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AMARYLLIS  作者: ねこじゃ・じぇねこ
7章 グリス

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8.シルワの不安

 会議室は荒れていた。

 説明を求める声に、絶望に打ちひしがれる角人や〈果樹の子馬〉たちの表情があちこちで確認できる。初めて直面する恐怖に誰もが混乱していた。

 入ってすぐにカルロスと代表できていたらしきヴィヴィアンの隣に向かう。近くにはブエナ、ゾラ、ゾロに付き添われるブランカと、従者や復讐の修道女たちに囲まれるグリスの姿がある。彼女たちの表情はかなり暗い。悲痛なその面持ちは、カエルムで起こったと思われる最悪の事態をある程度理解しているからなのだろう。

 やがて、フィリップ達がどうにか騒ぎを収めた頃になってから、グリスが落ち着いた声で口を開いた。


「……それで、怪我なさっていたというお二人はどうなったのですか?」


 子どものような愛らしさは今、不安と恐怖に駆られているのか揺らいでいた。容姿の美しさは変わらないが、哀愁が伴ってそれはそれで綺麗だ。しかし、その素晴らしい見た目を堪能する余裕など、今の私たちには全くなかった。


「出来る限りのことは尽くしました。現在は彼女たちの生命力にかけるしかありません」


 アリコーンが静かに答えると、グリスは視線を落とした。


「そうですか……ご苦労様でした」


 小さな労いの言葉にアリコーンは丁寧に頭を下げる。グリスは怯えているらしい。傍にいるブランカも同じだった。彼女たちの怯えはカエルムの惨状について、だろう。ジブリールが深手を負いながら、立ち入れるはずのない聖地に落ちてきた。それが何を意味するのか、巫女たちに分からないはずがなかった。


 震えるグリスを心配そうに見つめつつ、フィリップは馬面マスクでざわつく人々を睨みつけた。聖槍の石突きで床を叩くと、激しい音が響き渡った。蹄で掻くよりも威圧的なその音に、彼が心から思いやっているはずのグリスもまた怯えているように見えた。

 事態はもう巫女たちの願う状況ではない。やるかやられるかだ。偵察の邪魔をする死霊。彼らが同調していると思われるサファイアの姿を借りたソロル。そして何よりジブリールを、そしてカリスを斬った犯人と思われるゲネシス。かつてアルカ聖戦士として活躍してきたであろうその男は、すでに断罪の免れぬ身分に堕ちている大罪人に間違いなかった。


 私からすれば可能ならば今すぐにこの糸で首を刈り取りたいほどの男だ。カリスがあれほどまでに庇ってやった恩を分かっていないと見えるのだから。しかし、この場に同席する二人の巫女の表情は、この期に及んでまだ暴力的な状況を前によしとしていないように思えて、少しだけ苛立ちすら覚えた。

 もちろん、彼女らがそういう生き物であることは承知しているつもりだ。それなのに、怒りは確かに心の中に燻り、落ち着くことが難しかった。

 ため息を吐いて体の緊張と興奮を外に逃がす。私もまた次第に感情的になりつつあるのかもしれない。


「改めて、現状を報告しよう。カエルムで何が起こっているのかは依然として不明のままである。ただし、そのカエルムより人鳥戦士が一名、人狼の同胞が一名、傷だらけの状態で此処インシグネ御殿まで逃れてきた。人鳥戦士はカエルムの花嫁守りであるジブリール女史であると確認した」


 ざわめきが広がる。人鳥がここまで踏み込むだけでも大事件であるのに、それが本来、空巫女のすぐそばにいなくてはならないはずの立場の者であるとなれば、どうしても悪い予想を立ててしまうものだ。


「人狼の同胞は?」


 何処かより質問があがり、フィリップの視線がカルロスへと向いた。カルロスは咳払いをして、報告する。


「私の頼れる部下の一人です。聖戦士ではありませんが、信仰に篤い人材として協力してもらっておりました。大罪人ゲネシスの説得に長く当たっておりましたが、失敗が続き、捨て身覚悟でゲネシスの首をとりに走り去ったのが最後でした」


