7.死霊
セルピエンテ教会およびアスル御殿に滞在し始めてしばらく。
ルーナは早くも新しい環境に慣れたようだ。私やニフテリザ以外にも話し相手ができたことが嬉しいようで、毎日、客間を飛び出しては御殿で働く者たちや、聖堂に祈りに来た者たちに話しかけに行っている。危なっかしいが、絶えず聖戦士たちの目があるため、少しは安心して送り出せている。
ニフテリザの方は悩み続けているようだ。私の要望を聞いてくれた海巫女の後押しもあり、竜人たちはニフテリザがマルの里を含めたディエンテ・デ・レオンのどこにでも住めるように計らうと約束してくれた。それでも、ニフテリザはそれに甘えるかどうかを悩んでいたのだ。
なぜだろう。アスル御殿の裏庭で、ニフテリザは剣の稽古をしている。ただの人間である彼女は、少しでも足手まといになりたくないと必死だった。たしかに救出したばかりのあの頃に比べ、随分と動きはよくなったと思う。特にこの御殿の世話になり始めてからは、聖戦士たちが戯れにニフテリザの稽古を見てくれるから全く違う。
「ニフテリザが言っていたよ」
屋敷の西側、二階の窓からニフテリザの様子を見ていると、いつの間にか隣にいたルーナが口を開いた。
「まだ、アマリリスにお礼をしていないって。もっと自分に出来ることがしたいって」
「そんなこと、考える必要はないのに」
よく言えば義理堅い。しかし、悪く言えば不器用なものだ。
私から見てニフテリザは何処までも弱者である。並みの町女よりは動きもよくなっただろう。しかし、それまでだ。正式な聖戦士と違って、持っている武器はただの剣であるし、身を守る盾や鎧なども持っていない。聖戦士たちもせいぜい護身術程度のつもりで教えているのだろう。だが、ニフテリザは本気のようだった。本気でこの輿入れの旅に同行しようと思っている目をしていた。あるいはその先にある自分にとっての新しい道を見つめている。美しいほどに直向きだが、どうやら私とは住む世界が違うようだ。
半ば呆れていると、ルーナが腰に抱き着いてきた。
「ねえ、アマリリス」
甘えた声をあげられると弱い。
発情の時期は終わりを迎えつつある。この甘えは単純に希望をかなえて欲しいという子どもの欲求だ。たまには叶えてやってもいいが、いつもいつも叶えてやるのはよくないだろう。そうと分かっていても、無視できないのが主従の魔術の恐ろしさなのだ。
「わたしも、もう少しだけ……ニフテリザと一緒にいたいな」
「あら、私と二人じゃ不満?」
「もちろん、アマリリスは好きだよ。アマリリスが一番だよ。でも、ニフテリザは初めてできた人間の友達なの。アマリリスが狩りに行って、お部屋でずっと待っている間、いつも優しくしてくれたの」
さぞ甘やかされてきたのだろうと思いかけたが、他人のことは決して言えないものだ。
私はただルーナの頭を撫でながら、答えた。
「あなたの気持ちも分からないでもない。でも、ニフテリザ自身が決めることよ」
私だって、ニフテリザへの感情は徐々に変化しつつある。これが愛着というものなのだろうか。魔術で縛られているわけでもないのに、単なる責任感ではなく、ニフテリザとの会話で癒しを感じることもある。
ルーナと同じように、私にとってもニフテリザは初めて出来た人間の友人だ。ついてきて欲しい気持ちは当然ある。しかし、軽々しくそんなことを口にできるだろうか。彼女は人間なのだ。人間らしく幸せに生きていく権利がある。無責任なことをしでかすのは魔女の美徳にそぐわない。
「そう……だよね。うん、変な事言ってごめんなさい」
寂しそうにルーナは言った。
「謝らなくていいの」
頭を撫でたその流れで頬っぺたを撫でてやると、ルーナは子猫のように喜んだ。
