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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章

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オーナーの決定

「すみません! 妹が礼儀知らずで!」

「いや、気にしないで」


 少女の発言のあと、真っ先に謝罪をしたのは少年のほうだった。

 彼は頭をペコペコと下げながら、こちらが申し訳なくなるくらいに謝る。

 その少年の様子を、少女は不思議そうに尋ねる。


「フィル。何をそんなに謝る必要があるの?」

「サリー。少なくとも恩人に向かって、礼も言わずに更に要求することが礼儀知らずだということくらい分かるだろう?」

「そういうこと?」


 少女は、そこで何か分かったという顔をして、俺に対してまず言った。


「あなた。この一杯は素晴らしかったわ。私の記憶の中に──まぁ記憶はないけれど、その中にこれほどの美味しい飲み物はなかった。その技術、素直に賞賛致します」

「……はぁ。ありがとうございます」


 少女のやたらと尊大な物言いに、俺は一応礼を述べる。

 というか、さっきの言葉の中に、礼が入っていたか?

 俺が思考の迷宮に入り込む前に、少女はさらに続けた。


「そのあなたの技術を評価して、直々にあなたが私にそれを教えることを許します。光栄に思っても良いのよ?」

「……えっと?」

「何を迷うことがありますか? あなたは喜び、私に仕えれば良いと言っているのです」

「…………」


 なんだこのクソ生意気な小娘は。


 おっと、心の中でとはいえ、見ず知らずの人間に暴言を吐くのは良くない。

 接客で重要なことは相手に興味を持ち、理解すること。そう教わってきたじゃないか。

 俺はやや苦笑いを浮かべつつ、あはは、と愛想笑いだけを返した。


「サリー! いい加減にしろ!」

「フィル?」

「君は自分の状況がまったく分かっていない! というか、礼すら述べていないじゃないか!」


 俺が困っていると、少年のほうが更に焦って少女を止めた。

 少年は少女の口を強引に手で塞いでから、改めて俺に向かって言った。


「すみません。妹の分まで謝罪と、それから礼を。言うのが遅れました。まず、僕達を救って下さってありがとうございます」

「いえいえ、困っているときはお互い様ですから」

「そして申し訳ありません。妹は僕にも増して世間知らずで……いえ、記憶を失っているので、あまり世間がどうとかは言えないのですが」


 少年が真摯に謝ってくるので、俺の中の感情の波も幾分収まる。

 そして、この二人の恐らくの役割も見えてくるというものだ。

 しっかりした兄と、我がままな妹。

 お互いを名前で呼び合っていたところを見ると、二人は双子なのかもしれない。


「彼女の言ったことは忘れてください」

「ちょっとフィル! 何を勝手なことを言ってるの!」

「勝手なのは君だサリー。自分の事情を押し付けるだけではいけないと、何度言ったら分かるんだ」

「そんなの言われた記憶は残ってないわよ!」


 お互い息を荒くしながら、少年と少女はいがみ合っていた。

 その様子を、俺は遠巻きに眺めていた。

 なんとなく、その気の置けない喧嘩が、羨ましくもあった。

 前にスイとヴィオラの会話を見ていたときも思ったが、自分にはああいう言い合いが出来る相手が、居なかった気がする。


 あそこまで、誰かと親しくなるなんて。俺には。


「フィルと話していても埒が明かないわ。この店の責任者は誰なの?」


 言い争いに嫌気がさしたのか、少女はそう声を上げた。

 その言葉に反応したのは、当たり前だがオヤジさんであった。


「……一応、俺がこの店の責任者だ」

「あなたが?」

「ああ。バー部門のオーナーの父親で、そんでここの従業員全員の親みてぇなもんだ」


 オヤジさんは、言って胸を張り、少女を鋭く見据えた。

 その雰囲気に、店に集まる人間達から注目が集まる。

 あえて代弁すると、『そうだオヤジさん、がつんと言ってやれ』といった所か。


「言っておくが、俺はそこの坊主みてぇに甘くは──」

「あなたが、このスープを作ったのね?」

「あ? ああ」

「このスープも大変に素晴らしいものでした」

「お……? そうだろ? 分かるか?」


 少女の急な賞賛の言葉に、オヤジさんは柄にも無く少しだけ照れた。


「ええ。ベースはトマトでありながら、ハマグリを始めとした魚介の風味に、綿密な下ごしらえと調整。このスープだけでなく、他の料理も細かな気配りがなされていて調理人の腕が窺えます。それも全て、調理者の技術や人柄のなせる技かと」

