”クエスト”とレベルアップ 9
最近、次話を投稿する度に感想を下さる方がいるのですが、とても作者の励みになっています!
お陰で次の投稿が楽しみです! 本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
それから数分が経過した頃、不意に白亜が呟いた。
「……見つけた」
どうやらコボルトを見つけたらしい。
「……ここから約200m先の洞窟。表に見張りが5体、奥の広場に10体いる。手前の5体に手間取ったり逃げられたりすると仲間を呼ばれる危険があるから、倒すなら奇襲をかけて迅速に」
コボルトがいるという洞窟に向かいながら、説明を受ける。
「奇襲ってことなら見張りは俺がやるよ。時間を止めれば仲間なんて呼びようがないからな」
「……良いけど、殺れるの?」
俺の目を見つめながら、真剣な表情で問いかける白亜。
この「殺れるの?」とは恐らく実力的なことじゃなく精神的なことだろう。
現代社会でぬくぬくと生きていた俺に生き物、それも人に近い形をしている生き物を殺せるのか? そう聞きたいのだ。
はぁ……まったく、舐められたものだな。
「愚問だな。さっき言っただろ、立ち塞がったら殺すって。それが人からモンスターに変わっただけだ。白亜が心配するようなことはないよ」
自分では手を下せないと思われたのは心外だ。
でも、俺は白亜と戦った時、命を狙われていたにもかかわらず自分からは攻撃しなかった。
その点を踏まえて聞いているのだとしたら、まぁ、分からないことも無い。納得は出来ないけど。
「……そう、ごめん。愚問だった」
「ま、見ててくれ。本当かどうかは行動で示すよ」
それから程なくして、洞窟の見える位置にまでやってきた。
白亜の云った通り、洞窟の前には犬のような頭に青色の身体をしたコボルトと呼ばれるモンスターが5体いた。
装備としては手には棍棒やボロボロの剣、朽ちた木盾等を持っており、腰に麻布を巻いているのみだ。
「それじゃあ手初通りあの5体は俺が仕留める。白亜はその後出てきてくれ」
「……ん、気をつけて」
右手の手袋に意識を巡らせながら呟く。
「《時間停止》」
瞬間、世界が止まった。
草木を揺らす風の音も、コボルトたちが鳴く声も、何も聞こえない。舞い落ちる葉っぱが空中で止まっていた。
ここからは時間との勝負だ。
タイムリミットはジャスト一分。いや、奥の10体のことを考えると少しは取っておいた方がいいな。
そう思い、俺は走り出した。
コボルトに近づきながら、[武器化]とともに手に入れた能力を発動する。
「《時間使用》」
≪使用する時間を指定してください≫
「ん? ……あぁ、そういう事ね」
頭に響いた声の意味を即座に理解し、改めて発動し直す。
「《時間使用・1日》」
能力が発動する感覚とともに、バレルを分針、グリップを時針で表したような漆黒の銃が手の中に出現した。
同時に俺の中から何かが抜けたような感覚に陥る。
これが寿命を代償とにするという感覚なのだろうか。
ほんの少しの、だが確かな喪失感。
1日なら連続で使っても問題なさそうだけど、何十日も同時に使ったら流石にきつそうだな。
数年単位で使用したら廃人になるのではなかろうか?
……使うときは気をつけないとな。
「で、威力はどんなもんだ?」
最小の威力の弾丸。さて、どれくらいの威力が出るのか。
その結果次第でこれからの戦闘が大きく変わるだろう。
行き成り遠くから撃っても当たらないと思った俺は、時滅銃をコボルトの眉間に突きつけ、引き金を引いた。
――バシュンッ
弾丸……というよりレーザーのようなものが射出され、コボルトの頭部をいとも簡単に貫通する。
威力は申し分なかったが、同時に銃は消えてしまった。
「消えた? 装弾数は一発……いや、こうしたらいいのか。――《時間使用・1日×4》」
先程と同じ銃が出現する。俺は2体目のコボルトに近づき引き金を引いた。
――バシュンッという音とともにレーザーが放たれ、コボルトの頭部を貫通する。
そこまでは同じ。しかし、今回は銃は消えなかった。
どうやら、俺の予想は正しかったらしい。
何発撃つかを追加で指定したらそれが同時に装弾数となる。
単純だが、それゆえに便利なシステムだな。
俺は手早く残りの3体を仕留めると、すぐさま《時間停止》を解除する。
銃の使い方を確かめるのに思いのほか時間を使ってしまった。
でもまぁ、他の能力はまだフルで残ってるし、《時間停止》も全くないわけじゃない。
それに白亜も居るんだ。
何とかなるだろ。
「……お疲れ。大丈夫?」
俺の顔を覗き込みながら心配そうに聞いてくる。
俺は辺りに転がっているコボルトの死体を見た。
……少しだけ、花奏が死んだ時の光景を思い出してしまった。
だが、それだけだ。戦闘に支障をきたすほどじゃない。