その反応を密かに楽しんでいると、水を差すように騒がしい足音が響き渡った。振り返れば、クルクス聖戦士たちの他、ブランカの従者たちや聖職者などといった非戦闘員たちが慌ただしく廊下を行き来していた。そのうちの一人が、私たちに気づき、声をかけてくる。
「アマリリスさん、ですね。ウィル様の伝言です」
竜人戦士だ。名前は知らないが、特徴的な赤い鱗の名残とタテガミは覚えている。竜人の外見から年齢を察するのはやや難しいが、恐らくウィルと同じ年頃の青年だろう。
「――何?」
静かに訊ねると、彼は深く頷いてから答えた。
「至急、東口へ。ソロルが接近してまいりました」
「ソロル……」
ルーナが不安そうにその名を呟くと、ぎゅっと私の服を握りしめた。以前、離したことを覚えているのだろう。桃花を食い殺した悪魔の話。常々、覚悟はしていたが、やっとその姿を拝める日が来たらしい。
「アマリリス、行くの?」
「ルーナ。あなたは部屋にいなさい。じっと待っているのよ」
「それは命令?」
訊ねられ、私は頬を撫でながら肯いた。
「命令よ。お部屋で待っていなさい」
その一言で、ルーナは大人しくなった。
竜人戦士が逃げようとする侍女の一人を捕らえ、ルーナを指さした。任せろということらしい。私は素直に彼女に託した。不安そうに何度も振り返りながら侍女に連れられて行くのを見送らないうちに、赤毛の竜人に促され、私は御殿の東口へと向かった。
ソロル。その名前が何度も頭をよぎり、ぞわぞわとした嫌悪感が生まれた。指輪の背を何度も触り、自分の力を頭の中で何度も確認した。こちらは味方が多い。対して、ソロルの目撃情報は一体しかいない。ソロルと呼ばれている通り、女の姿をしており、名は名乗るが身元の詳細は分からないそうだ。
しかし、たった一体ならばそこまで恐れる必要はない。死霊の怖いところは、生者と見間違う事だ。桃花はそれで囚われたのだ。大人になった今、ソロルなど怖くはないはずだ。
それなのに、なぜ、私は不安になっているのだろう。
赤い竜人に案内された先には、カルロスたちもいた。報告通りにソロルは現れる。たった一人だ。仲間らしきものはいない。けれど、そのたった一人のソロルの目を見た瞬間、言葉にしがたい恐怖が胸の中に芽生えた。とても青い。そして、ソロルの表情に笑みが浮かんだとき、恐怖はさらに増した。
頭の中で桃花が死んだときの音が聞こえる。
今は忘れなくては。落ち着かなくては。
「あれです」
ウィルがそっと私に呟いた。
「サファイアと名乗る女。見ればお分かりかもしれませんが、もとはただの人間。素性を調べていますが、やはり、はっきりとした身元は分かりません。ただ魔術を扱えるような人物ではなかっただろうというのが我々の推察です」
「魔力の気配は確かに感じないようですね」
ゆっくりとその姿がはっきりとしてくるサファイアとかいう女を見つめながら、私も頷いた。
髪の色は特に特徴のない焦げ茶だが、目が異様に青く輝いている。目鼻立ちの整った女だと思うが、カリスに比べればまあまあといったところ。好ましい見た目だろう。だがそれよりも、あの目が怖い。ただの美しい青のはずなのに、見れば見るほど吸い込まれていきそうで怖かった。
死霊とはそういうものだっただろうか。桃花を失ったあの時よりも、目の前にいるソロルは恐ろしい存在に思えた。
怯えてはいけない。相手は死霊。魔物だが、本来、その力は人狼や吸血鬼にも劣るはずのもの。こちらには指輪がある。私には力がある。あの時とは違うのだ。
「生前のサファイアが何であれ、今の彼女はソロル。死霊ができることならば、彼女にだってできるでしょうね」
もちろん、死霊の能力のすべてを知っているわけではない。それでも、彼らの対処法は広く言い伝えられている。桃花を失って以降、私だって広く知られる死霊の特徴くらいは知っているつもりだ。
