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異能力研究部とストーカー令嬢 1

新章突入です!

 俺たちが《ギルド》から出ると、外はすっかり暗くなっていた。

 場所が屋上ということもあり、夜風が少し肌寒い。

 身体を摩りながら、俺はあることを思いだし「あっ」と声を出した。


「どうしよう、学校あるの忘れてた……」


 思い返せば、俺たちが《ギルド》に行ったのは昼休み。

 自由にできる時間なんて1時間くらいしかなかったのだ。

 黒猫と戦った後すぐに戻ってきたのなら、まだ可能性はあったが、白亜が目を覚ますのに数時間、そこからさらにゆっくりして戻ってきたからな。

 気が付いたらこんな時間になっていた。

 改めて時間の経過を確認すると、今まで気にしていなかったことまで気になりだす。


「……お腹すいた」

「だな」


 お腹をさすりながら呟く白亜に同意する。

 そう言えば昼も何も食べてないし、白亜が寝てる時は流石に食欲なんてなかったからな。

 どうしようか。


「……どこか食べに行くか?」

「……! 賛成」

「どこがいい? この時間ならまだどこも開いてるだろ」

「……それなら、景の家がいい。また手料理が食べたい」

「別にいいけど、良いのか? 多分ロクなものがないぞ?」

「……ん、大丈夫。景の作るものなら何でも美味しい」


 嬉しいような、そうでもないような。

 俺は別に料理が上手いわけでもなんでも無いんだけどな。

 それを褒められると何ともむず痒い気持ちになる。

 でもまぁ、白亜が良いって言うんなら別にいいか。


「まぁ、その前にここからどうやって出るかが問題なんだけどな。一応ドアに鍵は掛かってないけど、勝手に入ったらセンサーとかに引っかからないかな」

「……多分引っかかると思う。でも、私に任せて――《死血之獣ブラッド・ビースト》」


 いつも通り鋏で切り裂いた掌から血が溢れ出し、大きめの鳥のような血の獣が形成された。


「……これで私たちの荷物を取ってきて、これに乗って降りよう」

「ホント便利だよな、お前の能力」

「……ん、ありがとう」


 白亜が目を閉じるのと同時に、鳥が羽ばたき夜の学校の中に消えていく。

 もしもまだ学校に残っている人がいて、あの鳥を見たら驚くだろうなぁ。

 なんてことを考えつつ待っていると、


「……お待たせ」


 二人分の荷物と靴を抱えた鳥が戻ってきた。

 荷物を受け取り肩にかける。

 白亜は血を追加して鳥をさらに大きくしていた。学校の中に入った鳥の二倍以上の大きさになった鳥の背にまたがる白亜を見て、今更ながら気が付いた。


 ちょっと待って、これまさかこのまま飛ぶのか?

 支えとか掴まるものとか何にもないんだけど、大丈夫なんだよな?

 落ちたりしないよね?


「……しっかり掴まっててね」

「えっ、どこに?」

「……? 私にだけど」


 他に何があるの?とでも言いたげな表情で首を傾げる白亜とは対照的に、今更ながら俺は気恥ずかしさを覚えてしまった。


 さっきまで正面から抱き着いてたのに、今更何を恥ずかしがってるんだよ?

 いや、さっきの今だから逆に妙に意識してしまうのか。

 ふぅ、こんなのは平常心だよ平常心。

 なんともない風を装って、さっと掴まればなんとも思わないさ。


「じ、じゃあ、お邪魔します」

「……どうぞ」


 白亜の後ろに乗り、お腹に手を回す。

 暖かい、なんてことを考えていた。

 この時までは――


「いや、寒いわ!」


 風を遮るものが何もない空の旅は、想像よりも辛く、正直恥ずかしいとかそういう感情は一瞬にして消え去ってしまっていた。

 ……まぁ、結果オーライかな。


    ◆◆◆


 それから数日が経過した。


『今日も昼休み屋上に集合』


 白亜からいつものメッセージが送られてきて、俺はそれに『了解』と返信する。

 ここ数日ですっかり定着してしまった《ギルド》に行く時の流れだ。

 最近では登下校時や昼休み、放課後まで白亜と居ることが多くなった。

 と言っても、誰もが想像するような青春の一ページを刻んでいるわけではなく、淡々と”クエスト”をこなしているだけなんだけどな。

 お陰と言ってはなんだが、レベルが二つ上がった。合計6万Pの出費だ。

 しかし、未だに絶対領域を獲得するには至っていない。

 レベル上げに必要なポイントの量から見て、そう高くないレベルで手に入ると俺は踏んでいるのだが、一体どこまで上げればいいんだ?

