異能力研究部とストーカー令嬢 4
転送終了後目を開けると、そこはいつもの森ではなく洞窟の中だった。
出口は無いが、その代わりそこら中に生えている光を発する苔が辺りを明るく照らしている。
「今回は場所が違うんだな。今まではずっと森だったのに」
「……ん、Dランクからは森以外のエリアが追加される。今回は洞窟だけど、他にも火山地帯や雪山、遺跡なんかもある」
「へぇ、遺跡はちょっと行ってみたいな。宝探しみたいでわくわくする」
採取クエストなんだし、あながち間違いでもないよな。
採るものが植物や鉱石か宝かの違いだし。
「……一応、今回の”クエスト”についてのおさらい。手に入れるのはこの洞窟の一番奥に咲く結晶花という植物。それを採って来てそこにある容器に納めればクエストクリアになる」
白亜の指差した方を見ると細長い瓶のようなものが設置されていた。
「これって持って行っちゃダメなのか? わざわざここまで戻ってくるのって面倒だろ」
「……それは出来ない。そもそもあの瓶は動かせないから」
「動かせないって、固定でもされてるのか?」
「……気になるなら試しに持ってみたら? 多分一度死ぬと思うけど」
「……死ぬと言われて試すバカはいないと思うぞ?」
あの瓶を持ったらどうなんだよ。怖ぇな。
てか、それが分かってるってことは誰か試した奴がいるってことだよな?
試した奴本当に死んだのかとか気になることは沢山あるし非常に興味をそそられるが、流石に自分で試す勇気は無いな。
こんなくだらない好奇心で死ぬなんて御免だ。
「んじゃそろそろ行こうか」
「……ん」
ごつごつとした道を進んで行く。
洞窟に入るのはこれが初めてじゃないけど、やっぱり歩きにくいな。
俺みたいな加速をメインとする能力者にとっては最悪の環境だ。
戦闘中に転んだりしないといいけど。
「……景、次の曲がり角左から敵が来る。種族はリザードマン、数は3体、武装は片手直剣と盾。最初私は手出ししないから、頑張って」
「了解、任せとけ。――[武器化]、《時間使用・1日×10》」
時滅銃を展開し、曲がり角の方へと構える。
この洞窟がどのくらいの広さなのか分からない以上、無闇な時間の使用は避けるべきだろう。
だから初手は時滅銃で頭を狙って不意打ちで確実に1体仕留める。
残りの2体はそのまま銃でやれそうなら発砲、無理そうなら《時間加速》で近づいて至近距離から止めを刺す。
今までとやることは変わらない。自分の能力を生かして相手に捉えられる前に戦いを終わらせるだけだ。
一歩、二歩と足音が近づいてくる。
そして、1体目が曲がり角から姿を現した瞬間、その頭部目掛けて発砲する。
バシュンッ――っという音と共にレーザー弾が射出され、リザードマンのトカゲのような頭に着弾する。
「まずは1体」
続けて二発三発と発砲するが、流石に気付かれて後で避けられてしまった。
予想以上に素早いな。二足歩行なだけで元がトカゲだからか?
動きが複雑で捉えずらい。
でもそれだけだ。
素早いが、あくまでその程度でしかない。俺の速度には遠く及ばない。
「《時間加速》」
リザードマンが剣で斬り込んでくるタイミングで加速し、スローモーションになった攻撃を紙一重で避けると同時に新たにギフトスキルを発動する。
「[十二の神器・Ⅰ]!」
[武器化]ではない、俺の持つもう一つのギフトスキル[十二の神器]。
その効果は――他人のギフトのコピーを創り出すことだ。
手の中に出現した真紅の鋏を握り締める。
白亜に言って改めて登録させてもらったのだ。
だから俺は、白亜のギフトを使うことが出来る。
だが、このスキルの本領はここからだ。
先ほどコピーを創り出すといったが、ただのコピーではない。
これは、白亜の持つギフトを完全完璧に模倣したギフトなのだ。
つまり――
「[武器化]」
【鋏】型ギフトのギフトスキル[武器化]を発動する。
一瞬のうちに形成された巨大な鋏で突きを放ち、盾で防ぐよりも早くリザードマンの胸を穿つ。
続けて刺し殺したリザードマンの影から伸びる剣を時滅銃の銃身で受け流し、その隙に引き抜いた勢いでもう1体の喉を切り裂く。
超高速で行われる一瞬の攻防。《時間加速》の効果である行動速度、思考速度、認識速度などの上昇があってこそ出来る動き。普通の状態では絶対に出来ない戦い方だ。
もし加速無しであんな戦い方をしたら1体目はなんとかなるとしても2体目の攻撃を受けて最悪死ぬ。
本当に恵まれた自分の能力に感謝だな。
《時間使用》と[十二の神器]を解除して返り血を拭っていると、流れた血の上をパシャリパシャリと音を立てながら白亜が近づいてきた。
「……おつかれさま。最初に比べると動きがすごく良くなった。最初は走り回るだけだったのに、戦闘にも慣れてきた?」