 カルロスの言葉に、再びざわめきが生まれる。フィリップの部下であるクリニエールが質問を口にする。


「それで、ゲネシスとやらはどうなったのでしょうか」


 冷酷と思うまでに冷静な問いだ。それについて、誰も即答は出来なかった。私は、ゲネシスが死んだとどうしても思えない。そうだとすれば、いまだに偵察が出来ない状況というのはおかしいからだ。ゲネシスを失ったならば、ソロルは弱体化し、同調現象とやらも弱まるはず。その兆しが全く見えないということは、ゲネシスはまだ生きている可能性が高い。死んでいてほしいという願いはあるが、死んだという報告が全くない以上、生きていると考えて行動する方がいいはずだ。


「レスレクティオ教会にも何も届いていないようだ」


 やがて、フィリップは言った。


「イグニス大聖堂を中心に諸教会とは人狼や吸血鬼の同胞の協力のもと、絶えずやり取りをしている。しかし、いずれもカエルムのモルス教会やカエルム大聖堂に向かった伝令や諜報員はいずれも死霊の妨害で引き返すか、さもなければ行方知れずになってしまうらしい。人の流れも滞っていると聞くあたり、都と聖山が今も何かに支配されていると考えるべきだろう」


 馬面のマスクの空洞より、鋭い視線を感じる。フィリップは前足で力強く床をかき、蹄鉄の音を響かせながら続ける。


「カエルムの調査については長官方が各国に協力を要請している。引き返した聖戦士たちが死霊にてこずっている以上、ある程度の戦力を用意してから踏み込むのがいいとお考えのようだ。……問題は我々、シルワでどうするべきか。これから起こる事態を前に、他国の返答を待っていては遅すぎる。グリス様をお守りするべく、我々の出来ることは何かを話し合わねばなるまい」


 そしてこの場にいる全員へと視線を送ると、嘶くような仕草を見せた。


「意見のある者は蹄を鳴らせ」


 フィリップが命じると、角人の聖戦士の一人が蹄を鳴らした。

 促されると彼は鋭い声で主張した。


「カエルムで何が起きたのかは分かったも同然。すぐに討伐隊を向かわせるべきでしょう」


 その意見が終わらぬうちに別の聖戦士が蹄を鳴らす。


「これから向かうのでは遅い。迎え撃つのが望ましい。奴らが到着する前に警護を高めるのだ。その間、怪我人が目を覚ましたならばカエルムで何があったのかを聞いて備えられるはず」


 諜報員が次々に追い返されている今、少人数を送り続けて減らされていくのは非常に不味いことだと個人的には思う。

 だが、本当はどちらがいいのかはシルワに残る聖戦士たちの方がよく分かっている。私の考えなど求められてはいない。それに、私が最も気になっているのは一つだけだ。我々はどうするのか。これからどうやってシルワを脱出すればいいか。


 さりげなくカルロスに視線を送れば、カルロスもまた分かっているとでも言いたげに頷いた。

 始めはひとりひとり主張していた場も、いつの間にか我先にと声を荒げる空気に変化し始めていく。その気配を感じ取ったのか、フィリップは再び聖槍の石突きで床を叩きつけて、皆を黙らせた。


「意見についてはよく分かった。討伐隊を向かわせるべきかは、レスレクティオ教会の司教にも相談しよう。その前に、ブランカ様御一行の安全な退去も優先したい。フーフ、シフレ、明日はお前たち二人が案内役となれ」


 命じられた二名は剣を掲げ、蹄を合わせて音を鳴らす。おそらく角人の敬礼に当たる仕草だろう。


「……そういうわけでブランカ様、申し訳ありませんが、明日以降は厳重警戒にあたるため、十分な別れの時間が取れません。詳しいことはフーフとシフレに説明しておきますので、明日は彼らの指示に従ってください。どうぞご理解ください」

