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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章

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一月の間に

日本でバーテンダーをやっていた青年、夕霧総は、原因不明の召喚によって異世界に辿り着いた。

そして自分の持っている『カクテル作成技術』が、この世界のポーションに応用できることに気付く。

そんなある日、総はポーション屋として『ポーション品評会』に出場することになり、その場で『カクテル』を披露する。

『カクテル』は革新的な技術として受け入れられ、見事品評会で『特別最優秀賞』を手に入れたのだった。


章の最初なので少し詰め込み気味です。ご容赦ください。

「それでは改めまして……『特別最優秀賞』おめでとう!」


 口火を切ったのは赤髪の少女、ライ・ヴェルムット。

 そこから口々に、常連客達から次々と『おめでとう』の声が起こる。

 俺と青髪の少女、スイ・ヴェルムットはその言葉にやや照れながら笑顔で応えた。


「みんな、ありがとう。俺の方でちょっとバタバタしてすみません」

「これからも『スイのポーション屋』と『イージーズ』をよろしくね」


 俺とスイの簡単な挨拶に、常連の人間達はまた大いに沸いた。



 この宴会は、最初にライが述べた通り『ポーション品評会』の結果を祝してのものだ。

 俺たち『スイのポーション屋』は、この国のポーションの発展のために数年に一度開かれる大会のようなものに出場した。

 そしてそこで『カクテル』は、革新的な技術として受け入れられた。

 その結果が『特別最優秀賞』であり、それは恐らく今大会で初めて生まれた評価だ。


 そんな品評会があったのが、実は一ヶ月ほど前。

 この祝勝会は、一ヶ月経った今頃になって行われているのだ。


「しっかし、この一ヶ月大変だったなぁ」


 俺にそう声をかけてきたのは、犬耳の獣人であるベルガモだ。

 彼は俺がこの一ヶ月、一体何をしていたのかを良く知っている人物の一人だった。


「まぁ、収穫はあったさ」

「そうだな。総もようやく、この世界の文字を覚えたことだしな」

「はは、まぁ、必要に駆られてだけどな」



 それでは俺はこの一ヶ月何をしていたのか。

 簡単にまとめると二つだ。

 まず一つは、俺の持っている『カクテル』の知識をひたすらに明文化していた。

 そしてもう一つは、バーを続けていく上での、材料の充実だ。



 というのも、知識の明文化は品評会で得た評価への対価のようなものだ。

 俺は、自分の常識としてこの世界の『ポーション』を自分の世界の『スピリッツ』のように扱ってきた。

 そして、その考えのもとに『ポーション』を原料に『カクテル』を作ってきた。

 だから俺の中では『ポーション』を用いた『カクテル』は、常に嗜好品であった。


 だが『ポーション品評会』で評価を受けてしまったとき、それは嗜好品だけではいられなくなってしまったのだ。


 端的に言えば、俺は、俺が持っているカクテルに対する知識の提出を求められた。

 それも『なんとなく』とかそういう曖昧なモノではなく、実際に現れる効果の上昇を踏まえた研究結果の提出をだ。

 アレだけ派手なことをやって、なんの情報も出さないというのは、品評会の理念に反するのだろう。

 だが、その効果をはっきりと提示しろと言われても、困るものは困るのだ。


 俺にあるのは、材料をどのように組み合わせたら、どんな味のカクテルが出来るか。

 そして、一般的にどんなカクテルが『美味い』とされるかの知識だけだ。


 それをポーションとしての効果上昇に落とし込むために、この一ヶ月は大変だった。

 スイとつきっきりで色々と試してみて、ある程度の答えを手に入れた。


 まぁ答えはシンプルだった。

 基本的に、カクテルの完成度が高いほど効果は高くて、好みに合っているほどその個人に効きやすい。

