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白銀の少女と真紅の鋏 7

 自身の身体を貫いている針に身体を預けるような状態でぐったりとしている。

 念のため警戒して少し待ったが、ピクリとすら動かない。

 意識を失っている……?

 それとも死ん――――


 そのことを考えた瞬間、さっきとは別の意味で血の気が引いていくのが分かった。

 バクンッバクンッとうるさいほどに心臓が音を立てる。


 お、落ち着けよ俺。まずは落ち着いて深呼吸だ。

 ゆっくり息を吸って~吐いて~吸って~吐いて~――――――――――よし、もう大丈夫だ。


 そしたら次は状況確認と生存確認だ。


 周囲に人影は……無し、か。

 でも長居はしない方がいいだろうな。

 割と派手にやったから割れたガラスとかいろいろと壊れた音とかに気が付いた奴らがやって来るかもしれない。

 それに、何も知らない第三者が今の状況を見たらどう思うだろう。

 割れたガラスや壊れた備品。穴の開いた壁や床、天井。そして何より串刺しにされて血だらけになっている女の子。


 ……………………ヤバいな。どう考えても事案だ。それも結構猟奇的な類のヤツだ。


 これは一刻も早くこの場を立ち去った方が良さそうだな。

 俺は最後に生存確認を済ませるため、坂柳さんに近づく。

 その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()


「……………………は?」


 支えを失った阪柳さんの身体が、バタリという生々しい音を立てながら床に落ちる。

 意識を失っていたはずの阪柳さんの能力が解除された。

 それはつまり――。

 

「オイ嘘だろ!?」

 

 俺は慌てて阪柳さんに駆け寄――――ろうとした瞬間、ピクッと阪柳さんが動いた。


「ぁぅ……」


 ああ良かった。

 生きてはいるんだな。

 死んでたらどうしようかと思ったよ。


「え~と、なんというか……俺が言うのもなんだが……大丈夫か?」

「……ん、大丈夫。問題、ない」

「マジで…………?」

「……流石に、冗談。身体中痛いし、指一本動かせない」

「そ、そりゃそうだよな。もう喋らない方がいいんじゃないか……? このまま血を流し過ぎたら――」

「……それは本当、に大丈夫。自分の能力で……死んだりは、しないから」

「……」


 いや、めっちゃ血ぃ出てますけど?

 これ本当に大丈夫なんだろうな……?

 

「……それよりも、私のギフト……取って」


 見ると、少し離れた場所に真っ赤な鋏が落ちていた。

 恐らく、倒れたときに落としたのだろう。 


「………………まだやる気なのか?」


 俺は警戒して自分のギフトを握り直す。

 が、そんな俺を気持ちを否定するように、阪柳さんは首を横に振った。


「……この勝負は、私の負け。もうこれ以上戦う気はない」

「だったらどうして」

「……このままだと、人が来る。面倒事は嫌……だから」


 そう言えばここに来た時も似たようなこと言ってたな。

 面倒事は嫌って理由で殺されかけた俺の身にもなって欲しいところだが、まぁ今回は保留にしておこう。

 それに、俺だって面倒事は嫌いだ。

 今の状況を誰かに見られるなんて最大級の面倒事は避けたいところだ。


「返してやってもいい。だが、お前が裏切って俺を攻撃しないって保証はどこにある?」

「……それなら《神》に誓う。ギフトを返してもらう代わりに、私はあなたを攻撃しない。すべてあなたに従う」


≪阪柳白亜が《神》の名の下に《契約》を宣言しました。受諾しますか?≫


「うお!? なんだこれ……?」

「……私たち能力者にとって《神》に誓う《契約》は絶対。……もし破ったりしたらポイント全損及び能力の剥奪。他にもいろいろとペナルティーが科せられる。これでどう?」

「どう、って……?」

「……この《契約》は、あなたの言う『保証』になる?」


 なるほどな。

 システムとしてこうして表示されてるってことは、阪柳さんの言ってることは嘘じゃないんだろう。

 だったら、話は簡単だ。


「確かに、保証としては十分だな」

「……良かった」


 無表情なせいで全く良いと思ってるようには見えないんだが……。


「ただ、『俺の欲しい情報の開示』っていうのも追加だ。そっちの方はただの口約束だったからな。って言うか、そっちが俺の本命だ。これだけは外せない」

「……分かった。それも《神》に誓う」


 その言葉を聞いて、俺はニヤリと笑みを浮かべる。


 なんて言ったって、これでようやく本格的に動くことができるんだからな!