「勿論です。よろしくお願いいたします」


 気丈にふるまうブランカだが、その声が震えを含んでいるのはどうしても分かる。巫女にとっては耐えがたい精神的苦痛だろう。私にとっても同じだ。イムベルに着いて、リヴァイアサンに捧げてしまえば、あとはもう大丈夫だとこれまで勝手に思っていた。しかし、カエルムは大丈夫だったと言えただろうか。ジズの気配は消え、ジブリールは鳥人らしい気配を失った状態でカエルムの空を離れてシルワの森に落ちてきた。


 シルワの明日以降はシルワに残る者が考えればいい。しかし、イムベルはどうだ。私の役目は何処で終わり、何処まで続くのだろう。ともすれば、カンパニュラに残るかどうかではない。イムベルに留まったまま、ソロルの奇襲に備える日々が来るのではないか。

 そんな絶望にも似た予感に内心震えていると、フィリップの声が部屋に響いた。


「では、明日の我々の出発は事前に話した通り、九つの鐘がなる頃合いに――」


 と、カルロスが言いかけた時だった。会議室に〈果樹の子馬〉の修道士が駆け込んできたのだ。彼の耳打ちを受け、フィリップの表情が一変する。修道士を追い返し、改めて会議室の面々に説明した。


「ジブリールが目を覚ましたらしい」


 その言葉に、場の空気も一変した。


「まだ安心はできないが、受け答えも悪くない。少しは話が出来るという。これから向かうことにしよう。カルロスさん、共に来てくれますね?」

「は、はい……」

「それに、リル隊長、そして、ソフィ副隊長、アリコーン先生もいらしてください。他の者たちは解散です。明日の朝の配属となっている者だけ残りなさい」


 解放されたわけだが、落ち着かない。ジブリールの話を私も聞きたいところだ。しかし、この様子では〈赤い花〉であるという程度では会わせて貰えないのだろう。呼ばれたのは聖獣の子孫と、その代理の者一名だけだ。

 ぞろぞろと去っていく人の流れを受けながら、ブランカとグリスもまた従者や修道女、聖戦士たちに付き添われながら去ろうとするのを見て、ようやく私も諦めがついた。と、その時、声をかけてきたのがヴィヴィアンだった。


「一緒に帰りませんか」


 小さな声で誘われ、私は静かに肯いた。


 蝋燭の灯りもだいぶ落とされた暗い廊下に出てみれば、外では塵が降っていた。ヴィヴィアンを心配したが、彼女は懐よりスカーフを引っ張り出すと、それをマスクにして逃れていた。目つきが険しいが、それは仕方ない。

 客間の方角は途中まで一緒だ。その間、沈黙と共に時は流れていく。なんとなくヴィヴィアンに歩調を合わせていると、あちらから先に声をかけてきた。


「……レスレクティオ教会でのこと、少しだけ謝らせてください」

「……え?」

「私の方も詰め寄りすぎたと反省しているのです。ごめんなさい。あの時は、ルーナさんのことがあった直後で、冷静でなかったようです。ルーナさんとあなたを思っての助言のつもりでした。それでも、もう少し言い方に気を付けるべきだったかもしれないと後悔しています」


 ルーナの保護責任の事だ。

 何と答えるべきか適切な言葉がすぐには思い浮かばず、頷くしかなかった。


「でも、どうして急に?」


 戸惑いつつ、どうにか訊ねてみれば、ヴィヴィアンは静かに答えた。


「あのあと、ルーナさんとお話をする機会があったのです。助けたお礼をわざわざ自分の口で伝えに来てくれました。……意外だったのは、ルーナさんは自分の不注意を悔いていらしたことです。相手の悪意に気づくことが出来ない自分に驚き、反省したそうです。変わらなくてはと強く思ったと言っていました」