 

 ちなみに、これは白亜に教えてもらったのだが、各レベル上げに必要なポイントは、

 2に上げるのが5,000P、

 3に上げるのが10,000P、

 4に上げるのが50,000P、

 5に上げるのが100,000P、

 6に上げるのが500,000P、

 7に上げるのが1,000,000P、

 8に上げるのが5,000,000P、

 9に上げるのが10,000,000P、

 そして10に上げるのが50,000,000Pとなっているらしい。まだまだ先は長いな。


 まぁ、願いを叶えるのにレベル上げは必要ないから、途中でやめるつもりだけど。

 だってレベル10になるのに必要なポイントは5千万だよ?

 目標金額の半分って多すぎるだろ。とてもじゃないが払えるような額じゃない。

 払うぐらいなら貯金する。そっちの方が早く願いが叶うからな。

 上げるとしても7ぐらいまでが限界かなぁ。


「じゃ、今日も行ってくる」


 昼休みに入ると同時に席を立ち、前の席に座る天姫にそう言った。


「最近はいっつも阪柳さんの所に行ってるよね」

「? そういえばそうだな」

「景が女の子と仲良くなるのは僕としても喜ばしいんだけどさ~、たまには一緒に食べようよ。僕も景と食べたいんだからね?」


 手を後ろで組み前かがみになりつつ若干頬を膨らませながら随分と可愛らしいことを言う天姫。

 その一つ一つの動作が妙に可愛らしくて、思わず抱きしめたい衝動にかられる。 

 わかっている、天姫は男だ。わかっているのだが、それでも構わないんじゃないかと俺の中の天使が悪魔と手を組んで囁いているのだ。

 男だからなんだと。可愛ければそれでいいじゃないかと。俺の理性を揺さぶってくるのだ。


「景? ちゃんと聞いてる?」


 その一言で、俺ははっと我に返った。

 い、いかんいかん。天姫が可愛すぎるばっかりについつい変なことを考えてしまった。

 駄目だな、俺には花奏がいるというのに。


 ごほんっと取ってつけたような咳払いをする。


「そうだな。それじゃあ明日は開けておくよ。久しぶりに一緒に食べようか」

「やった! 約束だからね!」


 飛び跳ねそうな勢いで喜ぶ天姫。

 笑いながら「大袈裟だなぁ」と呟きつつ、俺は自分の弁当を鞄から取り出すと、


「それじゃぁまた後でな」


 そう言って教室を出た。

 慣れた足取りで屋上へとつながる廊下を進んで行く。

 だが、屋上に出るドアの目の前に居た人物を見て、俺は足を止めた。


「白亜? 何してるんだ? こんなところで」


 ドアの近くで座り込む白亜に、首を傾げながら問いかける。

 いつもなら屋上に出て待ってるのに、どうして今日はここに居るんだ?


「……屋上に人がいたから」

「珍しいな、ここに人が来るなんて。……あっ、ってことは今日は無しか?」

「……ん、今日は止めておく。でも、ちょうどよかったかも」

「なにが?」

「……景も”クエスト”に慣れてきたから、今日の放課後はちょっとレベルの高い”クエスト”を受けるつもりだった。昼休みはダメだったけど、その分の時間を放課後に回せるならそれはそれでありだと思う」

「レベルの高い”クエスト”ねぇ。確かに、ずっと似たような”クエスト”で飽きてきたところだしな。そうするか。それで、この後どうする? 解散するか?」

「……ううん、今日はここでお昼を食べます。景も一緒に」

「わざわざ確認しなくても元からそのつもりだよ」


 白亜の隣に腰かけて朝買ってきた弁当を広げる。

 その様子を見ていた白亜が口を開く。


「……景は、料理できるのに自分でお弁当は作らないの?」

「ん~作れるって言ってもそんな大したもんじゃないし。それに朝早く起きて弁当作るのは正直言って面倒くさいからな。何か特別なことでもない限り自分から作ろうとは思わないよ」

「……そうなんだ」

「そういうお前は自分では作らないのか?」


 俺がそう聞くと、白亜はふるふると首を振った。


「……私は料理できないから」

「へぇ白亜にも出来ないことってあるんだな」


 てっきり完璧超人とばかり思っていたが、意外なところに弱点があったんだな。少し意外だ。

 そして、ちょっと残念だ。


「そっか、それは残念だな」 

「……?」

「白亜の手料理、ちょっと食べてみたかったんだけどなぁ」

「……!」


 他にも俺の家に来るたびに俺が作ってるけど、一緒に作れたりしたらそれはそれで楽しそうだよなぁ。

 なんてことを考えていると、白亜が食い気味に口を開いた。


「……料理の勉強する。上手になったら景にご馳走するから。何だったら私がお弁当を作ってきてもいい」

「ホントか? 白亜の手料理かぁ、楽しみだな」

「……ん、期待してて」


 自信満々にそう告げる白亜。

 なんでも器用にこなす白亜だ。料理だってちゃんと学べばすぐに作れるようになることだろう。

 俺なんてあっという間に抜かれてしまうかもしれない。

 でもまぁ、学校中で人気の高い白亜の手料理が食べられるんだ。

 こういうのを役得というのだろうか?

