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異能力研究部とストーカー令嬢 7

 さ、流石にもう動いたりしないよな……?


 怖くはないが、お腹に結晶が突き刺さる感触が若干トラウマになっている俺は、警戒しながら結晶花に手を伸ばす。

 だが、それ以降結晶花が動くことは無く、俺の警戒は杞憂に終わった。


 まぁそうだよな。さっきのが本当のラスボスだったんだろうし、これ以上動くわけがないか。


 摘み取った結晶花を持って白亜の所に戻る。

 すると白亜はぱちぱちと手を鳴らした。


「……クリスタル・ミミック討伐おめでとう。これでもうほとんどクエストクリアだよ」

「ようやくか。流石に疲れたな……」


 近くの結晶を鋏で切り裂いて簡易的な椅子にし、その上に腰かける。

 その隣に白亜が腰を下ろした。

 休憩しつつ、今日の戦闘を振り返る。


 俺はこの”クエスト”だけですでに2回死んでいる。

 正確に言えば致命傷クラスの攻撃を2回食らったんだが、戦闘が出来なくなるんだから同じことだろう。

 どっちみち回復系の能力のない普通の能力者なら死んでる。

 致命傷を負って動けない人間を野放しにしておくほどモンスターは甘くないだろう。

 

 ……今回も、能力に恵まれたな。


 白亜の云う通りだ。

 これからの”クエスト”は探索の難易度もモンスターの狡猾さも桁違いに上昇するんだろう。

 今のままじゃダメだ。まだ、俺は弱い。

 レベルを4に上げた今でも黒猫に一対一では勝てないだろう。

 なにより、能力に頼りきりの今の戦い方じゃ長期戦は出来ない。

 相手が俺の想定を超えた質と量で来られたら対処しきれない。必ず俺の能力の使用限界が先にくる。

 だからこそ、俺自身が強くならないといけないんだ。

 《時間加速》による処理速度の上昇が無くても近接戦闘で相手に後れを取らないくらい強くならないとダメなんだ。

 ただ単に”クエスト”をこなすだけじゃダメ。

 じゃあどうするか。

 簡単だ。近接戦闘のエキスパートに戦闘を習えばいい。


 俺は隣に座る白亜を見た。 


「……?」


 可愛らしくこてんと首を傾げる。


「白亜、俺に戦い方を教えてくれないか」

「……戦い方?」

「今日の戦いで気付いたんだ。俺はまだまだ近接戦が弱い。加速ありでようやくだ。でも、それじゃあこれから先戦っていけないと思うんだよ」


 時間操作の能力は万能なようで万能ではない。

 それは俺が一番よく理解している。

 だからこそ――


「戦闘でのレパートリーは出来る限り増やしておきたい。これからも戦えるように、能力に頼らない戦い方を覚えたいんだ。だから、俺に戦い方を教えて欲しい。付き合ってくれるか?」

「……ん、任せて。私の技術でいいなら、いくらでも教える」

「ありがとう」

「……お礼は必要ない。私にも打算があるから」

「打算?」

「……景に戦い方を教えている間、ずっと景と一緒に居られる。私はそれが一番嬉しい」

「ホント、お前はいつも嬉しいことを言ってくれるな」

「……私は事実を言ってるだけ」

「分かってる。だからこそ嬉しいんだよ」


 白亜の言葉に嘘はない。

 それが分かってるから、白亜が本当に俺を必要としてくれてるって分かるから、俺も心の底から嬉しいんだ。


「俺も……白亜と一緒に居られるのは嬉しいし、好きだよ」


 白亜と出会ったばかりの頃では考えられなようなセリフ。

 だが、今となってはまごうことなき本音だ。

 今となっては白亜といる時間がほとんどで、一緒じゃない時間の方が珍しい。

 それでも、まったく退屈せずに居られて互いに楽しいと思えるのは、案外凄い事なんじゃないだろうか。

 別に会話が弾むわけじゃない。何か楽しい遊びをするわけじゃない。

 でも楽しい。会話が無くても、遊ばなくても、一緒にいるだけで癒される。

 そんな相手が世界中に何人いるだろうか?

 そして、その相手とずっと一緒にいる権利を持つ人間が、いったい何人いるだろうか?


 本当に、俺は恵まれていると思う。

 能力にも、周りの人間にも。

 

「…………景のそういうところ、ずるいと思う」


 白亜がぼそぼそと何かを呟いた。


「え? 何か言った?」

「……ううん、何も。ただ、私も好きって言った」

「そっか」


 こういう時、俺は返答に困ってしまう。

 白亜のいう『好き』が、俺のいう『好き』とは若干違ったニュアンスを含んでいるから。

 それが分からない程、俺は鈍感じゃないつもりだ。

 でも、俺が好きなのは別の人。俺じゃあ白亜の気持ちに応えられない。

 それは白亜もわかっているのだろう。

 だから、これ以上は踏み込んでこないんだ。


 俺はそのことに申し訳ないと感じつつも、どこか安心していた。

 今の関係を崩さずに一緒に居られるからだ。


 ――じゃあ、白亜が一線を越えた時、お前はどうするんだ?


 無意識のうちに、俺は自分自身に問いかけていた。

 答えが出ない事なんて分かりきっていて、それがどうしてかも分かりきっているはずなのに。

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