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第零話  『無色』のクレヨン

 初のホラー作品です。

 どうぞお手柔らかにお願いします。

 子ども部屋の扉越しに聞こえる怒鳴り合う声。


 パパとママがまた喧嘩してる。

 いつから喧嘩するようになった?


 最初は何日かに一度だったのに、今は顔を合せる度に喧嘩する。

 わたし達がいてもいなくてもお構いなしで、悪口をいいあう。


 どうしてそんなことがいえるの?

 パパとママは愛し合って結婚したんじゃないの?

 だからわたし達が生まれたんでしょ?


 なのにどうして?

 これで何回目?

 もういい加減にしてよ。


 ベットから起き上がろうとしたらお兄ちゃんが優しく引き止めた。


「だめだよ、仁奈にな


 眉を寄せて睨みつけたら、お兄ちゃんはわたしのおでこにキスして強く抱きしめ、ベットへと横になる。


 二人が怒鳴り合う声が遠くになって、とくんとくんっていうお兄ちゃんの心臓の音が聞こえた。


「いい子だからもうおやすみ」


 年が一つしか変わらないのに、お兄ちゃんはいつもわたしを子供扱いする。

 

 わたしはそれが気に入らない。

 だけど今は好きなようにさせてあげる。


 だってお兄ちゃんの体は少し震えてて、さっき見た時に泣きそうな顔してたんだもん。


 お兄ちゃんは怖い映画を見た後に一人でトイレに行けないくらい怖がりだから、二人が怒ってるのが怖いんだ。 

 

 そんなお兄ちゃんにいつもみたいに怒るのは可哀想だって、わたしにもわかる。


 お兄ちゃんの腕の中で静かに眼を閉じて、胸に顔をよせて心臓の音に耳を澄ました。


 その音はなによりもわたしを安心させてくれる。

 目を閉じていてもお兄ちゃんがそこにいるって教えてくれるから。


 泣き虫で怖がりだけどわたしのたった一人のお兄ちゃん。

 もしお兄ちゃんが怖い目にあって泣きそうな時はわたしが助けてあげる。


 だからお兄ちゃんだけは私のそばにいてね。



 パパとお兄ちゃんが出て行ったのはその次の日だった。


 何も聞いてなくて、ママに聞いたら「うるさい」って頬をぶたれた。


 すごく痛かったけどわたしはお兄ちゃんと違うから、泣かずにママを睨んだ。

 そしたらママは顔をしかめてどこかに行っちゃった。


 ママはわたしが寝るまで家に帰ってこなくなった。


 たまに帰ってきたと思ったら知らない男の人が一緒。

 わたしは馴れ馴れしいその人が大嫌いで、近づかれる前に部屋に閉じこもる。


 わたしの名前を呼んでいいのは、頭を撫でていいのは、パパとママとお兄ちゃんだけなんだから。


 そしたら起きるのも、ご飯を食べるのも、眠るのも一人なっちゃった。

 

 寂しいなんて気持ちはどこかにいってしまって、わたしは隣に誰もいないつまらない毎日を過ごした。

 でも時々パパとお兄ちゃんと一緒に過ごした日を思い出して悲しくなった。



 そんな生活が数ヶ月続いたある日のこと。


 夜中に喉が乾いて目が覚めたから、お水を飲みにリビングに行った。


そしたらママが電話でパパと喧嘩してた。

 

 ママはテーブルの影に隠れたわたしに気づかずに話を続ける。

 

 わたしはその場に立ち止まって聞き耳を立てた。

 

 久しぶりに二人の声を聞いた気がする。

 お兄ちゃんは元気かな?


 パパはいつもお仕事で夜遅くなっても家にいないから、幽霊が怖くて泣いてないかな?

 新しい学校で友達はできたかな?

 病気なってないかな?


