白銀の少女と真紅の鋏 6
やばいッ、やばいやばいやばいやばい……ッ!
さっきは勢いで「絶対に勝ってやる!」とか言っちゃったけどさ! 実際勝てる気しないんだけど!?
俺の能力? 時間操作能力ですが? チートですが何か!?
ハッ! そんなものがあっても本人が戦えないんだったらクソほどの役にも立たんのじゃ!
と言うか真剣な話、さっきからこいつの攻撃を避けるので手一杯で反撃できない……ッ。
今のところは避ける瞬間にだけ加速するようにしてるお陰でどうにか誤魔化してるが、着実に《時間加速》の残り時間も減ってきている。
一か八か《時間停止》にすべてを掛けてみるという手もあるが、問題はその後だ。
時を、相手の動きを止めてどうする?
相手の能力は恐らく血液を武器にするもしくは手足の様に操る能力と見ていいだろう。
だが、動きを止めても鎖やロープなんて気の利いたものはないし、そもそも拘束したところで流れ出る血をどうにもできない。
どの程度血を自由に操れるのかは分からないが、最悪の可能性を想定しておくべきだ。
最悪衣服に染みている血も使用できる可能性がある。
同じ理由で《時間減速》も使えない。
と言うか、これには致命的な弱点があるからな。使う以前の問題だ。
一気に接近して殴り飛ばすという手もあるにはあるが……、相手の筋力の値が気になるところだな。
俺が筋力を上げてみた感想だと、筋力の値は単純な攻撃力だけじゃない。恐らく、自分の防御力にも直結する。
見た目が中……いや、小学生並みでも、筋力の値が俺よりも高かった場合、押し負けるのは俺だろう。
だがしかし、俺の方が高かった場合それが勝利への鍵になるのもまた事実。
どうにかして確かめる方法はないのか……!?
試しにで使えるほど《時間停止》の秒数は残ってないし、仮に投擲武器でもあれば話は別なんだが……っ。
「……《死血之弾丸》」
「ッ、《時間加速》ッ!」
俺が加速してその場を離れた瞬間、今まで居た場所に血の弾丸が飛来して壁や床に穴を開ける。
正直、生きた心地がしない。
「……むぅ、当たらない。……身体強化系の能力? それとも単純に高速移動系? どちらにしても面倒。避けないで」
「無茶言うなっ!」
そう簡単に当たってたまるかよ!!
割と本気でシャレにならないからな!?
阪柳さんはああ言っているが、その反応速度は着実に俺の移動速度に追いつきつつある。
それに、さっきからどんどん手首や腕を切っていくせいで弾丸の数も範囲も目に見えて増えている。
やっぱり阪柳さんの能力発動のトリガーはあの鋏で切り裂くことか……?
いっそのこと出血多量で倒れてくれたらいいんだが、期待はしない方がいいだろうな。
しっかし、あのギフト……朝感じた俺の嫌な予感は的中だな。
【鋏】型なんてそれだけで武器として使用できるじゃねぇか。
こっちは懐中時計だって言うのに、羨ましいねまったく――――あれ? ちょ、ちょっと待て!?
あるじゃん! 弱点! そう、そうだよ! ”ギフト”! アレを奪えば取り敢えずは相手の能力発動を阻止できるだろ!?
俺はゲーム画面のようなものを出現させ、チラッと《時間停止》の残り時間を見る。
――――《時間停止》/00:28――――
「…………やるしかない、か。俺も覚悟を決めないとな」
俺は立ち上がり、阪柳さんに向き直る。
それを見た阪柳さんは首を傾げて口を開く。
「……? 諦めた?」
「いいやまったく。むしろ阪柳さんを倒す覚悟ができたんだよ」
「……倒す? あなたが、私を?」
「それ以外に何がある? 言っておくが、俺は本気だぜ?」
「…………面白い、やってみるといい。私はそれを全力で阻止する」
阻止するのかよ! そこは普通「受けて立つ」とかじゃないの!?
まぁ、
「止めれるもんなら止めてみろッ! 《時間停止》ッ!」
「《死血之細針》」
俺と阪柳さんの能力がほぼ同時に発動する。
とはいえ、同時なら俺の能力の方が早い。
俺はすべてが停止した世界で急いで阪柳さんに近づく。
そしてギフトである鋏をその手から奪うため、手を伸ばした。
が、
「おいおい、冗談だろ……? この鋏、血で固定されてるぞ……!?」
極細の血の糸が阪柳さんの手と鋏を巻き付けて固定していた。
どうにか外そうと試みるが、血の糸が固すぎてどうにもならなかった。
そりゃそうだよな。
ギフトがすべての能力者に共通する弱点なら、何の対策もしないわけがない。
「マズいな、当てが外れた。ただでさえ時間が無いってのに……ッ」
俺は残された時間を使って打開策を考える。
そして、一つだけ思い至った。
阪柳さんは今、能力を発動している。
だったらその能力を逆に利用したらいいんじゃないか?
見たところ阪柳さんに変化はない。振りなどのモーションもなかった。
ってことは、俺の居たところに直接仕掛けてくるのでは?
となると謎なのは血だが、よくよく考えたらあるじゃないか!
壁や床に大量に撃ち込まれた弾丸が!
つまり、今まで撃ち込んでいた弾丸を利用して能力を発動したということだろう。
だとしたら、今まで俺の居た場所に阪柳さんを移動させることができれば!
そう考えた俺は残りの時間を使って阪柳さんを運び、念のため壁の方を向かせた状態で《時間停止》を解除した。
「……ぇ」
阪柳さんから驚きの声が漏れる。
次の瞬間、阪柳さんの全身を真紅の針が貫いた。




