”クエスト”とレベルアップ 10
《ギルド》のクエストエリアへと戻ってきた俺は、すぐに近くの席に着きウインドを開いた。
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名前:水無月景 性別:男
P:000,007,040/100,000,000
体力:200 筋力:200 魅力:100
能力
●《――時廻――》LV:1(レベルアップ可能)
┣《時間加速》/00:35
┣《時間減速》/00:28
┣《時間停止》/01:00
┗《時間使用》/75年287日(現在使用不可)
ギフト
●懐中時計型
┣[十二の神器]
┗[武器化]
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レベルアップ可能……ってことはあの声は俺の気のせいじゃなかったのか。
5000P支払えばレベルを2に上げることが出来る。
でもいいのか? 今の俺にとって5000Pってのは大金だ。このままとっておいた方が良いんじゃないか?
それともレベルを上げてこれからの”クエスト”効力を効率よく進めるのがいいのか?
個人的にはレベルを上げたいなぁ。これは単純に好奇心だけど。
あっそう言えば白亜はレベル6だったな。ちょっと聞いてみるか。
「レベルって上げた方がいいのか? それともポイントがもったいない?」
「……あぁ初めて”クエスト”をクリアしたから条件を満たしたんだ。だったら上げた方がいいよ。最初の方は必要なポイントも少ないし」
「5000は少ないのか」
「……Fランクより上の”クエスト”をクリアしたらすぐに手に入るから。それに、全体の一億ポイントからしたら本当に少ないよ」
「あ~確かに」
いわれてみれば確かにその通りだな。
俺の目標は一億ポイントなんだ。高々5000Pをケチって何になるよ。
それにレベルを上げればより高いランクの”クエスト”にも挑戦できるんだ。
上げておいて損は無いだろう。
≪5000P使用してレベルを上昇させますか? YES――NO≫
イエス。
≪レベルが上昇しました。LV:1→LV:2≫
≪条件を満たしました。能力《時間復元》を獲得しました≫
≪条件を満たしました。《時間停止》《時間加速》《時間減速》の使用可能時間が増加しました≫
≪時滅銃の威力が上昇しました≫
≪条件を満たしました。体力・筋力・魅力に500Pが付与されます≫
立て続けにいくつもの情報が頭に流れてくる。
レベルの上昇に始まり使用できる時間の増加、時滅銃の威力上昇、そして新たな能力の獲得。
気になることや確認しなければいけないことは山ほどあるが、一番気になるのは新しく手に入れた能力《時間復元》だな。
名前的に時間を巻き戻すとか、そっち系の能力だと思うんだけど、こればかりは確認してみない事には断定はできないな。
そう思いつつ、俺はウインドを開きレベルアップに伴い変化した内容を確認していく。
「おいおい! ホントに紅の舞姫様じゃねぇかよ! えぇ?」
しばらくして、突然背後からそんな声が聞こえてきた。
振り返るとそこにはどっからどう見ても堅気ではなさそうな強面の男が立っていた。
これにサングラスでもかけて街を歩いたなら絶対に数回は職質されそうだなって感じの男だ。
出来ることなら関わり合いになりたくないタイプ。
でも、紅の舞姫って白亜の二つ名だったよな。
ってことは白亜の知り合いか? ……いや、そう言えば噂になるくらいには知れ渡ってるんだっけか。
じゃあ知り合いじゃなく一方的に知られてるって線もあるのか?
どちらにしろ面倒事の予感がするんだが……。
「白亜、知り合いか?」
「……前にいろいろあって――」
「いろいろあって?」
「……今は敵対してる」
「何があった!?」
何がいろいろあったらこんなヤの付くご職業の方みたいな奴と敵対関係になるんだよ?
ちょっと気になるが知らない方が身のためな気がする。迷いどころだな。
しかしこれは、やはり面倒事なのだろうか。
俺は早く次の”クエスト”に行きたいんだけど。出来ればもっとポイントが多く貰えるやつ。
白亜に聞いたら教えてくれるかな。
白亜のことだしこんな奴すぐにでも倒せるだろう、そう思い俺は白亜に声を掛けた。
「どのくらい時間かかる?」
「……分からないけど、最悪相打ちになるかも」
「……やべぇじゃん」
白亜と相打ちって冗談だろ。
さっきの戦闘を見ただけでも白亜が強いことは十分に理解できる。
それなのに相打ち? つまりこんな奴が白亜と同じくらい強いってのか?
