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”クエスト”とレベルアップ 4

 ――ピンポーン。


 翌日の朝、昨日の卵がゆの残りを温め直し、早速朝食にしようという時にそんな音が聞こえてきた。

 壁に掛けてある時計を見るとちょうど七時を回ったところだった。

 

「誰だよこんな時間に……」


 まさかとは思うが白亜じゃないだろうな……?

 不本意ながら家の場所を知られてしまったわけだし、可能性としてはありえるか。

 あ~、だとしたら面倒なことになりそうで怖いんだが……。

 とはいえ、居留守をするにしても時間的に無理があるし、そもそも白亜じゃなかったら大変だ。

 ……お願いします神様! 出来れば他の人でありますように……!


 覚悟を決めた俺は玄関へ向かいガチャリとドアを開ける。

 するとそこには、


「あっ、景おはよう」


 天姫の姿があった。

 男子の制服を着ているせいで男装少女にしか見えない。

 こいつ絶対女子の制服着ててもバレないよ。

 むしろそっちの方が目立たないんじゃないか?


 と、そんなことは今はどうでもいいんだ。


「ごめんねこんな朝早くから――って、どうしたの?」


 笑顔で挨拶をする我が幼馴染の肩をガッと掴む。


「いや、謝らないでくれ。大歓迎だから」


 良かった~! 白亜じゃなくて!

 ホント白亜だったらどうしようかと!


 そんな俺の心情を知る由もない天姫は頭に『?』を浮かべていた。


「そ、そう? それじゃあお言葉に甘えて。おじゃましま~す」

「おう、いらっしゃい。で、早速で悪いんだが飯食い終わるまでちょっと待っててくれ」

「うん、全然いいよ。元はといえばこんな時間に押しかけた僕が悪いんだし」

「それなんだが、どうしたんだ? こんな時間に来るなんて珍しい」

「本当にごめんね。ちょっと聞きたいことがあったんだ。それがどうしても気になっちゃって」

「はぁ、それはいいんだけどさ。……それで、聞きたいことって?」

「それは……」


 天姫は一瞬間を空けたあと、意を決したように口を開いた。


「景はあの後阪柳さんに会えたんだよね?」

「まぁ、一応は」

「やっぱり! その後どうなったの!? 上手くいった!? 一緒に帰ったりとかしたの!?」

「ブフッ、ゴホッゴホッ! ちょ、ちょっと待て天姫! お前そんなこと聞くためにこんな朝っぱらから家に来たのか!?」

「そんなことじゃないよ! 僕の親友に恋人が出来るかどうかの瀬戸際なんだから!」

「おまっ! それは昨日否定しただろ!? そんなつもりで会ったわけじゃないって!」

「え~? 告白までは行かなくても多少の進展はあったんじゃないの? 友達からでいいので~とか!」


 こいつは一体何を言っているのか。

 まさか本当に俺が白亜に好意を抱いていると思ってたのか?

 そんな馬鹿な。


 大体な、上手くいったも何も行き成り殺されかけたし。

 一緒に帰ったといえば聞こえはいいが、その実ただのタクシー代わりだからな。

 一応情報を聞き出せたという点では上手くいったのかもしれないが、天姫が思っているような青春的イベントはこれっぽっちも起こっていないし、そもそも起こって欲しいとも思わない。


 っていうのをありのまま説明できたら楽でいいんだけどな~。

 流石にギフトや能力について説明するわけにもいかないし――。


 ――ピンポーン。


「あれ? 誰か来たみたいだよ?」

「あ、ああ、そうだな。ちょっと行ってくる」


 誰か知らないがグッドタイミングだ。

 今のうちにどう説明するか考えよう。


「はーい、どちら様で――」

「……おはよう景」


 ――バタンッ。


 な、何故奴がここに!?

 と、とにかくあらぬ疑いを掛けられる前に天姫を俺の部屋に移動させなくては……!


「て、ててて天姫! 俺の部屋に行かないか……?」

「え、どうしたの急に……。あっもしかしてお客さん?」

「ま、まぁ? そんなところだ。だから早くな?」

「景、大丈夫?」

「ななな、何がだ?」

「景がそんなに動揺するなんて一体誰が――――って、え?」


 突如として固まった天姫を見て、俺は首を傾げる。


「? ど、どうしたんだ行き成り……。俺の後ろに何か――」

「……行き成りドアを閉めるのは酷いと思う」

「ヒィィィィィ!」


 び、びっくりしたッ!

 なんで家の中にいるんだよ!? ……って、あっ! 鍵掛けてなかった!

 俺としたことがそんな初歩的なミスを……!


「……ねぇ、景」

「はい、なんでしょう阪柳さん」

「……その人、誰? 景とどういう関係?」

「橘天姫。俺の親友だ」

「……親友?」

「おう」

「……そう」


 何が「そう」なんだよ怖ぇよ……。


「……あ、これ昨日借りたジャージ。ありがとう、助かった」

「あ、ああ」


 この状況で渡していいアイテムじゃないだろこれ……。

 てか早くね? もうちょっと掛かると思ってたんだが……。


「……? 洗わないほうが良かった?」

「……もう黙っててくれます?」

「……ん、了解」


 はぁ、ヤバイどうしようこの状況。

 白亜が来たことで余計に話がややこしくなったし、天姫にどう説明したらいいんだ……?


 で、その天姫は何して――あ~突然過ぎて情報を処理しきれないって顔だな。

 だが、これはチャンスだ!


「天姫、俺ちょっと阪柳さんと話をしなくちゃならなくなったから! 少し待っててくれ」

「えっ、あ、うん。行ってらっしゃい……?」

「おう。……ちょっと来い」

「……ん、分かった」


 俺はリビングを出てできるだけ奥に進む。

 そして突き当たりまで行ったところで振り返り口を開いた。


「何故ここにいる?」

「……一緒に登校しようと思って」

「どうして」

「……なんとなく?」


 この野郎ッ! ざっけんなよッ!?

 タイミング考えやがれッ!!


「……? 修羅場?」

「そう思ったんならそれはてめぇのせいだ」

「……ごめんなさい」


 そんな素直に謝られても困るんだが……。


「はぁ……天姫には俺が説明するから。お前は少し大人しくしててくれ。くれぐれも、余計なことは言うなよ?」

「……ん、景に従う」

「マジで頼んだからな」


 さてと、これで白亜の方はどうにかなったか。

 あとは天姫への言い訳を考えるだけだな。

 まったく、どうして朝っぱらからこんな目に遭わなきゃならんのか。

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