リベンジャー
都内から外れたネオン街。その一角の事務所に、柊の姿があった。
コツ、コツ…
廊下を歩く足音が聞こえる。足音は事務所の前で止まった。
コンコン。
ドアがノックされる。
「どうぞ。入って下さい」
ドアの向こうの人物に呼び掛ける。
ガチャ。ギィィィ…。
鉄扉を開けて入ってきた人物を出迎える。それは柊の良く知っている人物。
「お久し振りです。柊さん」
入ってきたのは、笠原と言う男。数年前の任務で自分の部下になった男だ。だが着任早々の任務に失敗し、古巣に戻っていたのである。
「やぁ。久し振りだね。笠原君。今度は宜しく頼むよ」
やや言葉に棘を含む。と同時に射る様な視線を向ける。
「その節は申し訳ありませんでした。次はありません」
言葉はややへりくだった言い方だが、様子は全くふてぶてしい。
…やはり使い難い男だ。心の中で舌打ちをする。まぁ良い。次はわざわざ切り札の一つを使わせてやるのだ。結果を出せなければ、末路は決する。
柊は満面の笑みを湛えて言う。
「ハッハッ。まあ過去の事だ。綺麗さっぱり…とは言えないが、頑張ってくれたまえ」
「はい、了解しました。……所で今回の任務とは?」
笠原の問いに柊が答える。
「ああ。現在我々が主に闘っている組織なのだが…。そこの拠点の一つを制圧して欲しい」
「拠点制圧…ですか」
訝しげな顔をする笠原に柊が言葉を付け加える。
「もちろん君一人でやれとは言わない。『あれ』を使ってくれて構わないよ。それに、現地にはさほど戦力は無い様だからね」
「………分かりました。全力を尽くします。それでは早速」
笠原が立ち上がる。柊がその姿に声を掛けた。
「『あれ』の調整は終わっている。後は壊さないように気を付けてくれ。…もっとも、壊れるかどうかも分からないけどね」
柊は不敵な笑みで締めくくる。
笠原は分かりました、と一言だけ言い残すと、ドアを開け去っていった。再び一人になる柊。
「…やれやれ」
独り言を残し、柊は立ち上がった。
カン、カン、カン…
靴底が鉄の階段を叩く。笠原は煙草を咥えながら呟いた。
「だーりぃ。ま、アイツが使えるなら少しはサボれるか」
煙草に火を着けると、笠原はネオン街へと消えていった…。