 その他の効能を考慮に入れなければ、これが答えだった。


 そのシンプルな答えを、スイが四苦八苦しながら魔法の話に置き換え、

 どうやって美味しくなるのかは、俺のなけなしの知識を色々と放出することになった。

 この研究結果の提出が思いの外忙しくて、ここ一ヶ月は手を離せなかった。

 これが、宴会が伸びた理由の一つ。


「しかし、この棚もずいぶんと賑やかになったものだな」


 ベルガモに続いてそう声をかけてきたのは、スイの親友にして幼なじみ。俺も何かと世話になった騎士であるヴィオラだ。

 彼女は俺が立っているカウンターの後ろ。ボトル棚を見ながら言った。


「今日から解禁のもいくつかあるぞ。例えばこの『スミレのポーション』とかな」

「それもいいな。せっかくならば私も一口飲んでみたい」

「かしこまりました」


 彼女の声に合わせて、俺はそっと数ある瓶の中から、紫色の液体が入ったものを手に取った。



 忙しかった理由のもう一つ。

 俺はこの一ヶ月で、店の商品を増やすための行動を取っていた。

 そのために行ったことは二つ。

 一つは、この『スミレのポーション』──いや、『スミレのリキュール』の製法を製作者から聞き出したことだ。


 俺はこれまで、各種属性のポーションに果実や薬草の風味を添加しようとして失敗してきた。

 それは、アルコールとポーションの違いという壁に当たったからだ。

 自然に漬け込んでも味が移らず、魔法で添加しても魔力適性というものに阻まれて味が変わってしまう。それがポーションの持つ性質だった。


 その問題に当たっていたときに、天啓のように俺の目の前に現れたのがこの『スミレのポーション』だ。

 そして、その製法は『薬』として存在するポーションの盲点を突いたものだった。


 この世界には『無属性』の魔石というものが、存在した。


 その産出量は、四大属性のソレに比べたら微々たるもの。

 そして、ポーションとして考えても無属性に価値はない。

 何故ならば、その『無属性』は魔法の中でそれほど用いられないし、用いたところでその魔力は四大属性の魔力から自動的に捻出されるものだとか。

 つまり『無属性』の魔力では、人間は魔力欠乏症にはならない。

 わざわざ『薬』として『無属性のポーション』を作る意味がないのだ。


 だからこそ、『無属性』の魔石は市場にもほとんど流通していない。

 スイがその存在に思い至らなかった理由でもある。

 それを『スミレのポーション』の製作者である、この街の領主は密かに集めていた。

 彼は知っていたからだ。

 薬として価値がなくても、飲み物として『無属性』のポーションは大変有用だと。


 ここまで言えば大体分かると思うが。

 無属性のポーションには、どのように味を添加しても変性しない特性があったのだ。

 味が移りにくいポーションの中にあって、それだけがどのように魔法で味を添加してもその変化を受け止めた。


 その情報を手に入れた俺は、早速リキュールの製作に取り組みたかったが問題はある。

 前述したように、無属性の魔石は数が少なかった。

 すぐにそれを試すというわけには行かなかった。


 だが、それをなんとかしたのはスイだった。

 彼女は『属性のある魔石』にその反対の適性を加えて、人工的に『無属性』の魔石を作り出すという、離れ業をやってのけたのだ。

 魔道院時代に研究していたとのことだが、理由はどうあれ、俺の実験は大いに進んだ。



 そして今。ブランデーやウィスキーを用いないリキュールに関しては、様々な品を手に入れることに成功したのだ。

 それこそ、小規模な日本のバーに匹敵する程度の種類が、既に店には揃っていた。



「ねね、総! 私にもなんか作って欲しいな! あの赤い奴が良いなぁ」


 ヴィオラの注文に答えている最中、ぱっと見は中学生くらいに見える少女──イベリスが元気よく言った。

 機人という種族である彼女には、この店にある全ての機械を作製してもらっている。

