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第三話  『薄橙色』のクレヨン

――あいつの助けてという声に気づいていれば救ってやれたんだろうか?

 

  あいつは声に出さなくても何度も訴えていたのに、どうして気づいてやれなかったんだろう? 


  あいつはただ人並みの生活を望んだだけなのに――



 仁奈と猫は長い長い廊下を歩く。


 猫は慣れた足取りでどこかへと向かっているようだ。


「ねえ黒猫さんはどこに向かってるの?お兄ちゃんのところ?それともあの鬼のところ?」

 

 猫は小さく鳴いて答えてくれたが、どちらの意味なのかわからない。


 はたまたどちらでもないという否定の意味で鳴いたのかもしれない。


 しかし仁奈には答えを知る術がなかった。


 殺されるかもしれない危険な場所を1人で歩くか、小さくて頼りない黒猫と歩くだけの違い。

 それでも仁奈には十分心強かった。


 いくら彼女の気が強くとも、こんな不気味な場所を一人で歩くのは心細い。

 

 気の遠くなりそうなほど歩いていると、突然猫が毛を逆立て、声を荒らげる。


 猫の視線の先には見慣れた後ろ姿があった。


「お兄ちゃん!」


 仁奈は今度こそはと声を張り上げて駆け寄った。


 彼はゆっくりと振り返る。

 

 短く整えられた太陽のように輝く髪が揺れ、海のように深く青い瞳が仁奈を映す。


 仁奈の顔が喜びに包まれていく。


 しかし彼女の足は彼へ辿りつく前に止まる。


「悪いけどぼくはきみのお兄ちゃんじゃないよ。ぼくは海渡(カイト)。きみの名前は?」


 兄によく似たその人は、兄ではなかった。


 海渡と名乗った少年は少し驚いた顔をしながら仁奈と猫を一度見やり、それから穏やかで優しい笑みに変える。


「わ、わたしは仁奈」


 兄と見間違えた気恥ずかしさと、動揺で仁奈はうつむき口ごもった。


 ぎゅっと握りしめたお気に入りのセーラーワンピースに皺がよる。


「仁奈ね。可愛い名前だね。それに仁奈はぼくと違って月のない夜空みたいな綺麗な目と髪の色だ」


 海渡の方から仁奈へと歩み寄る。


 仁奈はその分だけ後ろに下がろうとした。


 だがなぜか何かに押さえつけられたように動けない。


 彼が一歩進む度、猫が声を荒らげるが彼は気にも留めなかった。


「仁奈みたいに可愛い妹ならぼくも仁奈のお兄ちゃんになりたいな」


 仁奈の前に立ち、足を止めた海渡が仁奈の頬へ手を伸ばした。


 じっと無表情で彼女を見つめる海渡の瞳の奥に底しれないモノを感じ、仁奈はとっさにその手を振り払う。


 乾いた音が静かすぎる廊下に響いた。

 

「あ、ごめん、なさい……」


 ひどくかすれた声が仁奈の口から漏れる。 


 かたかたと仁奈の意思とは無関係に体が震えだす。


 なぜ、なぜ、彼がこんなに怖いんだろう?


