異能力研究部とストーカー令嬢 3
桔梗時雨という自殺女と分かれた後、部室棟をくまなく探したが使えそうな部屋は空いていなかった。
初めて知ったことだが、部室棟の奥部は物置として使われているらしい。
そのせいで新しく使える部屋がないのだ。
まったくいい迷惑だな。片付けろよ学校側。
「……景、もしかして疲れてる?」
「まぁ、いろいろあったからな……」
確実に一生に一度有るか無いかっていう稀有な体験だった。
出来ることなら二度目は御免被りたいが……あの自殺女結局あの後どうしたんだ?
まさかとは思うが、あの後懲りずにまた自殺――なんてことはないよな……?
ちょっと心配になってきた。明日あたり様子を見てくるか?
女子高生に対して生死の確認なんておかしな話だけど、あんなことがあった後じゃ仕方ないよな。
助けた奴が死んでるかもしれないなんて最悪に夢見が悪いからな。
「……何があったの?」
「う~ん、どこから説明したらいいのか……まぁ、一言で言うと自殺を止めた?」
「…………本当に何があったの」
「本当にいろいろあったんだよ……」
俺は今日あったことを白亜に話した。
「……親衛隊が景を? ごめんなさい、私のせいで景に迷惑を掛けた」
「お前のせいじゃないだろ。ただ、面倒ではあるよな。毎回絡まれるのはだる過ぎる」
「……解体させる?」
「やめとけ、余計ややこしくなるぞ」
「……景がそういうならやめる。でも、解体させたくなったらいつでも言ってね。すぐに解体させるから」
白亜は、続いて「……ところで」と口を開く。
「……その自殺をしようとしていた女って本当に桔梗時雨って名乗ったの?」
「ああ、聞き間違いじゃなきゃそう言ってたな。なんだ、白亜の知り合いなのか」
「……ううん、違う。ただ名前は知ってる。景は知らないの? 桔梗の名は有名だと思うけど」
「……すまん、心当たりがない。俺って人の名前覚えるの苦手なんだよね。同じクラスの奴らですら怪しいのに他クラスの奴なんて覚えてないよ」
「……そう、それは知らなかった。覚えておく」
「いや覚えても別にいいことは無いぞ?」
「……ん、私が覚えていたいだけだから気にしないで」
そんなこと覚えてどうするんだよ?とは思ったが、まぁ別に良いかと考え直し脱線しかけた話を元に戻す。
「それで、どういう風に有名なんだ? あいつも確かに美人だったけど、白亜と違って有名になるほどのものでもなかっただろ」
「……ん、嬉しい。でもはずれ」
「じゃあ頭が良いとか? それともスポーツが得意とか」
「……どっちもはずれ。正解は家柄」
「家柄?」
「……ん、桔梗グループ、景も一度は聞いたことがあるでしょ? 医薬品をメインとした化学製品の開発で莫大な富を得た世界的な大企業。一部ではホテル運営までしてるっていう噂もある。桔梗時雨はその会社の社長の一人娘。つまり、超が付くお金持ち」
「いわゆる社長令嬢ってやつか。確かにそれなら有名になっても仕方ないな」
まぁ、俺は知らなかったけど。
でもそうなるとますますわからないな。
良いとこのお嬢様がどうして自殺しようなんて思ったんだ?
いや、お嬢様だから自殺しようと思ったのか?
ごくごくありふれた一般人の俺にはよくわからないけど、それだけでかい会社の社長令嬢ならいろいろとしがらみも多いだろうし。
そう考えれば一応辻褄はあうか。納得できるかどうかは別として。
「ま、今後話す機会もないだろうし、別に気にする必要もないか」
「……ん、気にしなくていい。それよりも私の方の成果を話す」
「部活の件か。どうだったんだ? うまくいったか?」
「……一応、作っても良いとは言われた。ただし条件を付けるって」
「おぉやったな! でも条件ってなんなんだ? 難しいのか?」
「……難しいと思う」
「一体どんな条件を付けられたんだ」
「……最低三人の部員を今週中にそろえること」
「なんだそれなら簡単じゃないか。天姫に名前だけ借りたらいい」
「……橘さんって部活に入ってたよね」
「あぁ、確か陸上部だったかな」
実際に部活をしている姿を見たことは無いが、以前そんなことを言っていた気がする。
ふむ、陸上部か。
天姫の陸上着姿、ちょっと……いや、すごく見てみたいな。
走り終えて上気した頬に、汗で張り付いた髪や服。
そしてその汗をタオルで拭っている姿が脳裏に浮かぶ。
……悪くないな。
「…………景、何考えてるの」
「べ、別に何も? それよりも天姫が部活に入ってると何か問題でもあるのか?」
「……私の記憶が正しければ、陸上部は兼部不可だったはず」
「えっ、マジかよ……」
天姫の名前が借りれないとなると、これは結構難問だぞ。
自慢じゃないが俺の交友関係は物凄く狭い。
というか天姫と白亜を除いたらほぼゼロだ。
当然ながら部活に入ってくれと頼める友達なんていようはずもない。
なんか自分で言ってて悲しくなってきたが、これは多分白亜も同じだ。
しかも俺たちが求めているのは普通の部員じゃなく、絶対に部活に来ない徹底した幽霊部員なのだ。
天姫だったら話が通じるから何とかなるが、それ以外となると変に怪しまれたりして”クエスト”に支障をきたす恐れがあるからな。
だからこそ同じ能力者を部員にするのが好ましいのだが、そう簡単に見つかるはずもなく……。
「今週中ってことは今日を除いて残り三日か……かなり厳しい状況だな」
そもそも能力者を探す方法自体確立できてない訳だし、もはや厳しいとしか言いようがないな。
「……とりあえず”クエスト”に行こ? 打開策はその最中に考えればいい」
確かに、部の設立に集中するあまりポイント集めの方を疎かにしては本末転倒だ。
「……そうだな、これ以上悩んでも良い案なんて出そうにないしそうするか」
そう言って、俺はギフトを壁に突き刺し鍵を開くように捻る。
「『開錠』」
瞬間、懐中時計を中心に黒色の光が広がり扉を形成する。
「じゃあ行くか。今日はどんな”クエスト”に挑戦しようか」
「……せっかくだし、まだ行ったことのない”クエスト”に挑戦してみようと思う」
「行ったことのない”クエスト”って何かあったっけ?」
今まで手当たり次第に”クエスト”を受けてきたからな。
E・Fランク帯の”クエスト”ならほとんど終わっているはずだ。
それともついにDランクに行くのか? 能力的にはまだまだ余裕だし、俺としては全然問題ないけど。稼げるし。
「……今回やるのは高ランクの採取クエスト。景にはそこで高ランクのモンスターに慣れてもらう」
「モンスターに慣れるって、それ必要なのか? 今までは普通に挑戦してただろ」
「……Dランクからはモンスターのレベルが跳ね上がるの。油断してたら痛い目を見ることになる。採取クエストだから本当は無理にモンスターと戦う必要はないけど、今回はそれを逆に利用する。十分に慣らしてから討伐クエストの方に挑もう」
「なるほど、そういう事なら賛成だ。死んだら元も子もないからな」
「……ん、決定」
今まで多くの”クエスト”を受けてきたが採取クエストは初めてだな。
それも高ランクの”クエスト”。
一体どんな出来事が待っているんだろう。楽しみだ。