 お兄ちゃん……会いたいよ……。


 涙がぼろぼろと溢れる。


 お兄ちゃんがいなくなったから、泣き虫がわたしにくっついちゃったかもしれない。


 泣き虫なんていらない。

 知らない男の人を家に連れてくるママも、お仕事から帰ってこないパパもいらない。


 わたしはお兄ちゃんがいい。

 お兄ちゃんだけ側にいてほしい。


 前みたいに同じベットに入ってわたしが眠るまで抱きしめてほしい。


 お兄ちゃん。

 わたしのお兄ちゃん。


 どうしてわたしを置いていったの?

 わたしも一緒に連れて行ってほしかった。


仁志ひとしがいなくなったってどういうこと!ちゃんと探したの!?」 


 ママの怒声が耳に響いた。


 お兄ちゃんがいなくなった?


 それってどういう意味?


 ドクンと胸が鳴る。

 お兄ちゃんが階段から落ちて足を骨折した時と同じ、嫌な予感がする。


「仁奈、起きてたの?」


 ママの声に顔を上げる。


 夢を見てたみたいにぼんやりとしていたみたい。


 気がつくと電話はもう終わっていた。


「もう遅いから」

「お兄ちゃんがいなくなったってどういうこと?」


 私はママの言葉を遮って聞く。


 ママは一瞬、困ったように眉を寄せて歪な笑顔で答えた。


「あの人が家に帰ったら仁志がいなかったみたいなの。きっと明日から夏休みだから友達の家に泊まっているのよ。だから仁奈が心配することはなにもないわ」


 ママは私の肩を掴んで笑顔を見せる。


 そんな作り物の笑顔でごまかせると思ったの?


「嘘つき」


 ママの手を乱暴に振りほどく。


 大人は嫌い。

 いつだって自分勝手でわたしやお兄ちゃんの話を聞いてくれない。


 あのお兄ちゃんが階段から落ちた日、わたしは確かに見たんだ。


 人の形をした黒い影が悔しそうに大きな口を歪ませて、お兄ちゃんをぎょろりと濁った目で睨んでいたのを。


 そういったのに気のせいだって聞いてくれなかったのはだれ?


「お兄ちゃんはパパに何もいわずに誰かの家に泊まったりなんかしない!お兄ちゃんは困らせるようなことをしない!ママはママなのにそんなこともわからないの!?」


 わたしはママに負けないように大声で叫んだ。


 どうして家族なのにわからないの!?


 ママは鬼のような顔をして私の頬をぶった。


「どうして仁奈はママの味方をしてくれないの!?仁志はあの人の味方をしたのに!」

 

 ママは目に涙を溜めていた。

 泣きたいのはわたしのほうだ。


「お兄ちゃんはわたしがママと一緒だとパパが一人ぼっちになるからパパと一緒に行ったの!一人は寂しくて怖いからって!」


 お兄ちゃんは泣き虫で怖がりで友達のお兄ちゃんに比べたらすごく頼りない。


 だけど一人でお留守番するのも怖がるお兄ちゃんが、よく家にいないパパについて行くっていったから。


「少し我慢したらパパとママが仲直りしてまた一緒に暮らせるようになるって、お兄ちゃんがいったからわたし我慢した!」


 なのにお兄ちゃんはいなくなった。

 またわたしを置いていった。


「わたしとお兄ちゃんのことを考えない自分勝手なパパもママも大嫌い!お兄ちゃんはわたしがみつける!」


 自分の部屋に駆けこんで鍵を閉めた。


 ママは追いかけて来なかったけどどうでもいい。


 一番上の机の引き出しに入っているお兄ちゃんからの手紙を取り出す。

 裏には新しい住所が書いてある。


 スマホのインターネットで検索すればここよりもずっと遠いけど電車を乗り継げば行ける距離。


 手紙とお財布とハンカチを黒猫のポシェットに入れる。


 今日は電車が終わってるから明日の朝から行こう。


 ポシェットを机の上に置いて、ベットに潜りこんだ。

 一人ぼっちのベットは寒くて広い。


「お兄ちゃん、待っててね。わたしが必ず助けにいくから」


 わたしは明日のためにまぶたを閉じた。

 フリーゲームのホラーが好きで書いてみました。

 それっぽい雰囲気を楽しんでもらえればと思っています。

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