 仁奈はどこかで覚えのある恐怖を感じた。


「ううん。僕の方こそごめんね」


 海渡はにっこりと笑って仁奈から距離を取った。


 途端に仁奈の体が楽になる。


「ねえ仁奈はどうしてお兄ちゃんを探してるの?」


「昨日からいなくなったから」


「ふうん。そうなんだ。仁奈はお兄ちゃんが好き?」


 海渡はどうでもよさそうに聞く。


 仁奈は首を縦に振った。


 泣き虫で怖がりだけど、いつも一緒にいてくれた兄が彼女は誰よりも好きだ。


 海渡は口の端を吊り上げて、そんな仁奈をあざ笑う。


「お兄ちゃんは仁奈が嫌いでいなくなったのに探すの?」


 仁奈の口から声にもならない音が零れた。


 そんなはずがない。


 だって兄は仁奈によく笑いかけてくれたし、わがままをいえば困った顔をしながら叶えてくれた。


「仁奈、人間は嘘つきで簡単に裏切るんだよ?だから好きでもないのに笑顔を見せて優しくしてから酷いことをするんだ」


「お兄ちゃんはそんな人達とは違う!お兄ちゃんはわたしをぜったい裏切らない!」


 仁奈は声を荒らげて否定した。


 お兄ちゃんのことはわたしが一番知ってる。

 お兄ちゃんがわたしのことを嫌いじゃないことも、自分でいなくなったわけじゃないことも。


 そう思うが、どうしてか仁奈は不安になっていく。


「そう。仁奈は知らないんだね」


 海渡は悲しげに眉を寄せて、目を伏せた。

 まるで仁奈が聞き分けのない幼い子どものように。


「じゃあ好きなだけ探すといいよ。きっとお兄ちゃんは見つからないから」


 海渡は仁奈に背を向けて歩き出した。


 途中で思い出したように足を止めて振り返る。


「ただ鬼には気をつけてね。鬼は人間よりも残酷だから見つかったら殺されちゃうよ」


 言葉とは正反対な軽い口調で海渡は忠告して、今度こそ立ち去った。


 仁奈は返す言葉もなく、彼の姿が見えなくなるまで睨み続けた。


 海渡が何者かわからないが、仁奈は好きになれそうにないと思った。


「……鬼と人。どっちが残酷なの?」


 仁奈は赤髪の鬼を思い出して、ポツリとつぶやく。


 猫がそんな仁奈をなぐさめるように、足に擦り寄った。


「ありがとう。そうね。もしお兄ちゃんが自分の意志でいなくなったとしてもここにいちゃいけない。探して一緒に帰らなくちゃ」


 仁奈は海渡が立ち去った方向の逆へまた歩き出した。 

 

 そうだ。鬼のいう通りここは人間がいる場所じゃない。


 お兄ちゃんが嫌がっても引きずってでも一緒にここから家へ帰るんだ。


 決意を新たにした仁奈に先ほどまでの怯えはない。


 一歩一歩確実に出口までの道へ向かっている。


 


 しばらく歩くと今度はそれなりに装飾のある扉に行きついた。


 両手扉のそれは玄関の扉ほどではないが、仁奈を軽く一回りも二回りも超えるほど大きい。


 仁奈は周りに何もないことを確認してから少しずつ開けた。


 扉を開くと仁奈の倍以上ある高さの本棚が人がやっと通れるほどの狭い幅で並び、隙間なく本が詰まっていた。


 日本語で書かれた本もあれば、外国語の本もあるようだ。


 やや薄暗いが、見えないほどじゃない。


 今のところ特には何もない。


「家の中なのにたくさん本があるなあ。小学校の図書館みたい」


 本の数はざっと見ただけで数百冊はあるだろうか。


 背表紙は2センチほどの薄い絵本のようなものから辞書のように分厚いものまである。


 おそらくここは書斎だろう。


 仁奈は本棚の間を歩きながら、兄を探すことにした。


 すると途中で気になる本を見つけた。


 名前は『鬼隠しの家の伝承』。

 

 日誌のように片紐で綴じられたそれは、今にも崩れてしまいそうなほどボロボロだ。


 『鬼隠し』の意味はわからないが、もしかしたらあの赤髪の鬼のことが書かれているのかもしれない。


 仁奈は本棚から取り出して、そっと開いた。


【私は民間伝承、特に妖怪について調べている者である。今回、この村を訪ねたのはかつてこの地方には鬼と人間が共に暮らしていたとの情報を得たからである。以下には村人らから聞き出した情報をまとめた】


 最初の一文はそこから始まっている。


 筆で書かれているそれは中身もかなり古いものであることがわかった。


【気の遠くなるほど遥か昔、村の近くに住みあやかしの1種である鬼が住み着いた。この鬼らは他の口伝とは違い、穏やかな慈悲深い心根を持つ者達であったそうな】


 あの赤髪の鬼は村に住み着いた鬼の性格を受け継いでいたから、わたしを襲わなかったし、助けてくれたんだ。


 仁奈は安堵し、無意識に強張っていた顔をゆるめた。


【彼らは力が強く狩りが得意であった。しかし力のせいか繊細な作業は苦手であり、故に村人の先代(以下は先代)は彼らの狩った獲物を村の畑で育てた食物や服飾と交換することにした】