 それだけでなく、ソーダをはじめとした炭酸飲料や、果実から自動で果汁を絞る機械など、かなりの部分を彼女の技術に依存しているといっても良いだろう。

 そんな彼女が指差した『赤いの』を見て、俺は少し尋ねた。


「これは見た目の割に苦いぞ。大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫」

「では、かしこまりました」


 俺はそう答えて、赤い液体──『カンパリの魔草』のボトルを手に取った。



 店の商品を増やすためのもう一つの行動。

 それは、今大会にて出来た他のポーション屋との繋がりから『魔草のポーション』を手に入れることだった。


 魔草とはこの世界に存在する植物の一種。

 そして、それらには『リキュール』の名前を持ったものがいくつもある。


『コアントロー』『シャルトリューズ』『ガリアーノ』『カンパリ』などなど。


 名前が共通な理由は、俺に働いている翻訳の効果によるようだが、まぁいい。

 重要なのは、それらを手に入れる為には『魔草』を取り扱っている人間とコンタクトを取る必要があるということだ。


 今回、特に俺は『アウランティアカ』という国で一二を争う『ポーション屋』のオーナー店長──ヘリコニアと懇意になった。

 その彼から、魔草の取引先をいくつか紹介してもらったのだ。


 その先の交渉では『品評会』の結果が大いに利用できた。

 大会初の『特別最優秀賞』という肩書きは、彼らにとっても魅力的なようだ。

 俺が欲しい魔草のポーションを、想定よりも大分安価に手に入れることができた。

 といっても、やはり貴重は貴重なようで、俺の世界に比べたら割高なのだが。

 平均して一瓶が、だいたい銅貨八枚程度──俺換算四千円くらいで手に入ることになった。


 とまぁ、ここ一ヶ月は、そんな交渉や実験、そして研究に明け暮れていたのだ。

 その間に店を閉めていたわけでもないので、中々に多忙な日々だった。

 とはいえ、それも終わりだ。

 既に書類は提出したし、魔草屋との交渉も片付けた。

 ある程度のリキュールの自作もできた。


 まだ『熟成』を要するボトルは揃っていないが、

 基本的な『カクテル』を作る為の材料は、半分程度は揃ったと見ても良いだろう。


 あえて気がかりがあるとすれば『ベルモット』の魔草は、存在しなかったことだが。




「お待たせしました」


 俺は言いながら、ベルガモ、ヴィオラ、そしてイベリスへとそれぞれグラスを差し出した。


「ベルガモには【エメラルド・シティー】を」

「おぉ。綺麗だな」


 ベルガモは鼻をヒクヒクとさせながら、透き通った緑色の液体を眺めた。

 ミントの味を付けたリキュール『ペパーミント・グリーン』を40ml。

 そこにレモンジュースをスプーン二杯ほど。

 そのグラスをジンジャーエールでアップ(満たす)したカクテルだ。

 ペパーミントのさっぱりとした味に、ジンジャーエールのすっきりとした甘さがマッチした一品だ。


「ヴィオラには【ヴァイオレット・フィズ】を」

「これはまた、なんとも妖艶な香りだな」


 ヴィオラに差し出したのは、紫色をしたこれまた美しいカクテルだ。

 フィズと付くカクテルの例に漏れず、【ヴァイオレット・フィズ】は『パルフェタムール』と『レモンジュース』をシェイクして、それを『ソーダ』でアップしたものになる。

 丁度、【ジン・フィズ】の『ジン』を『パルフェタムール』に置き換えたと言えば分かりやすいだろうか。

 スミレの甘い香りと、レモンの酸味、そしてソーダの爽快感が合わさった美しいカクテルである。


「それでイベリスには【スプモーニ】を」

「おお、赤い。ぜんぜんまだまだ赤いね!」

「そうでしょうか? 少しオレンジ色のような……」


 赤い赤いとはしゃいでいるイベリスへは、『カンパリ』を用いた代表的なカクテル【スプモーニ】を差し出した。

 イタリア生まれのリキュール『カンパリ』を30ml、それにグレープフルーツも30ml足して一度よくステア。それが終わったらトニックウォーターでアップすると完成だ。

