プロローグ
プロローグ
ネットゲームが終わるときっていうのは寂しいもんだ。
昔はプレイ人数も多く、キャラ同士の交流も盛んだった。
だが、今はレベルキャップも二百になり、ゲーム内通貨で一千万を超えるような値段の装備を使用しないと、まともにモンスター狩りもできない。
課金アイテムを使ってキャラの強化をして、やっとこのゲームでは一人前。
そんな猛者ばかりが残る。
このゲームにそんな金をかける事のできないユーザーはどんどん辞めていく。そして、遂にはサーバーも一つだけとなり、このゲームのサービス停止が宣言された。
コンビニバイトで口に糊をしている俺は、課金なしでやってきた。
このギルドは、周りからの理解もあり、課金をしてついてくる事を強要してこなかった。
そんな仲間たちに感謝し、なつかしさからこのゲームを離れられなかった俺は、細々とやってきたのだ。
だが、それでもこのゲームは終わる。
前々から『そろそろだろう』と諦めていた俺は、このゲームからはじき出されるまで、ブラウザを消さずにギルドの砦の中で、昔からの仲間とチャットを楽しもうと決めていた。
そして、それに賛同してくれる仲間も多かった。
「昔はもっと露店も多かったなぁ」
「モンスター召喚をして町中で暴れる奴も、今となっては懐かしい」
自分の持ち物を売る露店商も、いまは数もまばらだ。しかも、昔と比べて値段も跳ね上がっている。
このゲームも終わりとなると、そういう感慨も生まれてくる。
仲間の一人がログアウトをした。
青色の光に包まれて姿が消える仲間。終わりの時がどんどんと近づいてくるのを実感する。
「ロートさん。落ちたか」
ロートはドイツ語で『赤色』の事を言うらしい。
自分のキャラに、必ずロートの文字を入れる人だった。
ロートさんから始まって、次々に仲間がログアウトしていく。
「もう二人ですか」
最後に残ったのは春さんという人だ。
春風というキャラで俺と会話している。
だがそれも長くはできないだろう。
「もう一度、このゲームをやり直したいと思った事はないですか?」
ふと春さんが聞いてきた。
「ゲームシステムも、アップデートもまだの時代に戻って、これからアップデートしていったり、次はどんなダンジョンが実装されるのか? ってワクワクしたり」
確かにそれは考えたことがある。
ネットゲームでの稼ぎ方というのが深く浸透していなかった時代から、このゲームはある。
よくある、難易度を高くすれば、ユーザーは、意地でもクリアしようとする。
または、課金アイテムを強力なものにすれば、こぞってみんなゲームに課金をする。
いまやそんなものばかり。
あの手この手でユーザーに課金をさせようとする今のシステムには食傷気味だ。
「このゲームもこんなに難しくなくて、ライトな人が大勢いたり」
そして、春さんのいうライトな人達と一緒になって狩りに行き、みんなを助けてそのパーティでヒーローになったり。
そこまで考えたところで春さんもログアウトしていった。
「一人か。でも追い出されるまで粘ってやる」
最後にこの砦には俺だけが残る。
名残惜しいこのゲーム。自分から離れてしまうのも忍びない。ゲーム画面をぼうっとして見つめ続けているうちに、俺はうつらうつらと眠りについてしまう。