【彼らの気性のおかげか、豊かで平穏な日々は長く続いた。人も鬼もこの村では対等であった】


 物語ならここで終わり、平穏な日々が続いていくのだろう。


 しかし、この本は物語ではなかった。


【平穏が破られたのは村の税を納める領主が変わってからである】


【新たな領主は鬼の人を超える力に執着した。強欲な領主は身の程知らずにも彼らを兵士に仕立て上げ都を攻め落とし、帝に成り代わろうとまで考え出した】


【しかしどんなに好条件を出されようと慈悲深い鬼らが首を縦に振ることは一度もなかった】


【彼らが戦場に出ればどれだけの血が流れることか。村の子供でさえもわかることであった。鬼もまた不死身ではない。傷つくこともあれば怪我もする】


【腹を立てた領主は彼らを反逆者などといわれない罪を着せ、妖退治の軍勢を雇い、女子供関係なく■■した】


 肝心なところが黒く塗りつぶされていて読めない。


 ただいい意味でないことは仁奈にもわかった。


【ただ二人の鬼だけは生き延びていたが、先代は領主へ報告をすることはなかった】


【一人は深い空のような目の醒める青髪の鬼。もう一人は暗闇に呑まれる夕暮れような赤髪の鬼。二人の行方はその後しばらく先代が知ることはなかった】


 鬼は一人じゃない。


 仁奈の心臓がいやに早く鼓動する。


【数十年後、領主は鬼の家を取り壊し、中心に豪華な屋敷を建て、本妻と妾、それぞれ一人ずつの息子と使用人たちと暮らし始めた】


 領主はなんてひどい人だろう。


 全てを奪っておきながら、さらに鬼と村人を踏みにじった。


 仁奈は本を強く握りしめた。


【領主が越してきてから近くの森で赤鬼の目撃談を聞くようになった。先代は鬼の復讐を恐れ領主へ忠告をしたが気にも止められず笑い飛ばされた】


 え?赤鬼だけ?

 青鬼はどこに行ったの?

 

 2人で村から逃げて別の場所に行って、赤鬼だけが帰ってきたの?


 それとも始めから復讐するために赤鬼だけ逃げてなかったの?


 まさか青鬼は死んでしまったの?


 仁奈は続きを読み進めた。

 

【しかしその数年後、妾の子が収納戸に閉じこめらて亡くなった。死因は脱水症状と飢餓であったそうだ】


【それ故かこんな噂話が流れるようになった。『赤鬼が■■した領主たちを復讐している』と】


 それはまるで赤鬼が子供を殺したといっているようだ。


 そんな、そんなはずない。

 だって赤鬼は。


【噂を助長するように無残な殺され方をするものが続出した。屋敷に仕えていた使用人から本妻や息子、領主も例外ではなかった】


 殺されたのは子供だけじゃない……。

 他にも多くの人が亡くなってる。

 

【それからというもの屋敷に住まうものは例外なく亡くなった。あまりに続くものだから先代は赤鬼が神隠しのように人をさらう家、『鬼隠しの家』と呼ぶようになった】


 領主だけじゃなくて後から引っ越してきた人もなんて、まるで人を憎んでいるようだ。


 無理のないことだろう。

 