「それもあるけど、一番は近接武器が手に入ったのが大きいかな。至近距離でやるならやっぱり銃よりも剣みたいに斬る感じの武器の方が楽だし、何より選択の幅も広がるからな」
「……[十二の神器]だっけ。流石”ローズシリーズ”、ギフトスキルも規格外」
「それは分かる」
一番初めに手に入ったギフトスキルがこんなに強いんだからもはや流石としか言いようがないな。
ちなみに補足しておくと、ギフトのコピー自体は触れるだけで可能だが、ギフトスキルを獲得するためには改めて自分の手で条件を満たす必要がある。
[武器化]で例えるなら”クエスト”を開始するみたいな感じだ。
だが、条件さえ満たせばオリジナルと同じスキルを使う事だって出来る。
[武器化]だけじゃなく、そのギフト固有のスキルすら獲得できる。
《時間使用》みたいなギフトスキルから派生した能力までは流石に使えないけど、まぁそれは仕方ないだろう。
これで相手の能力まで使えたらチートが過ぎるからな。今でも十分ヤバいが。
「……結構余裕があるみたいだし、もう少し戦ったら私も参戦する」
「確かに、思ったほど苦労しなかったな。白亜の口ぶりからしてもっと強いと思ってたんだが」
「……大丈夫。本番はこの後だから」
そう言うと、白亜はこっちと言いながら歩き出した。
俺はその後を付いていきながら白亜の云った言葉の意味を考えるが、答えはすぐに分かった。
「これは、凄いな……」
一面に広がる白銀の水晶。
それらすべてがキラキラと光を放っていた。
まるで異世界に迷い込んでしまったかのような幻想的な空間に、俺は思わず見入ってしまった。
「……通称『銀水晶の洞窟』。このエリアの本番はここからだよ」
確かに、明らかに雰囲気が変わったな。
幻想的な景色とは裏腹に感じる寒気。ジッと何者かに見られているかのような不快感。
近くに敵が居るな。気配も感じる。
でも、どこだ?
居るはずなのに、あまりにも曖昧過ぎて位置が特定できない。
視られているのに視線を辿れない。
「……さて、どこにいるでしょう」
「白亜にはわかるのか」
「……うん。景はわからない?」
「残念ながらさっぱりだ。でもまぁ、関係ないな」
相手がモンスターである以上いずれは攻撃を仕掛けてくるだろう。
だったら、その瞬間を先に見ておけばいい。
攻撃する瞬間、敵はその先に必ず居るのだから。
「白亜~ちょっとこっち来て」
「……?」
手招きしながら呼ぶと、白亜は首を傾げつつとてとてと近づいてきた。
俺の前まで来たところで、後ろに回り肩にそっと手を乗せる。
「……景?」
不思議そうに振り返りながら見上げる白亜に、俺は目を閉じ能力を発動させる。
「《時間閲覧・未来》」
瞬間、真っ暗だった景色が一変し、俺の姿が視界に映った。
今見ているのは白亜がこれから見る未来の景色。
触れた相手の過去あるいは未来を閲覧する、それが《未来閲覧》の能力だ。
敵の位置が分かる白亜なら、攻撃の瞬間確実にそっちを見るだろう。
その瞬間を閲覧させてもらう。
敵が攻撃してくる瞬間まで早送りしていると、一瞬だけ白亜の視界が揺れた。
同時に俺の身体を鋭い円錐のように変形した白銀の水晶が貫く映像が見える。
すぐに傷を再生させた俺は、時滅銃で水晶を破壊する。
すると、中から1匹の虫が飛び出してきて、俺に襲い掛かる。
だが、時を加速させた俺は軽く躱し、その虫を的確に撃ちぬいた。
なるほどな、水晶の中に虫がいるわけか。
そして、このタイミングこの角度から攻撃を仕掛けてくる、と。
核となっている虫の場所は飛び出てきた場所から大体わかるな。
情報が出そろったところで《時間閲覧》を解除する。
景色が元に戻り、目の前に何か言いたそうな目でこちらを見上げる白亜が現れた。
まぁ、言いたいことは分かるが、先にこっちを片付けさせてもらおう。
俺は敵のいる場所に視線を送り時滅銃を構える。
バシュンッ――と音を立ててレーザー弾が飛び出し、水晶を貫く。
「はい終わり」
「……景、それはズルい」
「心外だな。使える能力を使って何が悪い」
「……そうだけど、それじゃ次からは見分けられない」
「いや? そうでもないぞ」
そう言いながら上に時滅銃を向け発砲すると、ギィ……と短い断末魔が響いた。
白亜の目が見開かれる。
「……どうして分かったの?」
「お前と時間を共有したからだな。お陰で何となく見分け方が分かった」
明確にこうと説明は出来ないけど、感覚としてそこに居ると分かる。
裏技的な攻略法だけど、取り敢えずこれで不意打ちの対策は出来たかな。
「でも悪かったな、勝手に覗いたりして」
「……それは別にいいけど」
「良いのかよ」
「……ん、景になら見られても構わない」
「そう言われるとなんか照れるんだけど……」
白亜はこう言ってるけど、女の子が見ているものを勝手に覗くのは良くないだろう。
見られたくない記憶とかもあるだろうし、次からはちゃんと許可を取らないとな。