「そうだろう、そうだろう。特にそのスープは自信作でな」

「はい。あなたの人を思う気持ちと、技術に対する自信が良く現れた素晴らしい一品だと思いますわ」

「うむ」


 どうにもオヤジさんはあっさりと、少女に主導権を取られていた。

 この店にはオヤジさんの料理に『美味い』以上の感想を述べる客が居ない。

 あんなに手放しで褒められたら、そりゃ気分が良くもなるだろう。


「それで、私達は行くあてが無いの。良ければ記憶が戻るまで、ここに置いて欲しいのだけれど」

「仕方ねえな。構わ──」

「お父さん!!」


 そして、あっさりと少女の提案を飲みそうになったのを、ライが叫んで止めていた。

 少女は露骨に残念そうな顔をし、オヤジさんはハっと気付いた顔になった。

 って、何が甘くないだよ。俺のときと違って、激甘じゃねぇか。


「そ、そう簡単には決められねえな。俺は、まぁ良いが、バーの方は俺じゃなくて娘に聞いて貰わねえとよ」


 オヤジさんは既に折れていながら、なんとかそのバトンをスイへと渡した。

 唐突に話を振られたスイは、少し迷った後に、まず少年へと話しかけた。


「フィル君って言ったっけ? 君達は、この先に何かあてはある?」

「……正直に言えば全くありません。路銀の方もあまり満足とは言えませんし、目的も分からない以上は、どこかで落ち着けたらとは、思います。もちろん、それは僕達の都合でしかありませんが」

「……そう」


 それからスイは、今度は少女の方を向いて、尋ねた。


「あなたは、どうして『カクテル』を知りたいって思ったの?」

「だってそれを覚えれば、いつか困った時に役に立つでしょう? 何より美味しいし、自分で作れて得はしても、損はないわ。私達の目的が分からない以上、まず役に立つことを覚えるのは悪い選択じゃないはずよ」


 なかなかに自分本位な考え方だ。だが、筋が通ってなくはない。

 彼女は彼女で、今自分にできることを、と思ってのさっきの発言だったのだ。

 状況に対する前向きさは、言葉遣いを除けば見習いたいくらいである。


「分かった」


 少年と少女の事情を鑑みて、スイは静かに言った。


「総がもし良ければ、この二人を、弟子にしてあげてくれない?」


 スイは静かに、俺に委ねるよう尋ねた。

 周囲が少しだけざわつく。

 俺はそのざわつきに惑わされぬように、スイをじっと見つめて聞いた。


「良いのか? そりゃ俺はやれって言われたらやるけど」

「良い。困っている人を助けるのは、当たり前だし。この二人に仕事を覚えてもらうっていうのは、もしかしたら総のためになるから」


 俺のため?

 疑問が表情に出ていたのか、スイは少しだけ言いにくそうに、視線を逸らしながら言った。


「……『ホワイト・オーク』のこと。ずっと、どうにか店を閉めずに済む方法を、考えてたでしょ? 弟子を取れば、その時に任せられるから」


 そんな青髪の少女の提案に、俺は若干面食らった気分だった。


「……スイ? 反対してたんじゃないのか?」

「……反対はしてない。総がやりたいこと、私は応援したい」

「でも、怒ってたんじゃ?」

「私が嫌だったのは相談しないで決めたこと。相談してくれたら怒ったりしない。多分」


 スイは少しだけ早口でそう言った。

 俺はちょっとだけ俯いて、小さく『ごめん』と謝罪する。

 スイもまた、小さく『……ん』とだけ返した。


 その後に、俺はスイの意志を言葉にするように、双子の兄妹へと言った。


「後で色々とお願いしたいこともあるから、それは少し覚悟して欲しい。が、俺は君達に『カクテル』を教えても良い。記憶が戻るまで、もしくは目的を思い出すまでは、ひとまずここで働いて貰う。それで良いかな?」


 記憶喪失の少年少女へと、俺は提案した。


 少年は、すまなそうにしながらも、ぺこりと頭を下げ。

 少女は、当然だと言うように、満面の笑みを浮かべていた。


 意識の片隅にて、ヴィオラがまた何か言っているのが分かるが、信用とかそのあたりの話はしばらく置いておいて。

 俺はどうやら人生で初めて、バーテンダーの後進を育成することになりそうだった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


すいません、なんとか間に合わせましたが、いつにも増して推敲ができていません。

暫定版ということでよろしくお願いします。


というわけで三章では、バーテンダーの仕事みたいなものをさらりと書きつつ、短編集的なノリの小規模イベントをメインにしようかと思っています。

これまでとまた毛色が違いますが、よろしければお付き合いいただけると幸いです。

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