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”クエスト”とレベルアップ 2

「じゃあ早速――」


 俺が一つ目の質問をしようとすると、


「……待って、まずは自己紹介から始めるべき」


 阪柳さんはそれを遮るように言った。


「必要か? それ」


 お互い名前知ってるだろ。


「……必要。しておいた方が私も説明しやすい」

「はぁ、そういう事なら分かった」

「……ん、じゃあ私から」


 そう言って、阪柳さんは自己紹介を始めた。


「……知ってると思うけど、私の名前は阪柳白亜。趣味は特にない。ギフトは【鋏】型。能力は《――死血(デッドブラッド)――》。血を操ることのできる能力。レベルは6。発動条件はギフトの【鋏】で傷を付けること。……他、何か聞きたいことある?」

「いや、特にないけど……そこまで教える必要あるのか? 能力の発動条件とか、隠しといた方が良いんじゃ――」

「……問題ない。むしろ教えておいたほうが後々都合がいい。あなたとは長い付き合いになる気がするから」


 それは出来れば御免被るが……。

 まぁ、この後の説明に影響するなら話すことは吝かではない。


「次は俺だな。えぇ、俺の名前は水無月景。趣味は同じく特になし。ギフトは【懐中時計】型で、能力は《――時廻(ワールドクロック)――》。時を操る事ができる。レベルは1。発動条件は【懐中時計】の蓋を開いておくこと。何か聞きたいことは?」


 俺がそう言うと、阪柳さんは心底驚いたというような顔をした。


「……あなたの能力、時間操作だったの……? しかもレベル1……?」

「ああ、そうだけど……何か問題があるのか?」

「……問題はない。……いや、ある意味あるかもしれない」

「それってどう言う――」

「……あなたのギフト、どんな花が咲いていた?」

「咲いている花?」


 って、ギフトに施されてた花、で良いんだよな?


「えっと確か……薔薇だな」

「…………その本数は?」

「確か6本」

「……6本の薔薇。……だとしたら、私がレベル1に負けるのも頷ける」

「? アレってただの装飾じゃないのか?」

「……普通の人から見ればただの装飾。でも私たち能力者から見れば、それは別の意味になる」

「別の意味?」

「……ん。でも、それはこの後に説明する」


 なんだろう、めっちゃ気になる。

 けど、その他にも聞きたいことがあるんだよな~。


「……それじゃあ、まず何から聞きたい? 私の知ってることなら何でも教える」

「分かった。それじゃあ遠慮なく。……どうしてあんたが俺の願いの事を知っている?」


 俺は自分の願いについて誰にも……それこそ天姫(てんき)にも話していない。

 それなのに何故阪柳さんは知っていた?

 聞くとしたらまずそこからだろう。


「……詳しくは知らない。私が知っているのは、あなたにも何か叶えたい願いがある、ってことだけ」

「どういうことだ……?」

「……簡単に言うと、あなたが《神》からギフトを受け取った能力者、だから」

「…………それってつまり、願いってのは全能力者に対する共通点ってことか?」

「……そう。能力者は大なり小なり叶えたい願いを持っている。……当然私も」

「なるほどな」


 つまりあの男子たちが教室で喋っていた噂の『変な夢を見る』ってやつの共通点は、『何か叶えたい願いがある』ってことなのか。

 ようやく納得がいった。

 あと、なんかスッキリした。

 なにげに気になってたんだよな~アレ。


「……その願いってやつに関して、他には何か無いか? 何でもいいんだが」

「……知ってると思うけど、願いは一億ポイントを集める事によって叶えることができる」

「ああ、それは知ってる。でも、それって本当なのか? 正直、信じられな言っていうか……」

「……それは信じていい。実際に叶えたっていう人が居るから」

「え!?」

「……それに、能力やギフトみたいな現実じゃ考えられない事も私たちはこの目で見ている。こんなモノを創る力、もしくは技術力があるのなら、人間一人の願いを叶えるくらい造作もないはず」

「確かに」


 言われてみれば納得のいく理由だ。

 っていうか、叶えた奴がいるのか。

 つまり一億ポイント集める手段はあると。

 ははっそれが聞けただけでも、危険を冒してまで阪柳さんに接触した甲斐があったってもんだな。


「……あとは、能力やギフトの種類や強さはその人の願いに由来する。これも知ってたかもしれないけど」

「いや……それは初耳だな。詳しく頼む」

「……ん、分かった。まず能力の種類。これは、あの時どうしていれば願いは叶っていたか、これから先どうやったら願いが叶うか、と考えた時、あなたが真っ先に思い描いた事によって決まる。詳しくは私には分からないけど、あなたには何か心当たりがない?」

「心当たり、か……」


 そりゃああるさ。あるに決まってる。


 あの時、もっと早く駆け出していたら――

 あの時、花奏の手を掴めていたら――

 あの時……花奏を拒んでいなければ――


 …………なるほど、俺は確かに望んでいたんだな。

 あの時に……花奏が居る日常に、戻りたいって。


 あぁ、だから俺の能力は時間操作なのか。


 にしても、肝心の《時間遡行》が無いっていうのは気が利いているというかなんというか。


「……確かに、時間操作は俺の望んだ能力だな」

「……今考えたと思うけど、その時の思いの強さや絶望の深さ、それから願いの重さ、それらが大きければ大きいほど強力な能力となって発現する」

「…………」

「……あなたの願いが何なのかは聞かない。でも時間操作なんて強力な能力を生み出すだけの何かがあった、って事だけは分かる。辛いかもしれないけれど、その時抱いた気持ちは忘れないほうがいい。願いなんて関係なく能力を振りかざすようになったら、それはもう、理性の無い獣と変わらないから」

