英霊魔人血風録「佐々木小次郎」
某忍殺の影響を受けております、ご注意ください。
(これまでのあらすじ:過去の英霊の力と魂を受け継ぐ英霊魔人が跋扈するネオトーキョー。
記憶喪失の魔人・天草四郎。ネオトーキョーの路地裏を歩いていた彼は、一人の男と出会う。
手には一刀、瞳には狂気。彼は自らを"佐々木小次郎"と名乗ったのだった)
佐々木小次郎。そう名乗ったインバネスコート姿の男の足元には、上下に両断された男の身体。
真っ赤な流血や臓物が漏れ出て、男のブーツを濡らしていた。
「拙者、佐々木小次郎と申す者。やっかいな所を見られましたな」
血に塗れた顔で笑いながら、彼はそう言った。
「佐々木小次郎。巌流の天才剣士。貴方も"英霊魔人"として蘇っていたのか……!」
「如何にも。そちらもご同輩、同じ英霊魔人のようだ。名は?」
「――天草、四郎」
「島原の乱の頭領にして奇跡を起こしたとかいうあの! これは良い獲物に恵まれたものだ」
ニヤニヤと笑いながら、彼――佐々木小次郎は刀を構える。その刀身は身の丈ほどもある。物干し竿と呼ばれる彼の愛刀だ。
「英霊魔人としてこの世に蘇ったのは良いが――所詮拙者は剣士。人を斬る事しか出来ぬ男。
――だが」
人は。斬り飽きた、と彼は続けた。
「人は斬り飽きた。だがここに、もっと面白そうな獲物がいるではござらぬか」
チャキ、と刀をこちらに向ける小次郎。
「英霊魔人。人以上の存在、化け物。――そのような存在こそ、拙者は斬ってみたい……!」
ニヤリ、と小次郎は凄絶な笑みを浮かべた。
「黙って斬られるつもりはありませんよ……!」
私は呟き、魔人としての魔力を解き放つ。魔力は身体を覆い、黒の陣羽織と具足、そして太刀へと具現化する。
それらを纏い、私は小次郎と相対した。
「よいよい、どうせ斬るなら最高の化け物でなければな!」
いよいよ笑みを深めた小次郎、物干し竿を蜻蛉の構えに。
対して私は、太刀を正眼に構え迎え撃つ。
「巌流――英霊魔人・佐々木小次郎」
「英霊魔人・天草四郎」
「いざ」
「尋常に――」
「「勝負!!!」」
太刀の長さは圧倒的に小次郎の方が有利。故に私は彼の間合いの内側に入らなければならない。
太刀を構えたまま突撃する。それを迎え撃つ彼の物干し竿の一閃。
「イヤーッ!」
――紙一重で見切り、体を右にずらしてその剣閃を避ける!
「小次郎破れたり!」
物干し竿を振りぬいた小次郎。その隙だらけの身体を両断せんと、私は太刀を上段に構える。しかし――
「――英霊奥義"燕返し"!」
「――!? グワーッ!!」
上段から下段へと振りぬかれた物干し竿が――その軌道を鋭角に変え、私の脇腹に食い込んでいた。
燕返し。佐々木小次郎の代名詞とも言うべき剣技。一方向に斬りつけながら、瞬時に別方向へと軌道を変える絶技。
「――ぐ、がぁ……!」
下段から脇腹へと食い込んだ物干し竿が、私の身体を両断せんとぐいぐいと切り込んでくる。
「ハハハ、さすがは英霊魔人というべきかな? 斬りにくい身体だ――だがここまで斬れば問題あるまい」
堪えきれず笑いながら、小次郎は物干し竿を斬り進め、私の胸の中央まで進めていく。
――そこで、物干し竿が止まる。
「――む?」
「小次郎殿。ご教授しよう」
「私は、頭を潰さぬ限り死なぬのですよ」
「何?」
物干し竿を進めようと力を入れる小次郎。
しかし英霊魔人である私の肉体が、それ以上進ませまいと、物干し竿を胸の中央で固定している。
「斬らせた肉、断たせた骨で刃を止める。外法"骨肉白羽取り"」
「なんという外法! ――ハハハ、面白い! さすがは化け物、英霊魔人!!」
笑う小次郎を前に、私はさらなる外法を繰り出す。
「――鋼鉄纏いて刃となれ、"八連肋骨刃"!」
――斬ッ!
私の胸から八つの刃が突如として突き出し――小次郎の上半身を貫いた。
「――これ、は――」
「肋骨八本に鋼鉄を纏わせ刃として体外に射出する。外法"八連肋骨刃"」
信じられぬモノを見た、という面持ちで目を見開く小次郎。
彼の胸を貫いた私の"八連肋骨刃"の一つは、彼の頭蓋を眉間から貫いていた。
「何という――化け、物――」
「――はは、はははははは! 何という人外! 何という化け物!
ははは――そんなものと戦えるとは! 世界は広いな、天草殿!」
狂笑。頭蓋を貫かれた小次郎は弾かれたように笑い――
「今生も良い人生だった! ――サラバ!!」
辞世の句と共に、爆散した。
斬り殺すことを楽しみ、斬り殺されることをも楽しむ。
英霊魔人にして人斬り、巌流・佐々木小次郎。
「恐ろしい、相手だった――」
呟き、私はばたりと倒れる。爆散した小次郎の死体やら自分の流した血やらでグチャグチャな血だまりへと。
英霊魔人の戦いは流血と共にある。
血だまりに沈みながら、ふとそんなことを考える。
あの人斬りのように、血を好み血に酔うぐらいになれば多少は楽になるのかもしれない。
しかし――
「まだ私は、"これ"を気味が悪い、と思っていたい」
例え英霊魔人が人外の化け物でも。血に塗れ流血と共にある存在だとしても。
血を恐れ、血を避けたい――そんな"普通"でいたい。
記憶喪失の魔人・天草四郎は、そう思うのだった。
英霊魔人血風録「佐々木小次郎」完
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