 いつの間に、そんなことを。だが、それはいい。それよりも、ルーナがそんな自分の気持ちをはっきりと、私ではなくヴィヴィアンに述べたということに驚いてしまった。

 あの件の後だって、一度私に対して主張した後は、気まずそうにしつつもいつもと変わらないルーナがそこにいた。気になることがあるとうずうずしているのはよく分かったものだ。

 そんなルーナがそこまで反省していたなんて。


「どんなに強く自分に言い聞かせても、失敗するときもあるでしょう。しかし、ルーナさんはお願いをしてきたのです。その時は、アマリリスさんを責めないで欲しいと」


 ヴィヴィアンはため息交じりに教えてくれた。


「その時は、自分を責めて欲しい。わがままかもしれないが、気付くチャンスが欲しいと」


 そう主張するルーナの姿を想像してみた。

 いつもの愛らしい無邪気な姿。勉強をいやいやながらする彼女の姿からは想像しづらいものがあった。しかし、あの日の夜を思い出してみよう。ルーナは私にも言ったのだ。ちゃんと叱って欲しいと。


「これまで私は〈金の卵〉という種族の事なら何でも知っていると思っていました。学生時代に多くの〈金の卵〉と触れ合い、そして死んでいくまで関わりましたので……。でも、ルーナさんのような主張を聞くのは初めてです。あんなにも……あんなにも〈金の卵〉は人間らしくなれるのかと思うと……急に怖くなりました。そうなると、この武器までも、忌まわしいものに思えてしまって――」


 ヴィヴィアンの腰には聖剣がさがっている。それだけではなく、弓も扱えるという話を聞いたことがある。鏃にはもちろん、聖油が塗られるのだ。その材料が何か、学生時代に〈金の卵〉を育て、どのように彼らが死んでいったのか、彼女は見てきたのだろう。


 一人のクルクス聖戦士が己の持つ武器に怯えを示した。これはいいことなのだろうか。これまでだってルーナと関わりながら〈金の卵〉への複雑な思いを脳裏に浮かべたことはあった。カエルムでラビエル医師が新しい聖油の研究をしていると聞いて、嬉しくなったものだった。

 しかし、目の前で苦悩するヴィヴィアンの姿を見ると、募らせてきたはずの想いが一気に曇ってしまったのだ。カエルムがおかしいことになった今、味方の一人たりとも自信を失わせるのはよくない気もした。


「あなたはこれまでにその武器で多くを救ってきたのでは?」


 必死に探した言葉で、ヴィヴィアンに問いかけてみた。その青い目が寂しそうにこちらに向く。


「今ある武器や聖油を捨てることも〈金の卵〉たちの死を無駄にすることのはず。ルーナと過ごしている私としては、それを正当化するのもまた嫌なことです。でも、今だけはあなたにも聖剣を手放さずに戦い続けてほしい。世の中が平和になるまでは、信じて戦い続けてほしいのです」


 ヴィヴィアンはじっと私の顔を見つめてきた。

 ラビエル医師が植物性の聖油を研究していたことは有名なのだろうか。〈金の卵〉には多くの人間が関わっていると聞いた。だから、すぐに変えるということが難しいのだと。それでも、ルーナに関わる人が増えれば、〈金の卵〉の可能性をもっと広められるかもしれないと期待する人も多くいた。


 しかし、それを真に期待できるのは、争いのない時代が来てからだろう。今はまだ、真剣に変える余裕が彼らにはないはずでもある。この折り合いをどうつけるべきなのかは私にも分からない。それでも、ヴィヴィアンが剣を捨てることはないはずだ。


「すみません……自分でもおかしなことを言っていることは分かっているのですが――」


 私の想いがヴィヴィアンにどう伝わったは分からない。彼女には彼女の考えがあるだろう。そっと俯き、何かを考え、しかし、それを口に出すことはなく、ふと微笑みを浮かべてこう言った。


