二手に分かれて
布津は薄暗い通路を歩いていた。この通路には窓も無く、照明も最低限に落とされている。
コツ、コツ…
聞こえるのは自分の足音と、
カタ…カタカタ…
愛刀の鍔鳴り。まるで危険をいち早く察知しているようだった。
周囲に気配は無い。
…不意に、記憶がフラッシュバックする。
『こちらアルファ。敵兵の姿は無い』
自分が無線に話す声。次いで、無線からくぐもった声。
『了解。場所を変えろ』
『了解…』
俺はそこで意識を集中し―――
……ハッ。
「何を今更…」
布津はかぶりを振ると、正面を見据え再び歩き始めた。
カタカタ…カタ。
今度は、愛刀が嗤ったように聞こえた。
―――一方皇は。
「……。誰もいねぇな…」
曲がり角で様子を伺いながら、通路を進む。しかし何の影も形も無い。
ザザッ。
不意に無線が入る。
『ザザッ……。こちら布津。東通路に敵の姿は見受けられない』
一拍置いて月野の声。
『ザッ……。月野了解…ザッ』
「こちら皇。こっちも何も無い」
皇もそれに倣い、無線に話し掛ける。
『了解です』
『了解』
二人の声が聞こえ、続けて布津が喋る。
『ザッ……。皇。そのまま何も無ければ北口で合流してくれ』
「おぅ。了解っ」
皇は交信を終了すると、東側とは違い、窓から光が差し込む通路を進んでいった。