異能力研究部とストーカー令嬢 6
穴の開いていたお腹をさすりながら空中で静止している結晶花を見つめる。
付いていた四枚の葉はそれぞれが違う方向に伸び、周囲の結晶と同化していた。
見た感じ今までと同じ結晶を操作するタイプの敵みたいだけど……果たして本当にそうか?
状況的にあいつががラスボスであることは間違いない。
だとしたらもっと他に何か秘密があると見るべきだろうな。
油断なく[武器化]した鋏と時滅銃を構えていると、そんな俺の考えを肯定するように結晶花に変化が訪れる。
摘み取る際に折った茎の先から根のようなものが伸び、絡み合い、人型の結晶を作り出した。
俺はその人型の結晶を見て目を見開く。
――それは、結晶で出来た俺だった。
同じ顔、同じ服、同じ背丈、どこからどう見ても自分自身にしか見えなかった。
俺の脳内にミミックというモンスターの名前が浮かぶ。
この敵もミミックと同じようなモンスターなのだろうか?
仮にそうだとして、問題はどこまで模倣できるタイプなのかだが……最悪の場合、なかなか面倒なことになりそうだな。
チラッと白亜を見る。
白亜に聞いたら一発で分かるが、それだとつまらないよな。
ようやく面白そうな敵が出てきたんだ。
せっかくだし楽しもうじゃないか。
さぁ、どう来る?
面白そうなので相手の出方を窺っていると、ミミックの右手がグニャグニャとスライムのように変形・変色し、真紅の大鎌を造り出した。
どこか見覚えのあるその大鎌を見て、思わず眉を顰める。
あれは白亜の《死血之大鎌》か?
ただの贋作か、それとも性能まで忠実に再現された完全コピーか。
そろそろ試させてもらおうか。
「白亜の大鎌ならこのくらいは防げるだろ」
時滅銃をミミックに向け引き金を引く。
バシュンッと何度聞いたかもわからない発砲音が鳴り響き、レーザー弾が牙を剥く。
――だが、弾丸がミミックに触れることは無かった。ミミックは、俺が見ている目の前で消え去った。
そして、気が付くと、大鎌を振り下ろした体勢で俺の後ろに立っていた。
「は、ぇ……ッ!?」
胴体と両腕に鋭い痛みが走り、次の瞬間、俺の身体は傾いていた。
≪身体のダメージが規定値を超えました。能力《時間復元》を自動発動します。残り22/24回≫
俺の身体が大鎌によって両断されたのだと、《時間復元》が発動するまで気が付かなかった。
速いなんてものじゃない。俺が認識できないレベルの速度なんてあり得ない。
それこそ黒猫のような転移や、俺みたいな時間停止でもない限り――
「……いや、まさかそんな」
こいつ、時間を止めやがったのか!?
俺の額を冷や汗が流れる。
確かに、白亜の大鎌を使えている時点で考えるべきだった。
姿すら俺なんだ。俺の能力を使えても何の変哲もないだろう。
コピー条件はなんだ? 白亜の能力を俺の姿で使ったということは姿は関係ないはず。
俺が使ったことのある能力をコピーしたのか?
