0.愛しい彼女のために
あなたは目にしただろうか。罪もない生き物たちの死に様を。
あなたは耳にしただろうか。信仰に裏切られた哀れな者たちの悲鳴を。
あなたは怒っただろうか。多くを救ったこの剣で、多くを虐げたこの私を。
生まれてすぐに私は運命に翻弄された。それでも、神という存在は、私の生き延びる可能性を残しておいてくれたのかもしれない。それがこのような事に繋がることも、すべて分かっての事だったのだろうか。
そもそも、私の見上げた先に、神はいるのだろうか。いるのならば、どうか教えて欲しい。善悪とは誰が決めるものであるのか。天罰とは本当にあるものなのか。
復讐を果たしたところで、過去は変えられない。流された涙も、響き渡った悲鳴も、何もかも救うことは出来ない。
私がこの手を血に染めた過去が、変えられぬように。
さあ、見るがいい。愚かな道化となったこの私の姿を。
神はいるのかいないのか。議論をしたところで何も始まらない。私が追い求めるのはただ一つの答え。この剣を血に染めてなお、見つからない答えを探して、復讐を遂げるのだ。
かつて私の周囲にあった温もりは何処へ消えたのだろう。
目を閉じればいつだってあの時のことが蘇ると信じていたのに、今や薄れ、思い出すことも難しい。隣にいた頃のことを、愛と希望を信じていた頃を、ただ懐かしみ、嘆くことしか出来ないなんて。
そのまま、朽ちてなるものか。
だから、私は彼女のために剣を握り締め、この指輪を嵌めたのだ。
愛しい彼女のため。彼女が笑ってくれればそれでいい。愛なのか狂気なのか、その境界さえも今や興味がない。
この世で最も美しい青い目をした愛しい彼女が望むのならば、私はこれまでの思い出をすべて燃やし尽くして灰にしよう。そして、悪魔にでもなってしまおう。あなたの望んだ世界のすべてを破壊しつくし、新しい世界を築いてみせよう。
赤き血で指輪と剣を穢してやろう。全ては愛する彼女のために。




