遭遇
カツン、カツン…
静かな鉄の廊下。聞こえるのは二人の靴音だけ。
布津は辺りを見回しながら慎重に歩を進める。皇はといえば何度も後ろを振り返りながら布津の後に続いていた。
「…何だか不気味だな…」
皇がボソリと呟いた。布津は薄く笑って、
「『出た』という話は聞いた事無いぞ」
「お、脅かすなよ…」
布津がやけに『出た』を強調して言った為、皇はビクビクしながら答えた。
…しかし静かだ。雰囲気はそれが出てもおかしく無い様相である。
「しっかし、お前にゃ怖いもん無いのかねぇ」
皇は布津を見やりながら言う。
……布津の歩みが止まった。目を見張っている。
「ん?どうしたんだ…」
つられて皇も布津の視線を追う。
そこには―――
あのサングラスの男が立っていた。
「お…お前は…っ」
皇は苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。その時、男の後方から声がした。
「やぁ…待ってたよ」
暗がりからもう一人の男が姿を現す。笠原だ。
「…ッ!」
皇が目を剥くのを尻目に、笠原が続ける。
「キミら二人だけか…。あんまり強く無さそうだね…」
ポン、とサングラスの男、一条の肩を叩く。
「僕の出る幕も無さそうだから、一条君、君に任せるよ」
笠原は踵を返すと、再び闇に溶け込む。
「テメェッ!待ちやがれぇぇ!」
突如激昂した皇を布津が押さえる。
「待てっ!…あのサングラスの男に迂闊に近寄るな!」
「うるせぇッ!アイツが逃げちまうだろッ!」
布津に押さえられながらも、物凄い力で暴れる皇。
「落ち着けッッ!」
布津の鋭い声。皇の動きが止まる。
「いいか?俺が援護する。お前はその隙に奴を追え」
布津はフッ、と笑って、
「頼んだぞ」
言いながら目の前の男に向き直る。
「言われるまでもねぇ。行くぜっ!」
皇が駆け出し、布津が後に続く!
ガンガンガン!
激しい靴音と共に、皇と一条の距離がどんどん縮まる。一条がそれを捉えようと手を伸ばし―――
「させるかっ!」
鋭い布津の上段蹴りが一条の顔面に襲いかかる!
ガッッッ!
しかし一条は腕でガードする。その隙に皇がその横を走り抜けていった。
「布津っ!死ぬんじゃねぇぞっ!」
皇は走りながら振り返り怒鳴る。布津は一条と間合いを取り、手を振った。…一条はというと、もう逃げたものには興味無いと言わんばかりに布津と正対していた。
……皇の姿が見えなくなると、待っていたかの様に布津が口を開いた。
「さて…。久し振りだな。三体目よ…」