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ちょろい剣士のサナ

 街の下見をする事にした。

 冒険者達は冒険で手に入れたものを露店を開いて売っている。

 昼間の大通りは露店に希少な鉱石や、遠くにしか生えていない薬草。戦闘用の薬を作るのに使う植物の種などが並んでいる。

 一般の店は、それらの植物や鉱物の価値など分からないから、冒険者同士で取引をしているのだ。

「このアイテムはモンスターが弱いんだよな。これなら俺達でも狙える」

 アイテムは、モンスターの強さではなく、有用かどうかが値段を決める。弱いモンスターを狩って金を手に入れる事は十分可能だ。

 露店を開いている商人に声をかける。

「このアイテムってこんな高かったんだ」

「おうよ。簡単に手に入るけど、なんせ数が必要なんだ。持っているなら買い取るぜ」

「この店はいつまでやる?」

 そう聞くと、どうやらこの店は昼頃には閉まってしまうらしい事を言われる。

 昼までにモンスターの部位を切り取って、この露店に売れば、まとまった金が入る。

 俺達の最初の目標は宵越しの銭を持つことだ。

 閉まりかけた店に無理言って頼んで討伐証拠を買い取ってもらうような事はしなくてもよくなる。

 宿に持ち込んで、明日の朝に売ればいいのだ。

「ミツ。近山にまた行って、これを集めてくるよ」

 集めるのはモンスターの爪だ。これがいい商売になるようで、細工に使うらしい。


 俺は先立つ金を手に入れるために街の門をくぐった。

「おい! そこの法師君!」

 門をくぐり、少し歩くと声をかけられた。声をかけてきたのは、剣士の女の子だった。

「なぜ忍者などと一緒にいるのかね!」

 なぜと言われてもな。昨日一緒に組んで気があったから今日もペアを組んでいるだけだが。

 だが、この剣士の言いたいことは察しが付く。俺とパーティを組みたいんだろう。

「仲間はもう間に合っているんで」

 たまにいるんだ。こういう奴が。仲間を作るのがドヘタな奴。

 ゲームをやっていた経験上、こういう奴は関わらない方がいい。気の毒に思って友達になっても、どっかで問題を起こす。

 それで、連れてきた俺に非難が向かってくるのだ。

「セイヤさんは私のものです!」

 俺の前に立ち、ミツが言う。ミツも剣士の言いたいことは察している様子だ。

「なんだと! 下忍と言えば薄汚い無法者ではないか。清廉な法師が、こんな者と組むとロクな事にならないぞ」

 そうだよな。確かに忍者なんて薄汚い影のお仕事だ。

「セイヤさんは私のものです!」

 今の言葉に言い返せない様子のミツ。同じことを繰り返して言うだけ。やはり口下手で口論には向かない。

「どうせ、色仕掛けでも使ってたらしこんだのだろう。忍者はそういうものだ」

「はい、たらし込まれました。昨日の夜も一緒のベッドで寝たからな」

「き……貴様! 一緒のベッドだと!」

 顔を真っ赤にした剣士が言う。なかなかかわいい反応をするものだ。

 そしたら剣士は膝をついて崩れ落ちた。

「うえーん……やっぱ仲間を作るってそれくらいしなきゃいけないのかー!」

 いままでの凛とした態度はどこへやら。

 強気な態度を押し通すことができなくなり、半べそをかき始めたのだ。

「うえーん……って君ね」

 泣かれたらこっちもどうしようもない。この剣士の話くらいは聞いてあげることにする。


「なるほど。剣士は装備にお金がかかるから……」

 法師と組んで、回復薬の丸薬代を浮かそうと思ったという事だ。

 さっき、泣いちゃった剣士は、サナという名らしい。

「三日間何も食べてないんだ……」

 傷を治す方法が丸薬しかなく、食費も武器代も丸薬に消えてしまう。

「非常食だけど、食べる?」

 俺はなけなしの小銭で買った干し肉を出した。

 昼のおやつにでもしようとして用意していたものだ。

 サナは俺から肉を奪い取るとそれを口の中に入れた。

「また泣くかい」

 泣きながら干し肉を食べるサナ。

「三日ぶりのごちそうだ!」

 ゴクンと飲み込んだ後にそう叫ぶ。

 これがごちそうとは、よっぽどなものしか食べていないらしい。

「私の分の食べますか?」

 ミツはサナに向けて言う。獲物を狙うような目をしたサナは、すぐにうなずいた。

「今日一日、私の下僕になるならいいですよ」

 またミツも何を言い出すのか? 意外とサドっけのあるミツ。

「ワン!」

 何も言われてないのに自分から言い出すサナ。

 こんな短時間で主従関係が成立しちゃったのだろうか?

「さっき私の事を薄汚い無法者といいましたね。主君についてこその侍でしょう? 主君もなしに剣を振り回す者なんてそれでこそ無法者でしかないでしょう」

「おいこら……」

 ミツはノッてしまったようだ。サナに向けて言う言葉にしても、ひどすぎる。

「はい。私は世間知らずの馬鹿者でした。どうか、お許しください」

 サナもこんな事言いだしちゃったよ。

「今回は許そうじゃないですか。私達のために安い命を捧げて戦えばねぇ」

 あれ? これって、主従関係ができていないか?