 鬼は人間に何もしていないにも関わらず、一方的な理由で家族や仲間、居場所を奪われたのだ。


 これで人を憎むなという方が難しい。


 しかし、仁奈はどうしてもあの赤鬼が人を殺し続けたように思えなかった。


 もし赤鬼がこの本のような鬼ならば落ちてきたシャンデリアから“人”の仁奈を助けなかったはずだ。


 それにクレヨンにこめられた誰かの記憶に残る赤鬼は人を恨んでいるように見えなかった。


 むしろ1人で危ない場所に来ていた誰かの身の安全を案じてさえいた。 


【村人らに止められたが明日鬼隠しの家を調査する。もちろん逢魔が時ではなく日の高い時間である。高名な僧侶からお札もいただいたから何事もないはずだ】


 本はそこで終わっていた。


 仁奈にはわからないことだらけだ。


 青鬼が生きているのか、死んでいるのか。


 どうして子供が収納戸に閉じこめられていたのか。


 赤鬼がほんとうに人を殺し続けているのか。


 兄がどこへ消えたのか。


 海渡がナニモノなのか。   


 いくら考えても答えは1つとして見つからない。


 この本がここにある理由にいやな想像が浮かんだ。


 この本を書いた人物はここに訪れて、仁奈のいる悪霊が作り出したといわれるこの世界へ引きずりこまれ、死んだのでなないか、と。


 2度も命の危機に遭っていれば屋敷がおかしいことくらい気づく。


 赤鬼がいうようにここは悪霊が支配する世界。


 弱い人間は悪霊の思うままに殺されるだけ。


 もし、兄がすでに殺されていて仁奈も狙われているとしたら。


 最悪の事態を想像して仁奈はぶるりと身震いした。


「そんなはずない。お兄ちゃんは悪運が強いから絶対生きてる」


 物陰で顔を真っ青にしながら膝を抱える兄を思い出せば、仁奈の心は落ち着いた。


 本を戻そうと元あった場所を見ると隙間に隠れるようにして、薄橙色のクレヨンがあった。


「……ここにもあった」


 仁奈は恐る恐るクレヨンへ手を伸ばす。


 途端に目の前が薄橙色に塗りつぶされた。



     ◆          ◆



 蝉の声が少なくなり、葉の色が変わり始めた森の開けた場所に誰かは、手に棒を持ち赤鬼と地面に文字を書いていた。


『できた!上手く書けた?』


 達成感に満ちた感情を隠すことなく顔に出し、隣にかがみ込む赤鬼へ向けた。


『ここに点が抜けている。こっちは止めではなく左にはらうんだ』


 赤鬼はいつもの仏頂面で地面に書かれた文字に訂正を入れた。


『うぅ……漢字もかなもカタカナも似た形があってたくさんあって難しいよ』


 頬を膨らませ、不満を口に出す。


『まあな。でもそういうものなんだから仕方ないだろう?』


『それはわかってるけど……難しいよ』


『前よりずっと上手く書けているんだ。もっと自信を持て』


 赤鬼は照れくさそうにしながら、地面の文字をつついた。


『ほんとう!?じゃあもっとがんばるね!』


 褒められたことで顔を輝かせ、もっと文字を書き始めた。 

 

