0.愛しいこの人と共に
覚悟せよ。我が恋はとうの昔に屍となった。この世をうろつく亡者たちのように、滅びの時を迎えるまでただうろついているだけである。
かの黒い目は過去に囚われたまま。それを救える人物が、この世に存在していたのだとしても、それは私ではなかった。
すべてはもう終わったこと。救いの言葉は意味をなさない。
ならば、せめて見届けよう。美しい彼の命が砕ける瞬間を。青い目の輝きが、偽りの愛が、土へとかえるその時を。
我が恋は終わったのだ。どうあがいても、起こったことは変えられない。
今の私が愛すべきは傍で萎れかける一輪の花である。その虚ろな目に映る世界は何色だろう。屍のように、あるいは人形のように、彼女は大罪人に指を向けた。
その姿は裁きをもたらす天使のよう。
目に宿るは哀しみだけ。怒りも憎しみもなければ、喜びなどもない。不気味なまでに役目を果たそうとする聖女の姿を、人々は恐れるだろうか。たとえ世間が恐れたとしても、私は恐れないと約束しよう。
共にいるべきものは、彼女だけなのだ。家族もなくし、友もなくし、故郷も捨てた私にとって、居るべき場所はここだけだ。
かつて夢見た場所が違ったとしても、届かない手を伸ばそうとしてはならない。
裁きの時は来た。何も出来なかった創造主とやらに代わって、我らが聖花が人々の無念と悲しみを晴らす時がやってきた。
覚悟せよ。目を閉じてはならない。見届けよ。目に焼き付けるのだ。それが私に課せられた使命である。何も出来ず、何も止められなかった私の罰である。
逃げてはならない。愛すべき花の隣に居続けるのだ。彼女一人にこの大役を押し付けてはならない。
そして今、断罪は行われる。
すべては失われた愛のために。この戦いは終わるのだ。




