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ギルド狩り

「あなた方に紹介できる依頼も増えました」

 ギルドに行くと受付嬢にそう言われた。

 やはり信用の無い冒険者には大口の依頼や割のいい依頼は流されないものらしい。ゲームの頃からの事ではあるが、なかなかシビアな話である。

 アイテムを集めてくるとか、モンスターの退治をするなどの依頼もある。これらは最初は見せてもらえなかった依頼だ。

「アライアンスに入ると、いい依頼も取れますが……」

 ふとミツが言い俺を見る。アライアンスとは冒険者が作っているチームの事だ。

 どこかのアライアンスに入る事を次の目標にしないかと聞いているのだ。

「そうだな……俺達は……」

 そこまで言ってふと考える。

「アライアンスに入ると、上納やら内部の人間関係やらで難儀をすると聞きます」

 サナが言うが、ミツがひと睨みをすると直立不動になって構える。アライアンスに入ろうという話をしているのに、何を言っているんだというところだろう。

 アライアンスに入るにはやはりデメリットもある。

 アライアンスの雰囲気にもよるし、もしガチ体育会系の所に入ってしまったら、未来は絶望しかないだろう。ゲーム時代。何件ものアライアンスを巡って、受け入れてくれるところを探し出した俺からすると、うかつなところには入れない。

「どこのアライアンスに入るかを決めるのは早計だよ」

 サナとしては大きいアライアンスにでも入りたいのだろうがここは譲れない。

「目先の仕事を優先しよう」

 そう言い、今日の宿代のためにギルドの依頼を選んだ。


 昨日、少年を追ってやってきたダンジョンに入った。

「火牛の角ってそんなに人気あったんだ……」

 ギルドの受付嬢の言葉によると、湯を沸かすための必須アイテムとの事だ。火牛を倒して数パーセントの確率で取れる角を五個集めないといけない。

 もちろん、今日一日で集めなきゃならないものでもないので、依頼は余裕で達成できるだろう。

「しかし、これがダンジョンの入り口の光景かよ」

 露店を開いてジュースを売る者、シートを敷き、サンドイッチを囲んで談笑をしている奴らまでいる。

 ゲーム時代もこんな感じだった。ここのモンスターは初級冒険者でも倒せるような奴らだ、これだけ人数が集まっていたら、出て来ても術師や狩人の総攻撃を受けて、消し炭になるだけだ。

 俺達がダンジョンの奥に進もうとすると、後ろから「がんばれよー」と声をかけられた。本当にダンジョンの入り口の空気じゃない。


「そっち行ったぞ!」

 サナに声をかける。

 ゲーム時代は、モンスターは死ぬまでプレイヤーに向かってきたが、手負いになったモンスターは逃げ出そうとする。

 サナの方に向かって逃げようとした牛のモンスターを、サナは剣士のスキル。『居合』で片づけた。牛は『居合』の威力で吹き飛ばされ、地面を転がった後に煙になって消えていった。

「最初の一個です」

 サナは熱を持ったままの角を持って言う。

「この様子なら、順調にいきそうだな」

 三体目の牛で運よく火牛の角が手に入った。

 三人で集まり、俺がみんなに治術をかけていった。

「いやはや、お見事だね君ら」

 俺達が火牛を倒しているところを見物していた奴がいたのだ。

「いい逸材だよ!」

 男と女の二人組の女の方が言う。

「俺達のアライアンスに入らないかい? 今絶賛募集をしていてね」

 その言葉を聞くと、俺は唸った。

「どこかに入ろうとは思っているのですが……」

 それに、目を輝かせたその男は話し出した。


 特に決まりや上納もない。集会があるが参加は自由。

 それを話した男はカイトと名乗った、そのカイトがアライアンスのマスターなのだという。

「入ってみたらいいんじゃないですか? 特に厳しくなさそうですし」

 ミツは言う。確かにゆるいアライアンスを探してた俺達としては十分希望にあうところだ。

「アライアンスの作りかたってどうやるんですか?」

 俺は聞く。実は昔から一度やってみたい事があったのだ。

「力を見せないといけない」

 話によると、アライアンスを作るには、国からの許可が必要だという。

 ある程度の力を見せる必要があるといい。難易度最上級の山に入って、鉱石を取ってこないといけない。

「その鉱石を加工していつも肌身離さずに持ち歩いているんだ」

 その鉱石を通じて、アライアンスの仲間は会話ができるようになる。

「他のみんなにも聞こえちゃうのが難点だけど」

 ゲーム時代のギルドチャットのようなものだろう。

「俺達、自分のアライアンスを作りたいです」

 そう言うと、カイトはキョトンとした。

 俺は、自分でアライアンスを作らなかった事を心残りにしていた。

 ライトユーザーが多かった初期の頃、誘えば乗ってくる人も多かっただろう。ゲームもできてから時間が経って、大体の人はどこかの同盟に所属してしまい、誘っても来る人はいなかった。