「確かに、そのようです。すでに一人、人間の同胞があのソロルに食い殺されました。聖なる武器を携えた男性です。元はただの人間であっても、今はソロルです。あの目にはソロルとしての力があります。気を付けて」
ウィルの語る死霊の目の力。覚えはある。桃花はその目にやられたのだと思う。
私も動けなかった。あれも、眼力にやられたせいなのか。それとも、ただ単に私が弱かっただけなのか。どちらにせよ、死霊はそういうものだ。生きた人の子を目で縛り、生きたまま食べようとする。
「魅了の力だと聞いているわ。死霊はそうやって獲物を狩る。ソロルもフラーテルも同じ。不用意に近づけば、一巻の終わりね」
「お気を付けください。ここであなたを失えば、我々は振り出しに戻る」
ウィルは遠慮もなくそう言った。だが気にせずに頷いた。
「分かっています。距離を保ちつつ、ご挨拶をしてみましょう」
そっと前へと出ると、ソロルは動きを止めた。
無機質な目が私を見つめている。その姿をよく見ろと自分に言い聞かせた。奴は桃花を殺した死霊ではない。サファイアという故人は知らない。私はその身内ではない。だから大丈夫。遠慮なく相手ができるはずだ。
私は指輪のはまる手を見せ、威嚇の意思を表した。
隣で年配の竜人が怒声をあげた。
「ソロル。ここはお前の場所ではない」
雷鳴のようなアルカ語だ。白髪と金色の目には怒りが満ちている。すでに仲間が犠牲になったと言っていた。そのためだろう。今にも竜の姿になって、目の前の不届き者を八つ裂きにせんばかりの迫力だが、ソロルの表情は大して変わりもしない。
「その亡者の目に見えるだろうか。我々は〈赤い花〉を手に入れた。お前の力など、通用しない。ブランカ様に手を出そうだなんてそうはいかない」
猛獣のように唸る竜人に対し、サファイアという名を奪ったソロルは微かにだが笑みを向けてきた。
「確かにそのようね」
聞こえてきたのは耳をくすぐるような愛らしい声だった。
「絶滅危惧種をわざわざ見つけ出すなんて、すごい執念だわ。称賛してあげたいくらい。でも、竜人さん、その最終兵器、果たしてそんなに立派なものかしら」
煽るソロルに対し、赤毛の竜人が答えた。
「いかに死霊とはいえ、肉体を破壊されれば再びここに現れるのが困難だということは分かっている。その体を潰されたくなければ、立ち去るがいい」
交渉の余地を与えるなんて、優しいものだ。私にそんな優しさはない。そもそも、死霊に優しさなどいらない。囚われているサファイアという故人のためにも、いますぐに八つ裂きにしてやろう。
そんな思いで私は竜人に気を取られるソロルに向けて魔術を放った。
――蝶の大群の魔術《幻想》
一匹、二匹と蝶々が集まって来る。ニフテリザを救った時のあの魔術だ。ソロルの視線を揺り動かそうと蝶々たちはわらわらと飛び始めた。仲間の数名もつられていることはともかく、ソロルの視線が少しでも逸れたその時を見計らって、次なる魔術を唱えた。
――蜂の針の魔術《突き》
針が召喚され、ソロルめがけて飛んでいく。だが、その攻撃をソロルはひらりとかわしてしまった。しかし、これもまた囮に過ぎない。最大の罠は、私が自らの爪と牙として使っているあの魔術だ。
――蜘蛛の糸の魔術。
切断か、緊縛か、一瞬だけ迷ったものの、すぐに決まった。
――《緊縛》
この勝負、決断を下すのは私ではない。ブランカたちに雇われている以上、私が出来ることは最低限のことだった。
糸がソロルを狙う。操り人形にするべく、牙をむく。これまで狙った相手を取り逃がしたことはあまりない。逃がした場合は、いずれも相手が俊敏である時であった。このサファイアとかいうソロルは違う。こんなにものんびりとした相手を取り逃がすはずがなかった。