「あなたを見ていると、かつての学友を思い出します」

「学友……ですか?」

「ええ、昔、共に聖戦士を目指してイルシオン学院で学んだ魔女がいました。同じ種族だからってだけではありません。なんとなく、あなたに似ています。もう亡くなった人なのですが……」

「亡くなった……」

「ええ……無事にアルカ聖戦士になって、それから数年後のことでした。任務中に魔女狩りに巻き込まれたのです」


 言葉を失ってしまった。

 そんな私を見て、ヴィヴィアンは力なく笑う。


「あれは、クロコ帝国の辺境でした。魔女の性かは知りませんが、とても心優しい人だったんです。アルカ聖戦士はある程度、冷酷でなくては務まらないと聞いていますが、彼女は優しすぎた。魔の血を継ぐ者はたとえ教会に認められた聖戦士であっても、世界に嘘を吐き続けなくては生きていけない現実があります。しかし、彼女が魔女であることは知られてしまい、魔女狩りの盛んな村に囚われた。そこで村人たちに危害を加えてでも逃げられたらどんなに良かったか。でも、彼女は……優しすぎたのですよ。だから、逃げられなかった」


 泣いてはいないが、その幽かな笑みは悲しげなものだった。


「知らせを聞いて、身柄を引き受けようとイグニスより迎えが走った頃には遅かった、とそう聞かされました」


 そういう話があっても、珍しいことではない。

 クロコ帝国ならばそうだろう。ニフテリザだって魔女狩りで殺されかけた。私であっても、魔女であることが公になれば、人間たちのすべてを振り切って逃げ続けるのは難しく、人間を数名殺めることになるかもしれない。それが出来ないとなれば、行く末はほぼ決まってしまうものだ。本物の魔女だって、人々の想像するような万能な魔法使いなどではないのだから。


 ふと月に照らされた塵の輝きが廊下に差し込んできた。ヴィヴィアンの横顔が照らされ、その表情がはっきりと見える。その眼が辛そうなのは、塵の悪臭のせいだけではないだろう。その悲劇がいつの事だったのかは知らないが、悲痛な思いはいまだ消えないらしい。


 耐え切れず、私は訊ねた。


「あなたはそのご友人を懐かしく思いますか?」

「ええ、もちろん」

「……また会いたいと、そう思いますか?」


 ヴィヴィアンがふと私の目を見つめる。含まれる心情を読み取ったのか、その眼が少しだけ泳いだ。しかし、再び微笑みを目元に浮かべると静かに首を振った。


「思います。しかし、思うだけです」


 私の訊ねる意図が分かったのだろう。

 復活を求めるかどうか。亡者として現れたらどうするのか。


「またあの子が目の前に現れても、それはあの子ではない。この聖剣ですみやかに悪魔から解放しなくてはならないと心得ております。〈金の卵〉たちへの追悼と共に」


 それならいい。それ以上、いまは何も言うまい。


 死霊に関しては他人事でもない。死霊は記憶を縁にして忍び寄ってくる。私だって死別したものがいる。桃花の姿をしたソロルがいつ現れてもおかしくはないのだ。

 しかし、その時は、やらねばならない。どんなに似ていても、それは違う。死霊に囚われてむせび泣く被害者でしかない。救済は亡者となったその肉体を損壊させることのみ。その光景は、できれば想像したくないものである。


 こんな話は珍しくないのだ。話していないだけで、共に過ごす多くの者たちにも、もう会えない大切な人がいるはずだ。死霊に魔物の魂は囚われない。しかし、だから何だというのだ。人間も魔族もこの世には数多く存在する。教会の関係者だって大半は人間か魔族に分類されるのだ。だからこそ、死霊の気配は常に傍にある。その事実に目を背けていては、ブランカ達を守れない。


 ――ならば、私はどうあればいいのだろう。


 不安ばかりが積もっていくなか、とうとうヴィヴィアンと二人きりで過ごす時間は終わりを迎えた。

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