 本当に楽しみだ。


 しばらく雑談をしながら弁当を食べ進める。

 たまにはこういうのんびりした時間も良いもんだな。

 今まではずっと”クエスト”尽くしだったし、これからは息抜きの時間を作るのも良いかも知れない。

 ただ――


「やっぱり、自由に使える自分たちだけの部屋が欲しいよな」


 屋上は俺たちのものじゃないから、今日みたいに他の生徒が来ることもあるだろう。

 だが、そんな日が毎日のように続いてはポイント集めにも差し支える。

 やはり誰も来なくて誰にも使われていない部屋を用意する必要があるな。

 ……そんな部屋があればの話だけど。


「……旧校舎は?」


 旧校舎。それは俺が初めて白亜を呼び出した場所だ。

 そして、初めて白亜と敵対した場所でもある。

 確かにあそこならすべての条件をそろえているな。――以前までは、だけど。


「あそこはダメだ。以前俺たちが暴れたせいで立ち入り禁止になってるし、たまに先生たちが巡回してるからな」

「……ごめんなさい」

「別に白亜が謝ることじゃないだろ。半分は俺の責任だ」


 落ち込む白亜の頭を慰めるように撫でながら考える。


 しかし、他に良い場所が思い浮かばないのも事実だ。

 やっぱり諦めるしかないのか?


「……ぶかつ。部活は?」

「入るのか?」


 その問いに否定するように首を振る。


「……入るんじゃなくて私たちで作る。私たちだけの部活を。そうすれば部外者は入ってこれない」

「なるほど、その手があったか」


 部員や顧問の問題は後から考えるとして、自分たちの部室なら、確かに条件に合うな。


「白亜、頼めるか? 教師が絡む問題なら俺なんかよりも優等生の白亜の方が適任だ」


 俺だと話を聞く前に門前払いを食らう可能性があるけど、その点白亜は俺と違って成績も優秀だし優等生だから教師からの心象も良いだろう。

 俺なんかよりもよっぽど適任だ。


「……ん、そういうことなら私に任せて」

「決まりだな」

「……さっそく、今日の放課後に行ってくる」

「今日? ってことは”クエスト”はしないのか?」

「……やりたいけど、こういう事は早いに越したことは無いから。それに、毎回昼休みを邪魔されるのはそれはそれで我慢ならない」

「そ、そうか」


 その言葉に妙な圧を感じて、俺は思わず頷いてしまった。

 だが、白亜のいう事にも一理ある。

 ずるずると先延ばしにするくらいなら少しの間休みにしてさっさと終わらせた方がいいだろう。

 ってことで、今日の予定は決まりだな。


「俺にも手伝えることって何かないか?」

「……それじゃあ、部室探しをお願いする」

「わかった。後は部員だけど、出来ることなら能力者が好ましいよな。この学校で俺と白亜以外の能力者って誰か知ってるか?」

「……ううん、私は知らない。でも、景みたいに私が知らないだけかもしれないから、探せばもしかしたら居るかもしれない」

「まぁ見つけるのが大変なんだけどな……」


 能力者の中には一般人と能力者を見分けることが出来る奴も居るらしいが、あいにくと俺と白亜には無理だ。

 一応、ギフトに触れさえすれば[十二の神器]の効果で判別できないこともないが、そもそも他人の物に触る機会が少ないし、俺ならギフトを無闇の他人に触らせたりはしない。

 やっぱりこっちは一旦保留かな。

 どうしても見つからなかったら天姫に名前だけ貸してもらおう。


「ま、取り敢えず今のところは部活発足と部室確保だけで十分か」


 そこでちょうど昼休み終了のチャイムが鳴った。


「っと、今日はここまでだな」

「……楽しいと時間が進むのが早い」

「そう言ってくれるとこっちも嬉しいよ」


 食べ終えた弁当のゴミをもって立ち上がる。


「んじゃ、部活の件よろしくな」

「……ん、景も頑張って」

「おう、白亜もな」


 そう言って俺たちはそれぞれの教室に戻った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 急に主人公が青春してやがりますぜ。 [一言] なんか天姫ちゃ...いや天姫君が能力者な気がする。(根拠はない)
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