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異能力研究部とストーカー令嬢 2

 さて、取り敢えず部室棟に来てみたは良いが、どこから回ろうか。

 出来ることなら誰も来ないような端っこの部屋が望ましいが、良い場所ならすでに他の部が使ってるだろう。

 端っこじゃないにしても、周りに頻繁に活動する部がある場所は避けたい。

 まあ理想はこんなところだが、最悪中はカーテンか何かで隠せばいい。

 もちろん使い勝手の良し悪しもあるが、それは後回しでもいいだろう。

 問題は使ってない部屋があるかどうかだが。


「手前から順に見ていくか」


 頭上のプレートには演劇部、英会話部、文芸部、漫画同好会、オカルト研究会などなど、いわゆる文化部と呼ばれる部活の名前が連なっていた。

 見た感じ空いてる部屋はないか……。


「もっと奥の方に行けば……ん?」


 ふと近くの部屋から叫び声のようなものが聞こえて立ち止まった。

 こんな場所で何故叫び声が?と疑問に思いつつ目を向ける。

 黒色のカーテンで遮られて中は見えないが、確かにこの部屋から聞こえた。

 学校で叫び声何て、一体何の部活で――


「『白亜様愛好会』? …………えっ、白亜?」


 まさかとは思うが、ここってあの親衛隊が作った部活だったりするのか……?

 ごくりと唾を飲み込み、そっと扉に忍び寄って耳を澄ませる。


「隊長! こいつは分不相応にも白亜様に近づき会話を……! 今すぐに極刑に処しましょう!」

「「「「「異議なし」」」」」

「ちょ、ちょっと待ってくれっ! 俺が悪かったっ! もう二度と阪柳さんには近づかないっ! だから許してくれ……っ!!」

「言いたいことはそれだけか?」

「い、嫌だ……ッ、イヤダァァァァァァァァ――――ッ!!」


 中で一体どんなサバトが――!?


 思わず叫びそうになる口を両手で塞ぎどうにか堪える。

 お、恐ろしい! まさか学校のこんな場所で魔女裁判が行われていようとは!

 だがすまない、どこの誰だか分からない者よ。俺も結構白亜と関わってるからさ、入ったら確実に俺が殺されるんだよ。

 だから俺にはどうすることもできないんだ。

 中でやられている人には悪いが、ここは静かに立ち去らせてもらおう。

 

 扉の前を立ち去ろうと静かに立ち上がる――と同時にガラガラガラと音を立てて扉が開いた。


「なッ! 貴様は水無月景ッ!?」

「……人違いです」

「そんな訳があるかッ!」

「……ですよね」


 よし、逃げるか!


「あッ! おいお前らッ、こいつを絶対逃がすなよッ!」

「「「「「了解ッ!」」」」」

「了解じゃねぇ! クソッ――《時間加速》!」


 他の人にバレないくらいの極小の加速。

 それでも、元々レベルアップの恩恵で筋力が上昇していることも相まって、親衛隊の奴らを引き離すには十分だった。

 曲がり角を曲がったところで、俺は加速から停止に切り替え、親衛隊が追ってこないであろう部室棟の奥へと進んだ。

 中に誰もいないことを確認して適当な部屋へと入り身を潜める。

 流石にここまでは来ないと思うが、念のためしばらくの間隠れていた方がいいだろう。


「ふぅ……」


 息を吐き《時間停止》を解除すると、きょろきょろと辺りを見渡す。


 ここは一体何をしている部活なんだ?

 凄く広くて普通の教室くらいの広さがあるのに、そのほかには何もない。

 机も、本棚も、その他部として活動するのに必要なものが一切見当たらない。

 唯一、半透明のカーテンだけが陽の光を透過して、パタパタと風に揺らめいている。

 暖かな夕焼けの光と風が俺の身体を包み込む。

 出来ることならこんな場所を部室にしたいと思った。

 見た感じ誰も使っていないように見えるけど、鍵は空いていたし窓だって空いている。

 つまり今まで誰かがここにいたという事、この部屋が使われているという事の証明。

 でも、肝心の部員はどこに居るんだ?