だが、私は死霊というものをきちんと分かっていなかったらしい。生き物の肉体をも切断できるはずの強固な蜘蛛の糸が、ソロルの身体を捕らえる直前で千切られてしまったのだ。ソロルには武器などない。それなのに、私の魔術は彼女を捕らえられなかった。
「なるほど」
ソロルは静かに言った。
「だいたいのことは分かった。あなた達の見つけた最終兵器は、躾のなってない駄犬と同じようね」
身構える竜人たちには目もくれず、ソロルはただ私だけを見つめていた。青い目は不気味だ。だが、指輪にすがれば、恐怖はだいぶ薄れた。どうやら相手も強気ではない。脅すような目だが、同時に、警戒も現れている。
「心配しないで。あたしは戦いに来たわけじゃないの」
その警戒を隠すように、にっこりとソロルは笑った。
「珍しい花が咲いていると聞いたから、まずは見ておきたかっただけ」
そして、私から視線を外すと、その場にいる聖戦士たちのすべてを見渡しながら言い放った。
「マルの生まれ変わりも安心しきっているようで何よりよ。怪物も生贄もせいぜい伝承にすがるといい。マルも、シエロも、ティエラも、このあたしが全員食べてあげる。老いぼれ婆のリヴァイアサンなど、今のあたしの敵ではない!」
明らかな挑発に、竜人戦士たちの目の色が変わる。
「言わせておけば!」
「悪魔の婢が!」
そのうちの激情した数名が聖剣を抜いた。黒いタテガミ、角やヒレの立派な戦士が先陣を切る。止せ、と声をかける同胞の制止も聞かず、彼を先頭にその数名は走り出してしまった。
偉大なる祖先を貶された怒りであろう。だが、浅はかであったことは言うまでもない。いかに、古代の神の子孫であるといっても、得体のしれないものを相手に真正面から愚直に突進するのは賢いといえない。
本来、死霊というものはさほど強くない。だが、雑魚であるなどとは誰も言わない。死者の皮を被り、大地を歩くことができる彼らは、世界の裏側を支配する悪神――または魔王の使いだとも信じられている。それほど、厄介な力を持っているということを昔の人は言いたかったのだろう。
「いかん、戻ってこい!」
白髪の竜人の叫びも空しく、真正面から挑んだ黒い竜人は、その直後、己の愚かさをその身に叩き込まれたのだった。何が起こったのか、私の肉眼では捉えられなかった。ただ、閃光が走り、鋭い音が聞こえた直後、猛々しく飛びかかろうとした黒い竜人が、力無く地面に倒れた姿を見ただけ。
彼の命がもうすでにないということは、ひと目でわかった。直後、共に走り出した数名が立ち止まる。
「そいつから離れろ!」
別の竜人の叫び声がすると、滅多に見ない武器が構えられていた。銃だ。人間相手には便利な武器だが、魔女や魔人ならば簡単に壊すことができるため、砲台も銃も便利なはずなのにあまり役に立たない。しかし、相手は魔女ではない。通常ならば有効なはずだった。そう、相手がただの人間だったならば。
「放て!」
白髪の竜人の指示が下り、銃を構える戦士たちが一斉に発砲する。しかし、サファイアとかいうソロルには当たらない。軌道がそれているらしい。ただの死霊がなぜ、あんな魔術を使えるのだろうか。死霊が使うとして知られている能力のうちにはないものだ。魔術を身に着けたとしても、あのようにやすやすと使えるものだろうか。
「全く、困ったものね」
ソロルは呆れたように呟いた。
「魔物の肉は不味いから嫌いなの。それに、器にもなってくれない屑ばかり。悪いけれど、これはいらない。お返しするわ」
死者を愚弄するその目が竜人たちの心を逆撫でする。
「くそ……」
仲間の死と侮辱への怒りが、竜人たちを震わせている。同じく、彼らと共に戦う人間やほかの魔族の、魔物の聖戦士たちもそうだ。しかし、だからと言って、もっとも近づいた数名が、それ以上、突き進むということはなかった。ソロルの方もそれ以上は殺さぬつもりらしい。
私は呆然とこの光景を見つめていた。