「なるほど。面白い」

 カイトは言った。

「気が変わってうちに入りたくなったらいつでも言ってくれよ」

 そして、俺達は別れたのだった。


 その日の夜、俺は宿の一階にあるレストランで話し合った。

「私達のギルド。いいと思います」

「私も賛成だ」

 ミツとサナの二人はそれぞれ言う。

 火牛の角も運よく集まり依頼料をもらう。

 依頼料は、十日はラクにやっていける額であった。

「難易度最上級の山。鬼神山でも、危険な奴だけ逃げれば俺達でもいけるんだ」

 ゲーム時代と同じであれば、足の速いモンスターはいない。そして鉱石の場所にたどり着いたら、つるはしを使って鉱石を掘り出せばいい。

 簡単に済む話だし、冒険者は失敗して死んでも墓場で復活ができる。

 サナとミツはごくりと喉をならし、俺の作戦を聞いた。


 次の日、俺達は鬼神山にいくために準備をしていた。

 冒険者達の露店ではなく、街の住人達の経営する屋台の並んだ道で、俺達は旅の準備をしていた。

 ここには、携帯食料なども売っていたし、もしもの時のための薬草も売っていた。

 一通りの準備を整えたころ俺は後ろから声をかけられた。

「よっ。やっぱりここにいたな」

 その声の主はカイトだった。

「街の外にみんな待たせてる」

 いきなり言うカイト。

「みんな?」

 俺がポカンとしていると、カイトはその顔が見たかったという表情で笑った。


 街の外に出ると、カイトの仲間達が待っていたのだ。

「みんな! 今回のアライアンス定期狩りは、彼らの支援として鬼神山に向かうぞ!」

 そうカイトが言うとパチパチと拍手が鳴る。

「いいんですか! 後お金を請求されても払えないですよ!」

 ミツが驚いて言うが、俺は腹を抱えて笑った。

「ゲーム初期の頃のノリだな」

 そうだ。ゲームの初期の頃はこういうノリも珍しくなかった。誰かのクエストの支援とか、誰ががアイテムを望んでいたら、ギルドの仲間を集めてモンスター狩りにいったりだ。

「いいじゃないか。面倒を楽しむのが俺達冒険者だ。いい理由をつけてもらってよかったよ」

 そうだ。ゲームというのは面倒を楽しむためにあるものなのだ。

 俺が戻りたいと思っていた、昔のゲームが、ここに健在しているのだ。


「そっちいったぞ!」

「見て! 新しいモンスターがやってきてる!」

 アライアンスの人間を集めた狩りはもみくちゃになった。

 我先にとモンスターに群がる者。みんなの様子を冷静に観察し、必要な仲間に支援をする者。

「こういう狩りって後ろにいる方が危ないんだよな」

 初心者や気の弱い者はうしろからついてくる事になるが、横から湧いた敵やなどが最後尾の彼らと交戦すると、最後尾は遅れていってしまう。

「ミツ。支援をするから早く倒して」

 俺は最後尾を歩いていたミツに言う。サナはみんなにまけじと戦闘を走る集団と一緒になっていた。ミツもここ数日でそこそこの力を手に入れていた。

 下忍の速さを使ってモンスターを短刀で切りつける。

「とどめ!」

 ミツがモンスターの眉間に短刀を刺すと、モンスターは煙となって消えていく。

「みんなを追うんだ! このままじゃ取り残されちゃうぞ!」

 俺は最後尾にいる数人の冒険者に声をかけ、先を歩く奴らを追っていった。


「とまれ! ボスがいたぞ!」

 カイトの声を聞き、みんなの足が止まる。

「俺に任せておけ」

 カイトが言う。

 簡単に作戦を言うと、カイトが出て、敵の目を引き付ける。そして、その後遠距離攻撃をできる仲間たちでボスを攻撃する。

「このボスってたまに女神の盾を落とすんだよな」

 ゲーム時代はそうだった。多くの耐性を持つ万能防具だ。

 俺はメンバーに手あたり次第に禊をかけた。神の力の鱗片体に宿すという。いわゆる強化魔法だ。

 ミツはクナイを敵に投げつけている。

 クナイは下忍ギルドでそこそこの値で販売しているものだ。金欠のくせに無理をする。

 サナは剣をかまえていた。

 だが、サナの実力であいつに攻撃をしたら、一発でやられる。

 この二人の行動は順当なものである。

 カイトはボスモンスターの槍を受け止めていた。

「懐かしいな……」

 俺はギルド狩りの事を思い出す。

 あれはこの光景そのままだ。

 まだ育っていないキャラ達を率い、ライトユーザーの彼らが普段はいけないダンジョンに向かう。

 皆口々に言うのだ。

『はじめてこんなところに来た。楽しかった』

 みんなの力じゃいけない場所に連れていき、そう感謝をされるのは楽しい。

 俺も、皆を連れてきてよかったと思う。

 楽しかったり、感謝されてうれしかったりするのが、今では一生の思い出になって胸に残っているのだ。そして今、その時の事を思い出しながら全体の戦局を見て必要な人に治術や禊をかけて支援をする。

「おーい! 女神の盾が落ちたぞ!」

 ボスが消えた後、カイトが盾を上げてみんなに言う。

「百万で買うぞ!」

「俺は百二十万出すぞ!」

 その二人の言葉がはじめに、競りが始まっていく。

「待つんだ! 帰ってからにしよう!」

 カイトの言葉で競りが止まり、お祭り気分の集団は、目的地に向けて走っていく。

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