 それらしい影なんて一つも――。


「あぁ、良い天気ね。暖かくて気分がいい絶交の■■日より。でも、もしも誰かがここに現れたら、その人が私の――」


 女の人の声がする

 一体どこから?


 その時、影が差した。夕焼けの光を遮る長い長い影。

 その元を辿ると、一人の少女のシルエットが、カーテンの向こうで揺れていた。

 ここにはベランダがあったんだ。気が付かなかった。

 ずっとあそこに居たのか? でも、それにしてはシルエットの位置が高い気がする。

 まるで――手すりの上に立っているかのような位置にあるシルエットに、俺の心臓はドクンッと大きく跳ねた。


 お、おい、冗談だよな……? まさかそこから飛び降りたりしないよな……?


 ゆらゆらと揺れるシルエットがふいに前に倒れ込み、俺に覆いかぶさっていた影が引いていく。

 自らの命を立つ行為。

 目の前でそれを目撃した俺は、思わず叫んでいた。


「俺の前で死んでんじゃねぇ……ッ!」


 最高速で時間を加速させ走り出す。

 花奏が生きたかったであろう未来を自分で手放すなんて許さない。

 これは完全な俺のエゴだ。相手からしてみれば余計なお世話かもしれない。

 それでも、許せなかった。

 俺の願いを冒涜するかのようなその行為に、どうしようもなく腹が立った。

 だから助ける、絶対に。余計なお世話だろうとなんだろうと関係ない。

 俺の願いにかけて俺のエゴを押し付けてやる。


 気が付くと、俺は少女の手を掴んでいた。

 甘栗色の長い髪をハーフアップにした可愛いというより美人系の少女は、自分の手を掴んでいる俺を見て目を丸くしていた。

 だが、すぐにその表情は一変し、少女は「あはっ」と笑い声を漏らした。


「まさか、本当に来るなんて……あぁ、あなたが私の王子様なのね」

「なに言ってるか分からないんだけどっ、取り敢えず引っ張り上げるからちゃんと掴まっててっ」

「えぇ、分かったわ。他ならぬあなたの頼みですもの」


 何を訳の分からないことを、と思いつつ少女を引っ張り上げベランダに降ろす。

 その間、少女は何故かこちらを恍惚とした表情で見つめていた。

 それからしばらく沈黙がこの場を支配した。

 自殺しようとした人間と何を話せばいいのか分からない。

 ただでさえ言動が意味不明なのに……なんであんなことしたんだとでも言えばいいのだろうか? それとも無事でよかったとでも言ってみるか?