「……わかってる、何があっても忘れないさ。と言うより、あの時の気持ちを忘れるなんて、そんなのは無理だよ」


 今だって鮮明に思い出せる。

 例え願いを叶えることができたとしても、あの時の出来事を忘れるなんて事は出来ないだろう。


「……ん、それじゃあ次に行こう。他に聞きたいことは?」

「結構あっさりしてるな……。さっき、能力とギフトは願いに由来するって言ったよな。で、俺の能力がかなり強力だって事は分かった。だったらさ、ギフトの方も強かったりするのか?」

「……多分、時間停止に見合うだけのスキルが手に入る。特に、あなたのは特別強力なギフトだから」

「あぁ、そういえばさっき驚いてたな。アレが何か関係してるのか?」


 俺がそう聞くと、阪柳さんはコクリと頷いた。


「……ギフトの施された花の種類と本数はどちらもギフトの価値を評価しているの。薔薇という花と6本という数はどちらも最上級の証。つまり、あなたのギフトはS6クラスという事」

「S6? なんか凄そうだな」

「……凄いなんてものじゃない。現在確認されているSクラスのギフトを持った能力者は10人も居ないし、6なんて数字は聞いたことがない。多分、あなたのギフトは現存する中では最強」

「マジか」


 そこまで強かったのか俺のギフト……。

 パッと見只のお洒落な懐中時計にしか見えないんだが?


「……マジ。それに、Sクラスのギフトはその装飾から“ローズシリーズ”と呼ばれている特別なギフト」

「へぇ、“ローズシリーズ”か。いい名前だな」

「……私もそう思う。でも、こっちの方が重要」

「?」

薔薇(ローズシリーズ)のギフトを持つ者は、その異常なまでの能力とギフトスキルの強さから敬意、畏怖、嫉妬を込めてこう呼ばれている。“もっとも《神》に愛された人間”と」

「あ、愛されたって……そんな大袈裟な……」


 神様って、あの神様だよな?

 俺の夢に出てきたあの人だよな?

 あの人が俺のことを好き……いや、愛してるって?

 そんな馬鹿な。


「……あなたはそう思うの?」

「当たり前だろ……? 第一、あの人からはそういうのは感じなかったぞ……?」

「……あなたは初めてあった女の子が自分のことを好きだったとして、それに気づける?」

「うぐっ。そう言われると自信ない、けど……」

「……それに、私は大きく外れているとは思わない」

「どうして?」

「……ギフトに描かれている花は全部で7種類ある。けれど、『愛してる』や『告白』といった意味のある花は薔薇だけ」

「花言葉ってやつか」

「……ん。それに、ギフトの正式名称は《God’s Gift》。日本語に直したら神の贈り物って言う意味。つまり、薔薇のギフトは《神》からのラブレターかも」

「そ……」


 そんな馬鹿な、と言おうとして思わず口を噤んでしまう。

 だってさ、一応筋は通ってる気がするし、否定するにしきれないっていうか……。


「で、でもさ! 偶然かも知れないだろっ?」

「……確かに、私が言ったことに何の信憑性もない。言ったでしょ? 敬意や畏怖、嫉妬からそう呼ばれてるって」


 確かに言ってたな。

 そっか、俺は最初から時間操作なんて能力を持ってたから特になんとも思わなかったが、もし俺じゃない誰かがそんな能力を使ってるのを見たら、羨ましがったり嫉妬したりするだろうな。


 そりゃあ、神様に愛されてるから~とか人のせいにしたくもなるか。


 俺がそんなことを考えていると、阪柳さんは「でも」と続けて口を開いた。


「……そう考えたほうが、なんだがロマンチックで……私は好き」

「っ!?!?」


 お、オイオイどうしたんだ!?

 急にしおらしくなるなよっ!

 不覚にもドキッとしちまったじゃねぇかっ!!


 それに、よく考えてみたら今の状況――これ、いろいろアウトじゃね!?

 

 いや、すっげぇ今更だけどさ! さっきまでは疲れてたのと話に夢中で意識してなかったしっ!

でもよくよく考えると年頃の男女がほとんど裸同然の姿で一緒にお風呂って――


 あぅ……っ、意識したら急に実感が……っ。


「……? どうかした?」

「い、いや! 何でもない! それよりも次に行こうぜっ!」

「……ん、分かった。でも、どうしてドアの方を向いているの?」

「そ、それはだな~……――そうっ、ちょっと長く入り過ぎちゃってな! そろそろのぼせそうなんだっ!」


 いろんな意味でっ!!


「……そう、それは大変。すぐに上がるべき」

「そうだよな! じゃ、じゃあ話の続きは風呂上がってからってことでいいかっ?」

「……ん、それでいい。あなたの体調が一番優先」

「そ、それじゃあ俺は先に上がってるから! 阪柳さんはもう少しのんびりお湯に浸かってて良いから!」

「……そう? それじゃあお言葉に甘えさせてもらう。……ありがとう」

「いやいや! それじゃごゆっくり!」


 そう言い残すと、俺は急いでお風呂を後にした。


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