 ミツという主人に従う犬のようになったサナ。

「えっと……三人パーティになるって事かな?」

 サナが仲間に加わったのか、よくわからない状況だった。


 サナも加えて問題の爪を持つモンスターを狩りに来た俺達。

「ミツ様! 敵の攻撃はお任せください!」

 剣士には挑発のスキルがある。それで、敵を引き寄せていた。

 完全にミツの奴隷となったサナは、敵をまとめて集めている。俺が治術をかけるのはサナだけだ。

「この剣士チョロイですね。セイヤさん」

「同意を求めんでくれ」

 悪い顔をして笑うミツ。

 最初の頃の気弱な女の子の印象は、とうの昔にどこか遠いところに消えていた。

 たしかに三人になると、モンスターを見つけるのも早いし、倒すのも早い。

「三人いるなら、もっと強い敵を狙ってもよかったな……」

 昼にはあの露店も閉まってしまう。

 今日のモンスター狩りは早めに切り上げて、街へ戻った。


「これだけあったら十万ってところだな」

 集めたモンスターの爪はその値段で買い取ってもらえた。

「さて。三人で分けると三万くらいづつか」

 俺とミツとサナでその金は山分けすることになる。これだけあれば食事もできるし、宿も取れる。

「私は今からお二人のために宿をとってきまする」

 完全にミツの奴隷となったサナはそう言った。

 昼間のうちに宿をとっておくというのは、間違った判断ではない。だが、サナが奴隷のように動くのはいただけない。

 ふと俺は疑問に思った。この世界で死んだら、生き返れないのではないか。

 カクリヨオンラインの頃は、死んだら寺に飛ばされ、死んでしまうとは情けない的な事を言われてまた元気に復帰をできたのだが、今はどうなるだろうか。

「冒険者は死んだら墓場に飛ばされるものでは?」

 ミツは言う。

 なるほど、その辺もヌルいのだ。

 本当にゲーム感覚で冒険ができるのである。


 とりあえず、ある程度のメドはついた。

「メシに困るような状態からは抜け出た。これからの方針を話し合いたい」

 俺は昼食の後で二人に話した。

「俺達の目標は何にするか?」

 死ぬまで暮らしていけるくらいのたくわえを溜めて、一生遊んで暮らすか?

 名を上げて、冒険者の頂を目指すか?

「頂目指してどうするんですか?」

 ミツが間髪入れずに聞いてきた。その道を究めて有名になりたいと考えるのは、正しい思考だと思うが、金がなくて家を出ざるを得なかったミツにとっては、そこまで考えられないか。

「私は、領主に取り立ててもらって侍になりだい」

 サナは言う。

 侍っていうのは、仕えるって意味がある。

 主君に仕え、忠誠の見返りとして土地をもらい徴税で生きていくそれが侍だ。

 ただ、剣を振り回しているだけの者は野武士とか武者とか言う。

「どうにしろ一攫千金を狙うにはそれなりの名声を上げる必要はあるね」

 その結果、どこかの領主に取り立ててもらう事もありえるだろう。

「俺達は冒険者として名を上げる必要がある。それを言いたかった」

 だから日銭を稼ぐ事だけを続けていても、ダラダラと生きていくのと変わりはない。

 そして、名声を得るなら強いモンスターの討伐をしなければならない。

 俺の言いたいことはそれだ。

 俺の目標は、金を集めて一生遊んで暮らす事である。折角一攫千金を狙える地位にあるのだ。この状況を有効に使って成功を得たい。

「ギルドに行って仕事を探そうと思う」

 ギルドでの仕事をこなしていけば、次第に有名になっていく。

 先に調べておいたが、この世界のギルドは仕事への貢献度で受けられる仕事のランクが変わる。

 いろんなギルドの依頼をこなす必要があるのだ。


 ギルドに行くと、ガラの悪い男たちがいるのを想像していたが、そんな事もなかった。

 若い者が多く女性も多い。

「セイヤさん。何を見ているんですか?」

 ミツが言ってくる。俺が狩人の女性に目が行っているのに気づいたらしい。

 ほっぺをつねって顔を自分の方に向けるミツ。

「ミツは俺のかーちゃんかよ」

 文句を言い、依頼の紙の貼られた所に行く。

 硬い、印刷を使って書いたような依頼書にこう書いてあった。

『私の息子が冒険者と一緒に遊ぶようになってから心配です。最近はあるダンジョンに冒険者と一緒に行っているという話もしています』

 この一文から始まる依頼を俺は選んだ。

「その冒険者の身元や評判を調べてほしいという事だ」

 一通り依頼書を読んだ俺は、ざっくりと依頼の内容を話した。

「子供を連れてダンジョンに行くなんて、いい冒険者じゃないですか」

 呑気にミツは言う。

 だが俺が思い出すに、このダンジョンは、なぜか人が集まり、たまり場と化している場所だった。

 この世界がゲームだった頃、俺もそのダンジョンに通い詰めて集まった人たちとだべっていた記憶がある。

「あそこには高く売れるアイテムがあるんだよね」

 火牛の角と呼ばれるアイテムがあり、それは冒険者ではない商人にも高値で売れるアイテムだ。

 モンスターから切り取った後も、熱さが覚めず、湯を沸かすのによく使われるという。

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