 いや、俺への罵倒の方が先かもな。

 彼女の自殺を止めた、それ自体が間違っているとは思わない。 

 問題はそれが俺のエゴで行われたという点だ。

 それでなくても俺の前で死ぬなって叫んじゃってるし、彼女に何と言われようと仕方ないよな。


「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」

「え……あぁ、名前ね。俺は水無月景。そういうあんたは?」

桔梗ききょう時雨しぐれ16歳、誕生日は4月26日、血液型はAB型、身長は157cm、スリーサイズは上から――」

「ちょ、ちょっと待って! ストップストップ! そこまでは聞いてないから、名前だけで十分だから!」

「そう? ちなみに交際経験はないわ」

「だから聞いてないって!」


 まったく、なんなんだこいつは!?思わず叫びたくなったがぐっとこらえる。

 ここで叫んでも意味がない。一旦落ち着こう。

 ……いや、そもそももうここにいる必要はないのか。

 自殺は防いだ。もうこれ以上関わる必要もないだろう。


「それじゃあ、俺はこれで」

「あら、もう行ってしまうの? ゆっくりしていけばいいのに」

「丁重にお断りさせてもらう。これでも他にやることがあるんだ」

「そう、それは残念ね。もっとお話がしたかったのだけれど、用事があるのなら仕方がないわ。――それにしても、あなた何も聞かないのね」

「それはお前の変な言動についてか? それとも自殺しようとしたことについて?」

「両方よ」


 言いたいことくらいいくらでもあるよ。

 でもな、そのどれも俺には一切関係のないことだ。

 一度は救った。それでも死にたいなら俺の見ていないところで俺とは関係なく死んでくれ。

 もうこれ以上、俺のエゴは押し付けないから。


「何も言う気はない。言いたいことは沢山あるけど、もう関わることもない相手にあれこれ言ったところで無駄だろ」

「冷たいのね」

「そりゃそうだ。お前は俺の大切な人じゃないからな」

「ふふふっ、そうね、その通りだわ。あなたのそういう考え方、私は好きよ」

「そりゃどうも」


 そう言って、俺は部屋を出た。

 後ろから、「また近いうちに会いましょう? 水無月景くん?」と聞こえた気がしたが、俺は気にせずに扉を閉める。


 また変な奴にあってしまった。

 見た目や雰囲気とは裏腹に、何か闇を抱えていそうな少女。


 物凄く不穏な予感がするんだけど、流石に気のせいだよな?














「あの占い、本当だったのね」


 昨夜調べた占いの内容を思い出しながら、私はベランダに出て空を見上げる。


「『明日の夕方、ベランダで飛び降りて。その時あなたを救ってくれた人があなたの王子様、運命の人よ』。あの時は何を馬鹿なことをと思ったけれど、案外占いも捨てたものではないわね。本当に王子様に出会えたのだから、感謝しないと」


 そう言いながら、続いて先程出会った私の王子様の顔を思い浮かべる。

 そうすると、何故だか身体が熱くなった。

 顔が赤くなっていると自分でもわかる。

 実際に頬に触れてみると、確かに普段よりも格段に熱かった。

 ドクンッドクンッと心臓が激しく踊り出す。


 今までに感じたことのない感覚。

 私が私じゃないみたい。だけど、嫌じゃなくて、むしろ幸せが私を包んでいるとさえ思える不思議な感覚。

 あぁ、これが恋なのね。なんて素晴らしいのかしら。

 あなたのことをもっと知りたい。

 好きな食べ物は何かしら。嫌いなものは? 趣味があるのなら私も一緒に出来るように頑張って練習しないと。

 もっとお話がしたい。あなたは私と喋る時どんな表情をしてくれるのかしら。他の女と違う顔で私を見てくれるかしら。

 あなたに触れたい。あなたに触れられたい。もっと幸せな感覚に包まれたい。わたしを包むこの幸せを、あなたにも感じて欲しい。

 私の全てを知って欲しい。隅から隅まで、誰も知らないことまで何もかもを知って欲しい。

 あなたの全てを知りたい。誰も知らないことまで何もかもを知ることが出来たなら、私は幸せ過ぎて死んでしまうかもしれないけれど。

 でも、それでいい。あなたを知れて、あなたの幸せに包まれて死ぬのなら構わない。


「水無月景くん、私の全てを教えてあげるからあなたの全てを私に教えて? あなたの愛で、私を優しく包み込んで? 私たちならきっと大丈夫、全部うまくいくわ。だって、私はあなたを愛しているもの。この世で一番、この私があなたを愛しているもの」


 出来ることなら今すぐにでも追いかけたいのだけれど、今は我慢しないと。

 今はまだ準備段階。まずは私が彼を知るところから始めましょう。

 その後、じっくり私のことを教えてあげる。

 あなたに愛されるように私頑張るから。


「少しの間だけ待っていてね、景くん♥ 私の可愛い王子様♥」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そんな、正確な占いとなるとこれも異能力絡みか....? [一言] 今までで一番無駄な時間加速の使い方だった気がするぞ
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