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”クエスト”とレベルアップ 12

「あっ、白亜とそっちの人は帰っていいよ? わたしが用があるのはけいお兄ちゃんだけだからね。気分も良いし~今回は特別に逃がしてあげる!」


 黒猫がそう言うと、今まで俺に銃を突きつけられていた男は「ひっ」と短い悲鳴を上げて一目散に逃げだした。

 ……結局何がしたかったんだあいつは。そう思いつつ銃を解除した。


「あれ? あなたは逃げないの?」

「……私は……」


 白亜は俺の目をじっと見ていた。

 まるで俺に何かを求めるように。


「白亜、別に俺に遠慮する必要はないぞ。こいつの目的は俺なんだし、白亜は帰っても――」

「……帰らない。絶対に、景を置いては帰らないから」


 怯えているのは相変わらず。だが、その目には確かな意思の光が灯っていた。

 ……本当に引く気はないみたいだな。


 はぁと息を吐き、白亜の頭に手を乗せる。

 わしゃわしゃと撫でてやると、くすぐったそうに目を細めた。

 ちょっとは緊張が和らいだかな。


「……どうしたの?」

「いや? ちょっと自分の不甲斐なさに嫌気がさしただけ」

「……?」


 怯えてる白亜ですら勇気を出してるのに”ローズシリーズ”を持つ俺が及び腰でどうするよ。

 覚悟を決めろ。大丈夫だ、俺の能力に勝てる奴なんて存在しない。

 例え空間を操る能力者だろうと同じだ。


 ――俺の前ではすべてが止まる。


「……なぁ白亜。今俺が何をしてもついて来てくれるか?」


 俺がそう言うと、白亜はコクリと頷いて頭に乗せたままだった手を両手で包み込むように握った。


「……景がそれを望むなら、私はそれに従うだけ。景が何をしたとしても私はそれを肯定する」

「怖くないのか?」

「……愚問だと思う」


 何でもないように言う白亜を見て、俺は思わず声を上げて笑ってしまった。


「はっはっは! 安心してくれ、絶対に俺が勝つから」

「……ん」


 改めて黒猫に向き直ると、とても不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「それで、帰るの? 帰らないの? どっち?」