 

「その《契約》を受諾する!」


≪水無月景が《神》の名の下に《契約》を受諾しました≫


「えっと? これでもう《契約》は完了ってことで良いんだよな?」

「……ん、大丈夫。それじゃあ私のギフトを」

「ああ、分かった」


 俺は【鋏】型ギフトを阪柳さんに手渡した。


「……少し離れてて」

「? わかった」


 言われた通り少し離れた。

 いったい何をする気なのだろうか?


「……《死血之戦乙女ブラッド・ヴァルキリー》」


 刹那、阪柳さんの髪と眼が真紅に染まり、全身から真っ赤なオーラを漂わせながら、まるで何事もなかったかのように立ち上がった。


「なんで普通に立ち上がってんの……? あと、その姿は?」

「……《死血之戦乙女》は血を流した分だけ身体能力と血を操る力を強化することができる技。この状態ならどんな致命傷を負っていたとしても活動できる。髪と眼の色は発動の証」

「うわっ、チートかよ」

「……その分いろいろと厳しい条件がある。あと反動もすごい」

「まぁそうだろうな」


 俺の能力だってバンバン使えるわけじゃない。

 強い力にはそれなりの制約がある、と言うことだろう。


「……ごめん。話しは後。この状態、強いけど長くは持たないから」

「え、ああ、すまん。続けてくれ」

「……ん、了解。……《死血之治癒(ブラッド・ヒール)》」


 阪柳さんがそう口にした瞬間、流れていた血が無数の糸と成り結び付くように傷口を塞いだ。

 ほんの十数秒ほどで今までのやり取りがなかったかのように綺麗になった身体を見て、なんとなく複雑な気持ちになる。


 ……回復技も完備とか、どこまでチートだよ。


「終わったか?」

「……ん」

「そうか。って、すまん」

「……?」


 俺は阪柳さんの今の恰好をみて思わず顔を背ける。


 今までは傷や血のせいで気にならなかったが、傷が治った今、穴だらけの制服から覗く素肌がエr――じゃなくて、艶めかし過ぎて正直目のやり場に困る。


「と、とりあえずこれ着とけよ。ちょっと大きいかもだけど、流石にその恰好じゃマズいだろ」


 俺は鞄の中から黒の上着を取り出し阪柳さんに手渡す。

 最近少し肌寒いから、という理由で鞄に突っ込んでいたが、思いがけないタイミングで役に立ったな。


 俺の渡した上着に身を包む阪柳さん。


 うん。何と言うか、やっぱりちょっとデカかったな。

 スカートまですっぽり覆われたせいで、これはこれでって感じだ。


 …………まぁ、嫌いじゃない。


 そんなことを思っていると、阪柳さんは袖をキュッと握りしめ口元を抑えながら、


「……ありがと」


 小さな声でそう言った。


「……別にこれぐらい気にしなくていいよ。それよりも、さっそくだが聞きたいことが――」

「……待って」

「? どうした?」

「……今はダメ」

「ちょっと待て。先に言っておくが今更教えないなんて無しだからな……?」

「……分かってる。でも今はダメ。そう長くないうちに人がやって来る。今の状況を見られるのは……いろいろと面倒」

「ぐっ。……そう、だな。すまん、少し焦ってたみたいだ」

「……ん、問題ない。それに、私も一つ謝らないといけない事がある」

「謝る? 何かあったか?」

「……ある。さっきも言ったけど、《死血之戦乙女》は長くは持たない」


 そういえばそんなこと言ってたな。


「……だけどこれが切れたら、()()()()()()


 ………………ん? 何だって?

 俺の聞き間違えか? 俺の耳が確かなら今、気絶するって――。


「……あと数秒で効果が切れる」

「オイまさか! 冗談だよな!?」

「……これは、本当。後はよろし、く……」


 プツンッと、まるで糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる阪柳さん。

 その髪の色はいつの間にか元の銀髪へと戻っていた。


 ……いやいや、ちょっと待ってくれ。

 今さっきこいつ自身が言ったよな? もうすぐ人が来るって。

 それなのにこの状況で気絶?

 俺だってもうクタクタなのに、これからすぐ人ひとり抱えて逃げろって?


 アホかこいつ!? 気絶するなら先にそう言えよ! 結局倒れるんならギフト返した意味ねぇじゃん!!


「おい、アレ……3階の窓割れてね……?」

「うわっマジだ。さっきの音ってアレだったのかよ」

「どうする? 見に行くか?」

「当然!」


 当然じゃねぇ!!


 外から聞こえた声に思わず叫びそうになるが、そこはぐっとこらえる。

 マズい、マズいぞ……ッ、本格的に時間が無い……ッ!


「~~~~ッ、いろいろ言いたいことはあるが、取り敢えず今は全部後回しだ! クッソ覚えてろよこの野郎!!」


 この後俺は阪柳さんを抱え、人の目を避けるため非常階段を使って旧校舎を後にした。

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