0.愛しいあの子の元に
※旧版から登場人物名・設定・内容がだいぶ変わりました。
ご覧なさい、この惨状を。命の色が大地に染み込んでいる光景を。
あなたは約束したはずだった。教えを守り、直向きに生き続ければ、子羊は迷うことなくあなたの元へ行けるのだと。
その子羊とはいったい誰なのか教えて欲しい。
あなたの言葉はずっと信じていなかった。あなたを信じる世界の大半が、私に対してとても冷たいものだったから。それなのに、いつから、その子羊の中に魔女の私も含まれていると信じ込んでいたのだろう。
あなたを信じる人たちは素晴らしい。彼らがいたからこそ、私はこの腐った世の中においても夢と希望を抱いて生き続けたのだ。
それなのに、どうして。
どうして、あなたはこんな惨い定めを私たちに課したのでしょうか。
これも試練だというのなら、私はあなたを恨みましょう。
どうせ、私は魔女なのです。聖女ではないのです。だから、都合のいい時だけ勇者と崇めるこの世界に罰を。今なら私も役目を放棄し、多くの人間たちがかつて期待した通りの悪魔にだってなれるのかもしれません。
――いいえ、やっぱり無理でしょう。だって、あの子が望んでいないのだもの。あの子は平和を望んでいたのだもの。この世界を愛していたのだもの。
だから、私は向かいます。あなたの導くままに、この身を費やしてでも、心を殺してでも、役目を果たしてみせましょう。
醜くて塵よりもずっと酷い悪臭の漂うこの世界を守るため?
いいえ、これは愛の為。もう戻ってこないあの子の為に、私は全てを捨てるのです。あなたの為ではありません。あなたの元には逝きません。私はあの子のもとに向かうのです。
暗くて優しい闇の世界。愛しいあの子の元に向かうのです。