 甘さもさることながら、バランスの良いほろ苦さも感じられる、ビタースウィートなカクテルである。


「では」

「いただき」

「ます」


 三人は仲良く声を揃えたあと、それぞれのグラスを口に含んだ。

 そして、皆が同時に顔を綻ばせた。

 俺はその様子に、釣られるように表情を緩めるのだった。



 これまで飲んだことのない、新しい美味さ。

 それが、この世界の『カクテル』の存在だ。

 大会の後から、客は明らかに増えている。

 この店においては『カクテル』はもう『当たり前』に近づいてきている。


 ポーションは、少しずつ『嗜好品』の地位を手に入れていっている。


「総、分かってるよね?」


 俺が少しだけ『カクテル』の未来を考えていると、横からすっと入り込むような声。

 差し出されたいくつものカクテルを、羨ましそうに見ているスイの姿があった。


「流石に今は勘弁してくれ。後で作るから」

「……そう。やっぱり私は後回しなんだ。ほっとかれるんだ。ふーん」

「すみません。勘弁して下さい」


 俺は慌てて弁解したが、スイはツンとそっぽを向いた。

 一ヶ月経っても、彼女は未だに『ホワイト・オーク』の件は根に持っていた。

 確かに彼女に相談せずに決めてしまったのは、俺に非があるだろう。

 だが、長期的に見ればプラスになることも多いのに、なぜそこまで機嫌を崩すのか。


「……分からん」


 俺は誰にも聞こえないくらいの小声でぼそりと零していた。



 とはいえ、その研修の話もまだまだ先だ。

 何故なら、この店には『バーテンダー』が俺しかいない。

 その俺が中期的にとはいえ居なくなると、この店のバー部門は閉めざるを得ない。

 それは、軌道に乗っている今だからこそ、避けなければいけない。

 スイの目指す夢。『一人でも多くの人間を助ける』ために、今手を抜くわけにはいかないのだ。

 せめて、俺の代わりになれる人間が居ればいいのだが。



 カラン。



 そんな考え事をしていた時だった。

 店の入り口の鐘が鳴り、二人の人間が姿を現した。

 鏡のように綺麗な銀髪。夜に紛れても隠せない美しい顔立ち。身なりのいい服装。

 顔に似通った部分を感じることから、その男女は血がつながっているのだろう。


「いらっしゃいませ」


 俺は歯切れ良く挨拶の言葉をかけるが、二人は虚ろな目で俺を見る。

 フラフラとした足取りで、俺のほうに近づいてきた。


「お客様?」

「……ここは、食べ物を……」

「はい。扱ってますよ」


 少年の質問に、やや怪しさを感じつつ俺はにこやかに答える。

 今度は、それを聞いた少女の方が、ボソリと言った。


「……血」

「……はい?」

「……血が……足りない」


 その言葉を最後に、

 二人は揃ってその場に倒れ込んでしまった。


「な、なんだなんだ?」

「お、おい、大丈夫か!」


 祝勝会に来てくれていた常連客が何人か声をかけるが、二人は起き上がる気配がない。

 そんな様子を見て、俺は少し悩んだ。



 今までにない、客と注文だった。

 明らかに空腹状態の二人に、何を出すべきだろうか。


ここまで読んで下さってありがとうございます。


三章開始です。

この章では、これまでとはまた違う所を書きたいと思っています。

とはいえ、カクテル中心であることは変わらないので、

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

※0911 誤字修正しました。

※0914 誤字修正しました。



あと、こちらではあまり書けないことを書く為に、

今から【魔砲使い(バーテンダー)の『カクテルマジック』】という作品を並行連載します。

バトルものになりますが、興味のある方は読んで頂けると幸いです。

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