だとしたら一応の辻褄はあうが……となるとあれもこれも能力を使えることにならないか。
白亜の能力はまだいい。今日は《死血之戦乙女》を使っていないからな。後はめちゃくちゃインファイトが強いってくらいだ。
問題は俺の能力。
《時間停止》は言わずもがな、《時間加速》や《時間乖離》、《時間復元》まで使えるという事になる。
付け加えて、まだ不確定だがギフトスキルも使えるとみておいた方がいいだろう。
単純計算で俺の能力と白亜の能力のハイブリット。
だがまぁ、攻略法が無いわけじゃない。
時間を止めたらそりゃあ最強だよ。
でもこいつは知らない。
《時間停止》中に動けるようになる裏技を。
俺は右手を自分の胸に当て口を開く。
「俺は俺が動くことを許可する!」
時を同じくして、白亜の動きが完全停止した。
恐らくミミックが《時間停止》を使ったのだろう。
なんの警戒もなくゆっくりと落ち着いた足取りで近づいてくる。
そんな姿を見て微かに口角を吊り上げた。
「……《時間使用・10日》」
バシュンッ――と子気味の良い音が響き渡り、ミミックの胴体に風穴があいた。
ミミックの目が最大限見開かれる。
「止まってると思ったか? 時間操作の能力者相手に時間を止めて勝てるとでも思ったか? んなわけねぇだろ。初見不意打ちならまだしも、来るって分かってたら対処くらいいくらでもできるんだよ」
さらに両腕両足を打ち抜くと、辺りに飛び散った破片が風穴に収束し穴を塞いでしまった。
「《時間復元》か。そう言えばさっき使ったんだよな。やっぱ実際に使うことが条件なのか?」
ミミックは警戒しているのか俺の問いには答えない。答えられないのかもしれないが。
だが、ここまで来たら間違いではないだろう。
問題はその範囲だが、《時間停止》を使えるということはこの結晶洞窟内の全てか。
残りの疑問はコピーの精度だな。
「俺はお前の前で《時間復元》を二度使った。さぁ、お前は一体何回《時間復元》を使えるんだ?」
見たものだけをコピーするならこいつの上限は2回のはず。
今の銃撃で一度消費しているから残りは1回。
二度殺せばこいつは死ぬわけだ。
「ちょっと試させてもらおうか」
『――――――ッ!!!!』
そう言って時滅銃を構えると、ミミックは声にならない叫び声を上げる。
その叫びに呼応するように虚空に五つの穴が開き、俺が使ったものと全く同じ形状の時之楔が射出される。
俺は思わず笑ってしまった。
「ははっ! そうかそうか、5本か!」
これで確定した。
こいつは俺が使った分の能力しか発動できない!
だってそうだろう。絶体絶命のこの場面、こっちが5本すでに消費してるんだから、俺なら24本全部消費して物量で攻める。
それをせずにたった5本だけ出したってことは、つまりそういう事だろう。
「でも、それじゃあ俺には勝てねぇよ!」
ミミックと同じように5本の時之楔を射出し、ミミックの時之楔を絡めとる。
「《時間加速》!」
『――――ッ!!』
俺とミミックが加速するのはほぼ同時だった。
真紅の鋏と真紅の大鎌がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り火花が散る。
武器性能も身体能力もミミックの方が上。
そりゃそうだ。死血武器の身体能力強化に加えて白亜のインファイトがコピーされているのだから。
でもこれでいい。離れたら時滅銃が飛んでくるからな。そっちの方が厄介だ。
……少しずつ押されてきたな。そろそろか。
『――――』
俺の鋏が結晶の脚に蹴り上げられ手から離れると、それを好機と見たのか凄い勢いで大鎌の刃が眼前に迫る。
普通なら恐怖で動けなくなってしまいそうなシチュエーションだが、何度も何度も重症を負うたびに《時間復元》を使ってきたせいか、今の俺は怖いという感覚が麻痺してしまっていた。
だからこそ、俺はこの状況でも笑えるのだ。
このタイミングを、待っていた。
「[十二の神器・Ⅱ][武器化]」
呟くと同時に両手首に腕輪が出現したかと思うと、突如として光だし一瞬にしてガントレットを形成した。
左腕のガントレットで大鎌を弾き、左腕のガントレットでカウンターを決める。――ギフトスキルを添えて。
「[凱砕激震]ッ!」
――ドゴォォォォオォンッッッッ!!!!
地面が揺らぐほどの衝撃と爆音が鳴り響き、ミミックの上半身が粉々に砕け散る。
が、すぐに《時間復元》による自己再生が始まった。
「身体の大部分が吹き飛んだんだ。再生中に戦闘なんて器用な真似は出来ないよな?」
再生途中の結晶に右手を近づけ、デコピンの要領でその身体を弾いた。もちろんギフトスキルを添えて。
「[凱砕激震]」
――ドゴォォォォオォンッッッッ!!!!
再び地面が揺らぐほどの衝撃と爆音が鳴り響き、今度はミミックの上半身だけでなく下半身までが粉々に砕け散った。
その後再生する様子はなく、結晶花だけが残骸の山で優雅に咲き誇っていた。




