過去 ~パッセ~
俺の父さんは王国軍であった、が、俺が生まれる前にイドリッド連邦のクーデターをおさめるために、連邦軍との共同作戦に出兵(出兵と言えど永久非交戦権の効果によって交戦を認められない後方支援である。)、その地で父さんはほぼ前線に近い場所の救護活動ををしていた際、最前線の防衛施設が陥落、その直後、連邦軍と父さんのいた部隊は全滅。父さんは帰らぬ人となった。そういうこともあり母さん一人で、俺と姉を育ててくれていた。
16年前...
スライン王国ジャンヌ村に真冬が訪れた1875年2月、俺が幼い時、あの日は丁度寝る前に、母さんが俺と姉に童話を読んでいてくれた時...
絶対に忘れられない出来事が起こった。
母と姉が殺されたのだ。
ドアが叩く音がした、母さんは「こんな時間に誰かしら、ここで待っててね。」と、言いながらドアに近づいていった。母さんがドアを開けると、「ここに絶対あるはずだ!研究資料を出せ!早く出せ!」と、黒服の男3人が母さんに向かって怒鳴った。
1人の男が銃を母さんに向けた。が、母さんはこういった。
「知らない。」と。
そういうと男は笑いながら母さんを打った。打たれた後の母さんの表情は忘れられない。
俺たちに向かって、微笑んでいたのだ。
その後、男たちは、家に入ってきて荒らし始めた。
「あったぞ!研究資料だ!これでこれで...」
どうやら資料は見つけたらしいが、そんなのには当時の状況の俺には気にしてなかった。
男たちがこれで帰ると思ったが、そう甘くはなかった。
「おい、こいつ女だぜ!もって帰るか?」
「あぁ、そうしよう。ははは!!」
そういうと男たちは、隣にいた姉を連れさらって行った。
それから、姉に会えていない。
その後、この男たちは隣の家、アリスの家も襲ったのだ。
幸いアリスは母に地下室の方へ連れられ助かったらしいが、アリスの母は殺された。
後からわかったことだが、あの黒服の男たちは当時、ベル・マルクスがまだ権力が小さかった頃の手先だったらしい。
そして、親がいなくなった俺らは、孤児院でこの前まで日々を過ごしていた。
母さんとアリスの母は、お隣さんと言うことも、気が合うことも、夫がどちらとも、出兵していたこともあり、仲がよかった。そのため、アリスとは、生まれたときからずっと仲良しであった。
母さんを殺され、同じようにアリスは母を殺された。俺らは、怒りと悲しみ、苦しみを抱きながら今日まで過ごしてきた。
だから俺は、たとえ何があろうとも、くじけず、この後に誰にも、自分のような悲しみが起こらないように兵に志願した。アリスに関しては、俺についていくといい志願した。
でも、実を言うと戦争などしたくないのだ。まぁ、幸いここは永久非交戦権を持った安全国なのでそれは必然的に叶うだろう。
と、あの日までは思っていた。
◇ ◇ ◇
1892年6月17日、オカリート演習所
「では、これより定期演習を行う!尚、本作戦は、二つの部隊に分かれて模擬戦を行う。部隊編成は、第1小隊、第3小隊はラーヴァン部隊、第2部隊、第4部隊はグワベン部隊とし、本日1000より本作戦を開始する!」
「は!」
今日、1ヶ月前の約束を果たす、隊長の、隊員の信頼を得る日がやってきた。
ルイたちがラーヴァン部隊は、09時30分に第2作戦大室に集合の予定だ。
09時00分にルイとアリスが入室した時には、既に半数以上が揃っていた。その中に、第1小隊隊長アルドワン・クロード中尉が居た。
「始めましてだな。ルイ兵長、アリス兵長。」
ルイが、クロードと目が合い、クロードが声をかけてきた。
「は!クロード中尉!共に本任務をでき光栄です!」
「そうだな、我も光栄だ。まぁ、ルイ兵長とアリス兵長は軍大卒兵士様様だから、こんな任務は朝飯前だろう。」
「そのような事はありません。私はこのような任務をいただいたのは、初めてなので。」
「せいぜい頑張るんだな。」
クロードは、そういい捨て台詞を吐くと、その場を離れた。
「ごめんな、私の同期が。」
声をかけてきたのは、マリーだ。
「いえいえ、もう慣れてきました。」
「もう、無理はしないでね。」
「はい!」
ルイが、こんな感じに言われるのは、初めてではない、よくあることだ、軍大卒兵はこのような嫌味をいわれるのだ。これを耐えるのが、軍大卒兵にとっての上層部に、上がる前の試練とも言っていい。
30分後、09時30分きっかりに、マリーが入室した。
「みんな集まったか!初めに、第3小隊隊長臨時の発表をする!オードラン・ルイ兵長、貴君を第3小隊隊長臨時に任命する!また、第3小隊副隊長臨時をシャロー・アリス兵長、貴君を任命する!」
「は!」
ルイとアリスの声が響く。
「続いて、作戦の確認だ!本作戦の指揮は第3小隊隊長臨時が執る、よって、これよりルイ兵長から説明だ!では、ルイ兵長、よろしく。」
そう言われルイは、前へ出た。
「は!本演習地は、この前にある地図のように、山と川で作られた地であります。それゆえに、体力が急激に奪われる可能性があります。本部隊は、敵と川1本、山一つ越しの地点が始点であります。それらを考慮し、4つの部隊にさらに分けます。1つの部隊は、正面から山を越し川で他部隊と合流、他3部隊は、山に沿って川に向かう。敵陣地のほうが山が広く広がっており、必然的に山を越すことになる。すなわち、時間がかかる。ゆえに、山を回る時間は取れます。また、全部隊合流後、推測でありますが、敵と牽制しあう形になるでしょう、その時間は計れませんが敵との交戦作戦を立てる時間はあるはずです。では、武運を!では解散であります!」
こうして定期演習は始まろうとしていた。そしてこの演習は歴史上に名が残る演習となるのだった。