それに、これは花奏じゃないんだ。あの時とは違う。
俺は大丈夫だ。
「大丈夫だ。それよりも先に進もう。中の様子はどうなってる?」
「……ん、誰もこっちに気が付いてない。今なら奇襲を掛けられるよ」
「了解」
そう言って俺たちは洞窟の中へと足を踏み入れた。
バレないように慎重に進んで行く。
洞窟ということでもっと暗いかと思っていたが、所々置いてある松明のお陰でそこまでじゃなかった。
それでも、影になっているところやそもそも松明が無い空間もあるので油断はできないが。
「……ストップ」
「あぁ、分かってる。見つけた」
近くの大岩に身を隠す。
チラリと岩から顔を出して確認すると、確かに10体のコボルトが焚火を囲んでいた。
「……3秒のカウントの後、同時に攻め込む。準備は良い?」
頷きつつ、《時間使用》を1日×10で発動する。
掌に出現した銃を握り締め構える。
やがて、カウントダウンが始まった。
「……3……2……1……0ッ」
「《時間加速》!」
カウントダウン終了と同時に時を加速させた状態で走り出した。
白亜の血の弾丸すら避けることが可能な速度だ。
コボルトがどれだけ早いかは知らないが、そんなものは関係ない。
視認すらできないまま終わらせてやる。
――バシュンッ
一番近くに居た1体を撃ち殺す。
銃声で他のコボルトがこちらに気が付いたが、それよりも早く俺は懐に潜り込み至近距離で確実にとどめを刺していく。
剣で応戦しようとするコボルトもいたが、銃よりも遅い攻撃が俺に当たるはずもない。
余裕をもって発砲した。
「……こっちは余裕そうだな」
4体目にとどめを刺したところで、俺はそう呟いた。
だが5体目が見つからない。さっきまでは確かに5体いたはずなのに――。
「まさか――」
バッと勢いよく白亜の方を振り返る。
まさか白亜の方に行ったのか!?
1体くらいどうとでもなるかもしれないが、元々こっちにいた奴が向こうに行ったのだとしたらそれに気が付いていない可能性もある。
完全に予想外の場所からの奇襲。万が一と言うこともあり得るのではないか。
そんな考えが脳裏をよぎる。
急いで俺も白亜の所に、そう思い走り出すが、そこに広がっていたのはそんな思いが一瞬で吹き飛ぶような光景だった。
巨大な鋏を片手で軽々と振るい近くのコボルトを切り裂き、空いたもう片方の腕で血の弾丸を飛ばし洞窟の壁ごと穿っていく。
コボルトたちも善戦してはいるが、剣で攻撃するとその剣ごとぶった切られ、背後から弓で矢を放っても手足のように動く血液に阻まれる。
まさに無双。コボルトたちの攻撃は一切通らず、唯一その返り血だけが彼女に届き、美しい銀髪や服を紅く染め上げていく。
切り裂かれたコボルトの血で真っ赤に染まった地面の上を踊るように舞う紅の少女。
「ははは、紅の舞姫とはよく言ったものだな」
思わず見入ってしまった。芸術的ですらあるその戦闘に。
だが、そんな彼女の舞台はすぐに終わってしまった。
最後の1体にとどめを刺したところで、クエストクリアと書かれたウインドが出現した。
その下には小さく60秒と残り時間が表示されている。
これを見て改めて終わってしまったのだと実感する。
少し残念だと思ってしまったのは内緒だ。
「お疲れ白亜」
「……ん、景もお疲れ様」
疲れた様子など一切なく、息切れすら起こしていない白亜を見て、素直に凄いなと思った。
「凄かったな。俺と戦った時は手加減してたのか?」
「……そういう訳じゃ……あの時は、景に敵意が全く感じられなかったから」
……あまり考えたくはないけど、これ最初から白亜が本気で戦ってたら負けてたんじゃないか?
もしもあの時対話じゃなく力尽くで情報を聞き出そうとしていたら――。
「……景、顔色悪い。どこか痛むの?」
「い、いや、何でもない。……それよりも、このカウントがゼロになったらどうなるんだ?」
「……元の場所に戻されるだけ。だから安心していい」
「そうか」
しばらくして、俺たちの身体を光が包み込む。
≪クエストを達成しました。1500P獲得しました≫
≪初めてクエストを達成しました≫
≪初回達成ボーナスを獲得します。5000P獲得しました≫
≪条件を満たしました。5000P使用してレベルを上昇させますか? YES――NO≫
転移に伴い薄れゆく意識の中で、そんな声が響いていた。
この作品を呼んでくださりありがとうございます!
しばらく投稿していませんでしたが、最近になって投稿を再開いたしました。
楽しみにしてくださっていた皆さん、本当にごめんなさい!
これからもちょくちょく更新していくと思うので、末永くお付き合いいただければ幸いです!
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