッと見て、そして、ニタァと暗く恍惚とした笑みを浮かべた。


「――あなたが”電子人形”と遊んでくれたお陰で、最後まで視ることができたわ」


 ありがとう、そう告げる彼女の手に握られていたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()――


「……うそ」


 普段なら一瞬で気が付けたであろう答えに、ようやく辿り着いたその時には、もうすべてが遅かった。


「おやすみなさい――《情報投影:時間停止》」


 いつも景の口から聴いていたその単語が紡がれた瞬間――何故か奇妙な浮遊感に襲われた。


「――悪い、遅くなった」


 それは、とても聞き覚えのある声だった。

 待ち望んでいた、ずっとずっと聞きたかった、この世界で唯一私を安心させてくれる人の声。


「……景っ」


 気が付くと、私は景に所謂お姫様抱っこのような形で抱えられていた。

 自然と景のことを至近距離で見上げる形になり、先程とは違う意味で脈拍が早くなるのが分かった。

 五月蠅いくらいに鳴っている心臓の音が景に聞こえてはいないかと心配になる。

 でも、これは仕方ないと思う。

 絶体絶命のピンチをこんな風に助けられてドキドキしない女の子なんていない。


 ボーと見つめる私の視線に気が付いたのか、景は心配そうに私に視線を向ける。

 景と目が合う。

 私は今、どんな顔をしているのだろう。

 自分では良く分からない。

 分からないけど、顔が真っ赤に染まっているだろうことは分かった。

 そんな顔を見られていると思うと途端に恥ずかしくなり、私は顔を隠すように景の胸に顔を埋める。


「……景、遅い」


 ぼそりと呟くと、景は苦笑気味に笑った。

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