俄かには信じがたいが、白亜が俺に嘘をついているとも思えないし、その理由もないだろう。
さて、どうする? 出来ることなら穏便にかつ迅速に終わらせたいところだが……まぁ、流石にそこまでうまくはいかないだろうな。
そんな俺の考えを肯定するかのように、男は苛立ちを滲ませた表情で割り込んできた。
「おい、何をコソコソ喋ってやがる?」
「……別に何も。それで、私に何か用?」
「何か用、だと? おいおいしらばっくれるなよ。えぇ? 俺はなお前に借りを返しに来たんだよ」
「……あなたに何か貸した覚えはない」
「相変わらずムカつく女だな。まぁいい、力尽くでも付き合ってもらうぜ」
まさに一色触発の雰囲気。今にもここで戦闘が始まってしまいそうだ。
巻き込まれるのは勘弁したい。だが、ここで白亜を失うのはきつい。
これは多少無茶をしてでも割って入るべきか?
いくらこいつが白亜と同じくらい強いと言っても、白亜側に俺が付けばその均衡は崩壊するだろう。
それに、たとえ相手がどれだけ強かろうと時間を止めてしまえばただの的だ。
多少防御力が高い相手でも時滅銃の代償を大きくして威力を底上げすればいいだけの話だし。
そして何より、俺自身、対人戦をもっと学んでおくべきだと思う。
白亜が一緒なら十分安全マージンを取って戦闘できるだろうし、コレは割といい機会なのではないだろうか。
そう思った俺は、椅子から立ち上がり、白亜の前に出た。
「……景?」
「なんの真似だ? お前がこいつとどんな関係か何て知らないが、大人しく座ってろよ。俺が用があるのはそっちの女だけだ。大人しくしてるならお前だけは見逃してやる」
「って言われてもな。悪いが、今ここでこいつを失う訳にはいかないんだよ。どうしてもやるっていうなら、俺もやらせてもらう」
「……へぇ?」
俺の全身を嘗め回すように見つめる男。
途轍もなく不快だ。今すぐにでもやめて欲しい。
「……景、ごめんなさい」
「あ? 何が」
「……あなたを巻き込んでしまって。本当ならもうひと”クエスト”行けてたのに……」
「べつにいいんだよ。俺から踏み込んだんだし。それに言っただろ? 今お前を失う訳にはいかないんだ。少なくとも俺が全てを理解するまでは一緒に居てもらう」
「……ん、ありがとう」
俺は改めて男を見据え、口を開いた。
「で? 2対1になるわけだが、やるのか? 言っとくが一切手加減しないからな」
「ハッ! よほど腕に自信があるらしいな! いいぜ受けて立ってやる。お前ら二人ともぶっ殺してやるよ! ――[武器化]ッ!」
男が叫ぶと同時に両手首についているごっつい腕輪が光だしたかと思うと一瞬にしてガントレットを形成した。
「《灼骨炎妖》ッ!」
ガントレットから炎が噴き出す。
今までに感じたことのない温度に一歩後ずさってしまった。
「……炎と熱を操る、それが彼の能力。射程はそれほどないけど、触れてなくても熱でダメージを負うから気をつけて」
「了解。でもまぁ、分かりやすい能力で良かったよ」
「……?」
「確かに炎は厄介だ。でもな、どんなに熱い温度でも、俺の前ではすべてが止まる」
俺は[武器化]で懐中時計を手袋に変え、
「来ないならこっちから行かせて――」
そして呟く。
「《時間停止》」
止まった世界の中で、俺は熱を感じることもなく男に近づくと、そのガントレットを外し、適当な方に投げ飛ばす。
そして足を払い転ばせ、《時間使用・1日》で創り出した銃を額に突きつけた状態で《時間停止》を解除した。
「――もら、なッ!? 何がどうなって――」
「オイ動くなよ。これが見えないのか?」
「……クソがッ! てめぇ一体何しやがった!?」
「それをお前に言う必要がどこにある? ギフトもない能力者なんてただの人間と変わりないんだ。大人しく負けを認めろよ」
「くっ……」
男は悔しそうに顔を歪ませた。
訳の分からないうちにギフトを取られ転ばされ銃を突きつけられていたんだ。
そりゃあ悔しいだろう。アレだけ威張って負けたってのもあるだろうけど、それはただの自業自得。
いや、そもそも先に喧嘩を売ってきたのはあっちなんだから、負けたとしても、それすら自業自得だな。
「……私の分も残しておいてほしかった」
「意外と余裕あるよなお前。最悪相打ちになるみたいに言ってたのに」
「……景がいるから」
「ははは、ありがとう」
笑いながらも視線は男から離さない。
油断はしない。こいつの仲間がいないとも限らないんだ。用心しておくに越したことは無いだろう。
そう、俺は一切油断していなかった。
それなのに――
「すごいすご~い! ねえ今のどうやったの!? 全く見えなかったよ!?」
「……は?」
気が付くと、俺の隣に猫耳の付いたパーカーを羽織った幼い少女が立っていた。




