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忍び寄る者
「まんまとやられたね…」
笠原はひとりごちる。
…折角要人拉致ってな楽そうな任務だってのに、ガセ掴まされるとはツイてない。
「ヤレヤレ…。ま、アイツらだけでも始末しときゃ、柊さんも文句言わねーだろ…」
施設の一階で布津達が探索している中、笠原の姿が二階の一室にあった。机の上には放置された書類。それは、こちらの動きが既に察知されていることを示すモノだった。
ふと、隣りにいる男を見やる。薄闇にサングラス。一条である。
「………」
一条は一言も発しない。…いつもの事なのだが。この男とは初めて組む。何度かは顔を合わせた事があるが、一言も声を聞いた事が無い。喋る気が無いのか、或いは喋れないのか。
笠原はフンッ、と鼻で笑うと立ち上がる。
「切り札、ね。まぁアテにしてるさ。じゃ、行こうか」
笠原が扉を開けると、一条が後に続く。
……いざとなりゃ、コイツに全部押し付けちまえば良いか…。
笠原は一人ほくそ笑んだ。