「……帰らない」

「あっそ。じゃあわたしはけいお兄ちゃんと遊んでるから、大人しく待っててね~」

「悪いな黒猫。お前と遊ぶつもりは毛頭ないよ」

「……はい?」

「聞こえなかったか? お前と遊ぶつもりは無いって言ったんだよ」

「……ふ~ん? わたしに盾突くんだ。まさかとは思うけど、わたしに勝てるなんて思ってないよね? Sクラス以下のギフトじゃ”ローズシリーズ”には勝てないよ」

「ごちゃごちゃ五月蠅いな。やってみないと分からないだろ」


 白亜に一言だけ耳打ちした後、少し後ろに下がるように指示を出す。

 俺の態度に、黒猫はむっと顔をしかめた。


「そこまで言うならやってみてよ! 今更泣いて謝っても遅いんだからね!」


 黒猫はルービックキューブを構えた。

 同時に、俺も右手の手袋に意識を集中させる。


「《虚空断絶ヴォイド・カット》!」

「《時間加速》!」


 空間が切断されるより早く時を加速させて回避すると、《時間使用》を1日×10で発動し、時滅銃が形成されると同時に発砲した。


 当たったらどうしようとか、そういうのは後回しだ。

 やらなきゃこっちがやられる。殺られる前に殺れ、それこそが真理だ。


「《虚空断絶》」


 撃った弾丸は俺と黒猫との間に引かれた空間の亀裂に阻まれてしまった。


「当たらないよ~!」

「そっちの攻撃も当たってないだろ! 威張るな!」

「どっちの攻撃が先に当たるか勝負だね~!」


 だんだんと切断のペースが上がっていく。

 それに伴い、俺も速度を速めていった。


 レベルアップのお陰で《時間加速》の時間は1分から2分に増加している。

 相変わらず少ないので油断できる状況じゃないが、それでも若干の余裕は出来た。

 あとはこいつの攻略法を見つけるだけ。

 ……だけ、というにはいささか難易度が高すぎる気もするが、どんな能力にも必ず攻略法は存在する。

 一見最強に思える時間操作にすらあるんだからそれは間違いないはずだ。

 冷静に、情報を集めていこう。


 速度とともに加速する思考回路をフル稼働させ情報を整理していく。

 効果範囲は黒猫を中心とした直径約10メートルの立方体。

 これはギフトのルーブックキューブを模していると思われ、空間の切断はギフトの回転とリンクして大体同じ位置で行われる。

 つまりマスとマスの間にさえいなければ攻撃を食らうことは無い。

 そして、それらすべてが俺を誘い込むための罠である可能性も加味しなけらばならない。

 さて、どうやって攻めるか……。


「確かに当たらないね~」


 突然、黒猫の発した言葉に首を傾げる。


「それじゃあ少し本気、出しちゃおっかな~! ――《虚空支配領域ヴォイド・ドミネーション》」


 黒猫がそう口にした瞬間、ゾクッと嫌な予感が身体中を駆け回った。

 全身から冷たい汗が溢れ出す感覚。全力でこの場から逃げろと本能が告げている。

 だが、俺が逃げるよりも早く、黒猫の能力が完成してしまう。


 黒猫を中心として球体状の空間が展開される。

 外界の情報の一切が遮断されているのか、外の様子を窺うことは出来ない。

 光も遮断されているはずなのに、しっかりと相手の表情まで知覚できるのはこれが能力で創られた空間だからだろうか。


 ……マズいな、閉じ込められた。

 一体どういう能力だ? 嫌な予感しかしないぞ。


「あっはははっ! 驚いた!? これが”ローズシリーズ”にだけ許された能力! 入ることも出ることも出来ないわたしだけの絶対領域! わかる!? たった今けいお兄ちゃんの勝ち目は消えたんだよ!? ははははははっ!」


 両手を広げて自慢するように笑う黒猫。


「絶対領域? 知るかよ、そういう事は勝ってから言いやがれ!」


 今出している時滅銃を解除し、今度は10日×10で発動する。


「死ね!」


 単純計算で今までの十倍の威力のレーザー弾。

 ルービックキューブから手を離して両手を広げてる今の状態じゃ防げねぇだろ、そういう意味を込めて撃ち出した完全な不意打ち。

 しかし、そんな俺の攻撃は――


「不意打ち~? まあ今までなら当たってたかもね。でもこの空間じゃ当たらないよ?」


 弾と黒猫とを隔てるように出現した空間の歪みに阻まれ、あっけなく防がれてしまった。

 いや、それだけならいい。元よりこの程度で倒せるなんて思っていないから。

 俺が一番驚いているのは、今、こいつがルービックキューブを使わずに空間を切断したということだ。


「……どうなってる? お前の攻撃はルービックキューブとリンクしていたはずじゃ――」

「大大大正解だよ? 最も、この空間の外なら、だけどね~!」


 黒猫は悪戯が成功した子どものように、得意げに語る。


「この空間を展開する絶対的な利点、それはね、”能力の拡張”にあるんだよ~?」

「能力の、拡張?」

「もっと言うなら、制限の解除? 弱点の克服? そんな感じのバフを自分に付与してくれるのがこの空間の力なんだよね~。こんな風にさ!」


 スパンッ! 


 幾度となく聞いた空間が切断される音。

 今までと違ったのは、その音が聞こえたのと同時に俺の右腕がずるりと地面に落下したことだろうか。

 チクリと針を突き刺すような痛みが走り、次第に激痛へと変わっていく。

 痛みは斬られた部分を中心として瞬く間に全身に広がり、その全身を焼くような激痛に耐えきれず膝をついてしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり白亜ちゃんは女神なところ [気になる点] ローズシリーズだけってことは主人公も弱点を克服できるような力が解放されるのだろうか...
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