 しばらく文字を書き続けていたが、ふいに顔を上げ赤鬼へ視線を移した。


『鬼さんの名前はなんていうの?』


『……名前なんてどうでもいいだろう。それよりそろそろ夕暮れだ。さっさと帰れ』


 赤鬼はうっとおしそうに顔をしかめた。


『どうでもよくないよ!ぼくだけ名前を知らないなんていやだよ!だから今度教えてね!ぜったいだよ!』


 少年は一方的な約束を取り付けて、森を後にする。


 赤鬼は返事をしなかった。



 視界がまた薄橙色に塗りつぶされた。


 今度は仁奈がいる書斎によく似た場所だった。


 違うところは本がまだ新しいことくらいだろうか。


 物音を立てないように息さえ殺して、扉から部屋の奥へ向かう。


 本棚に囲まれた薄暗いそこでほっと息をついた。


『なぜお前がここにいる?』


 ふいに聞こえた声に心臓が止まる。


 さらに後ろを振り返る前に突き飛ばされ、とっさに手をついたものの、強く本棚にぶつかった。 


『俺は知ってるぞ。お前は父様から部屋を出るなといわれているのだったな?妾の子のくせにいいつけを破るとはいい度胸だ』


 恐る恐る振り返ると、同じ年くらいの身なりのいい少年がまるで人を傷めつけるのに喜びを感じる悪魔のように笑っていた。


 カタカタと傍目にもわかるほど体が震え出す。


『いいつけ1つ守れぬ愚かなお前に俺が父様の代わりに罰を与えてやろう』


 少年はそれを見てさらに笑みを深めた。


 それからしばらく蹴りつけられた。


 抵抗は許されない。

 過去にほんの少し抵抗した時、さらにひどいことをされたからだ。


 頭を抱えて体を丸めてメージを減らす。


 奥は本棚に囲まれていて少し覗いたくらいでは幼い子ども2人の姿は見えない。


 その間なにも感じないわけがなかった。


 ――――どうして罰を受けなきゃいけないの?


 ――――鬼さんに文字を教えてもらったから、もっと難しいことを覚えて、驚かせて褒められたかっただけなのに。


 ――――どうしてぼくは部屋から出ちゃいけないの?


 ――――他の人は自由に部屋の外へ出られるのに。


 ――――どうして?どうして?どうして?


 どれくらい時間が過ぎただろう。


 足を止めた少年は襟を掴んで、顔を寄せてきた。


 襟が締まって息が苦しくなる。


『しかしまあ残念だ。男じゃなくて女なら俺が可愛がってやったのに』


 笑えない冗談に血の気が引いた。


 だが少年の言葉はそこで終わらない。


『いや?この珍しい容姿なら男色家の変態貴族にでも売れるか?幼ければ幼いほどいいらしいからな』

 

 少年は声を上げて笑うが、ちっとも笑えなかった。


 鬼が綺麗だといってくれた姿を見も知らぬ誰かに汚される。


 想像するだけで怒りと吐き気がこみ上げてきた。


 ささやかな反抗心を感じ取ったのか、腹へ容赦なく蹴りを入れられた。


 たまらず声を漏らすと、少年は手を離して汚らわしいもののように見下してきた。


『なにを勘違いしているのか知らないがお前が生きているのは父様の慈悲のおかげだ。

だからその体は父様の物でお前の物じゃない』


 いいたいことをいった少年は踵を返して、その場を後にした。


 そこで視界が薄橙色に塗りつぶされた。


     ◆          ◆

 

 仁奈はゆっくりと目を開けた。


 目の前に少年はいない。

 

 仁奈はほっと息を吐く。

 

 その瞬間、片側の本棚が倒れてきた。


 数十キロはあろうかという塊が落ちてくるのだ。

   

 仁奈に当たれば押しつぶされるかもしれない。

 

 猫が鋭い鳴き声を上げて、仁奈へ警告する。


「えっ?………っ!?」


 すぐに異変に気づいた仁奈はクレヨンを手にしたまま、入り口へ駆けた。


 仁奈の後を追うように本棚が倒れていく。


 途中で落ちてくる本を避けながらがむしゃらに足を動かした。


 猫は仁奈の背を守るように後ろを走る。


「ついた!」


 仁奈は手を伸ばしてドアノブを回し、扉を開けて飛び出した。


「早くこっちに!」


 仁奈が振り返るが遅かった。


 猫は本棚の下敷きになっていた。

 

 仁奈は慌てて駆け寄り、本棚を持ち上げるが全く動かない。


 何度試しても結果は同じだった。

 

 仁奈は強く歯ぎしりする。


 ――――見捨てればいいよ。だって仁奈は黒猫じゃなくてお兄ちゃんを探しに来たんだから。


 誰かの誘惑がどこからともなく聞こえる。


 仁奈は頭を振って吹き飛ばした。


 お兄ちゃんを見つけることは当然だ。


 でもこの猫は仁奈を助けてくれた。

 だから仁奈も恩返しないといけない

 

「……ちょっと待ってて。すぐに助けを呼んでくるから!」


 仁奈はそういい離し、その場を後にした。

 

 この屋敷は仁奈を殺そうとするモノばかりだ。


 しかし例外は1人いる。

 

 仁奈は心優しい赤鬼を思い浮かべた。


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