敵を追って
暗がりの中、皇がキョロキョロと辺りを見回している。どうやら見失ってしまったらしい。無線に手を掛けた。
「こちら皇。裏葉ちゃん、敵がどっちに行ったか分かる?」
少しの間が空き、返事が聞こえる。
『ザザッ……はい。そのすぐ側の階段を登っていってます』
「了解っ!ありがとう!」
皇は階段を見つけると、足早に階段を駆け上がっていった。
…3F、会議室前。笠原の姿がそこにあった。
「…あ。もしもし。笠原です。…してやられました。罠です。…はい。どうしますか柊さん?……はい。分かりました。ではそのように。…はい。…失礼します」
パタン、と携帯を閉じる。
……柊のヤツ、金切声上げやがって…。まぁいい。あの二人は一条が始末してくれるだろ…。
笠原は上がってきた階段とは別の、もう一つの階段に向かおうとした。…その時。
「見つけたぞ!そこを動くんじゃねぇ!!」
皇だった。一気に駆け出す。
もちろん大人しく捕まる笠原では無い。こちらも走り出す。
…何逃がしてるんだアイツは!…こうなったら…
笠原は舌打ちをしながら逃げる。階段を駆け上がり、屋上への扉を強引に開けた。
バァンッ!
やや遅れて、皇が扉を跳ね開ける!
不意に開けた視界と、差し込む光が一瞬、目を眩ませる。
…目が慣れると、追っていた男がこちらに向き直る。皇は扉を出て、男に正対した。