死霊。恐ろしいが、この世に存在する魔物であるならば、何処かに弱点がある。死者の肉体を破壊する。それを達成するためには、今の攻撃を受けてはいけない。相手が単なる死霊ではないと分かった今、知るべきことはその強さの源となるもの。
それは、何なのか。何が死霊を強くするのだったか。私はじっと考え、はっきりと思い出そうとしていた。
「ああ、いけない。遊び過ぎたようね。そろそろ戻らせてもらうわ」
敵は無防備に背中を向ける。そこへ、戦士の一人が発砲した。狙いは正確に思えたし、当たらないのが不思議なくらいだ。だが、相手のソロルは傷ひとつ負わなかった。それ以降、あとに続く発砲はなかった。銃弾も無限ではないから仕方ない。
逃がす前にせめてもの一撃を。そんな思いで私は魔術を向ける。
――蜘蛛の糸の魔術《切断》
相手は聖戦士を殺した。遠慮なんてもういらない。だが、無防備な背中を狙ったこの糸も、ソロルの体に届く前にちぎれた。
死霊の力の根源が分からない。魔女のような魔術を使っているのならば、対応はできる。この指輪の力を借りて、反撃できるだろう。しかし、蜘蛛の糸の魔術は弾かれ、古代の神の子孫は即死し、銃弾の軌道がそれる。その力の正体が分からなければ、いいようにされて終わりだ。
普通ならば簡単に滅ぶことの多いソロルが、なぜこれほどまでに存在感を示せるのは何故か。
思い出し続け、やっとたどり着いた。聞いたことがあるのだ。
サファイアというあの女。恐らく、魔力の源の鍵を握っているのは、その生前の縁者。誰かがサファイアの存在を願い、求め、その能力を高めてしまっている。誰がその縁者なのか。もしも私の考えが正しいのならば、少し面倒だ。見つけ出して、サファイアの死を受け入れてもらわねばならない。
これ以降、無防備な背中に追撃できる者は、結局いなかった。死をいとわずに追いかけるべきか。そう判断する者は何処にもいなかった。ただ、去っていくサファイアを見送りながら、隅で仲間の魔物戦士の数名の姿が消えた。攻撃はしないが、その正体を探ろうとしているのは本当なのだろう。彼らも彼らで、とっくに気づいているのかもしれない。サファイアという亡者を支配するソロルの秘密について。
ソロルの気配が遠ざかった後で、塵は降り始めた。新たな犠牲となった竜人の若者を年配の竜人が静かに担ぎ、周りに告げる。
「お前たちは戻れ。見張りも諜報も少数でいい」
塵降る中、人間の聖戦士たちは誰もが口元を覆っている。表情をゆがめながらそれに従った。塵は濃くなっていく一方だ。人間ならば限界のはずだが、よく耐えている。しかし、これ以上戦うことはできないだろう。
一方、塵の中でも自由に動けるウィルたちは仲間の亡骸を共に支えに向かった。憔悴しているのは、共に走り出してしまった若い竜人戦士たちである。一番先に焦った者が犠牲となった。慎重さに欠けることこそ、寿命を縮めることを思い知ったのかもしれない。
ソロルを竜人たちはどう見ているのか。死霊の能力についてどのくらい知っているのか。あのソロルの力がまやかしならば、今回のように恐れずに次回は思い切り叩きのめしてやればいい。だが、もしも支えとなる者がいるのならば、そちらを先にどうにかしなければならない。場合によっては、その人物を潰さねばならないだろう。
このことについて、ウィルたちは気づいているのか。気づいているとしたら、どのくらい把握できているのだろうか。
考えをまとめつつも、私は人間たちに混じり、そっと御殿の中へと戻った。
緊張が一気に解けたことで、疲れが生まれた。どうせ、この後でウィルたちと会話することがあるだろう。その前に、少しルーナの顔を見たい。ニフテリザの顔を見たい。
慣れないこの環境に身を投じためだろう、今だけは純粋なる癒しが欲しかった。




