表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/505

ポーションの反応と消失

「おかえり」


 戻ってきた俺に対する、スイの淡々とした迎えの言葉である。

 彼女はそこからソワソワと気にする様子を見せるが、さて。


「とりあえず、面識はできたよ。そこから先に繋がるかは、まだ分からないけど」

「……そう」


 当たり障りのない返事をすると、スイも一応は落ち着いたようだ。

 今はこれでいいだろう。研修に誘われたとか言って、浮き足立ってしまったら困る。

 それよりは、落ち着いて発表に臨んで欲しい。


「さて、二組目だっけ?」

「もう三組目が始まるところ」


 どうやら、思ったよりも話し込んでしまっていたらしい。

 俺はスイの責める視線から逃げるように、会場中央のもやへと目を向けた。



 それから、しばらく色々なポーション屋の説明を聞きながら、俺はポーションについて考えていた。

 しばらく眺めていれば、それなりにこの世界のポーションの仕組みが見える。

 そして、それがあまり理論的に体系化されていないことも、良く分かった。

 帰納的というよりは、経験的な世界なのだ。


 まず、この世界のポーションは、いつも述べているように『薬』としての役割を持つ。

 そしてその効果は、端的に言えば『属性の魔力』の回復だ。

 他の『薬効』とはあくまで付属品であり、一番重要なのはそこである。


 さて、この世界での一般的なポーションとはどう作られるのか。

 基本になるものは、いつもスイが作っているものと同じだ。

『水』に『各属性の魔石』の力を溶かしてやって『原液』を作り出す。

 ただし、その時点で既に魔石の質に左右されるところがあるらしい。


 分りやすく、ゲーム風に説明すれば。

 質の良い魔石で作るポーションのスタートは『風属性【大】』に『雑味【小】』といった感じ。

 しかしスイが使うような、安くて質の悪い魔石では『風属性【小】』に『雑味【大】』といった認識なのだ。

 だが、この『雑味』というものが、実は重要だ。

 俺の認識では『雑味』が、いわゆる『アルコール』な要素なのだ。風味とかに関係するのは、どちらかと言えば属性の方であろうか。


 とまぁ、そんな俺の感想は置いておいて、彼らはそこから更に調整を重ねる。

 いかにして『風属性【大】』を【極大】へ成長させるか。

 また、いかにして『雑味』を消し去るか。

 それに付随して『薬効』を付け足していくか。

 そこに、試行錯誤の余地が生まれるようだ。


 この世界のポーション研究は『パズル』と『ギャンブル』に近い。

 誕生したポーションの『原液』に、彼らは様々な材料を混ぜ合わせる。

 ここでも『雑味』をいかにして抑えるかの工夫が常にある。


 単純に魔法で混ぜれば、魔法適性が反発を起こして、効果が変質する。

 それはいつも言っている通りで、魔法で薬効を加えようとしても、上手くいかない。

 だから、方法は二つだ。


『反応を起こさないように、混ぜる材料を調整する』か、

『反応を意図的に起こして、狙った効果を発動させる』だ。


 そしてその二つの研究こそが、ポーション屋の命題と言っても良いのだろう。


 前者であれば、反発を起こしている要素を見つけて、それを取り除く方法を探し、それが見つかれば、狙い通りの結果を起こせる。

 その目に見えた成果を達成するために、色々な手法を試してみる。

 たとえば魔法で焼いたり、風化させたり、溶かしたり。とにかく魔法的な刺激を材料に与えて、ポーションへと混ぜる際に意図的な反応を起こすのだ。

 足し算や引き算な研究になるだろう。


 後者であれば、それは完全にランダムだ。

 思いつきで色々な材料の魔法適性を反発させて、狙った物が出るのを待つ。

 まさに手当たり次第。反発を引き起こすために全く関係のない物同士を混ぜたり、特殊な魔法を使ってみたりして、近道を探す。

 掛け算的な研究と呼べるかもしれない。


 魔法を使わずに直接混ぜるというのは、ある意味では薬効を付与する手っ取り早い方法だ。だが、それはあまり歓迎されていない。

 まず分りやすく『雑味』が付いてしまうのがいけない。洗練されていない材料には『雑味』が常に付きまとうし、それはほぼイコールで飲みにくさに繋がる。

 それに加え『混ぜた物』の魔法適性がポーションに付与されてしまうので、反応がより複雑化する。これでは研究がより難しくなってしまうだろう。

 さらにプラスして、魔法的な手法を使わずとも、ある程度の反応は起こってしまう。

 故に、せいぜい最後に少し混ぜて、影響が出ない範囲で整えるくらいのものだ。


 ポーション発表会の肝は、そういった研究の成果を出し合うことなのだ。

 他の研究で見つけられた組合せは、自分が躓いていた場所の突破口になるかもしれない。

 そうやってこの世界のポーションは、情報を共有しながら発展してきているのだ。

 理論というよりは、ノウハウの蓄積のようなものだ。



 また、それ故にスイはそのノウハウを利用することができない。

 狙った効果を出すには、決められた材料を使わないといけない。

 そして決められた材料は往々にして、洗練された、より高みを目指すための『魔草』だったり『薬草』だったりする。

 高いのだ。材料費が。

 効果上昇の道は分かっていても、利用料が高いから使えない。 


 その結果が、スイの独自研究によって作られたゲロマズポーションなのだろう。



「……何か失礼なことを考えて──」

「ないない」


 俺の思考を読んだかのようなタイミングで、スイが言う。

 俺は慌てて返しつつ、首を振った。


 ステージでは丁度、八組目の発表が半分終わるかといったところだ。

 ここに集まっている人間も少し疲れ始めている。

 しかしそれ以上の興味でもって、この先の発表に期待している。


 今の組の発表が終われば、残るは『アウランティアカ』──そして俺たちだ。


 そろそろ八組目の『ダールベルグデージー』のポーションも完成を迎え、審査員たちが講評を始める頃合いだろう。

 運営の人間に言われた時間にはまだ早いが、控え室に戻ることも考える頃だ。


「スイ、それにライとベルガモも。そろそろ控え室に行かないか?」

「えー。審査が終わるまでは良いじゃん。もしかしたらすごいライバルかもしれないし」


 答えると、魔法ショー的なノリで発表を楽しんでいたライから不満の声が上がった。

 確かに、見ているだけでも色々な魔法的処理が入るので充分楽しい。

 こういうところが、この会場に子供達が集まる理由でもあるのだろう。


「注目されてるのは『ホワイト・オーク』に、高級志向の『エリスロニウム』くらいだろ。多分大丈夫だって」


 とはいえ、見とれている場合でもない。俺も、ステージに上がる側の人間だ。

 他の所を舐めているわけではないが、いかんせん俺たちは土俵が違う。

 どうせ注目するならば、上を見た方がいい。


「うーん」

「……なら、ライとベルガモは残ってても良いよ」


 なおも渋るライに、スイが少しだけ優しい声で言った。


「総も、それで良い?」

「ま、良いか」


 言われてみれば、彼らに頼む用事もないのだから、無理に連れ出すこともない。

 準備の時に荷物運びを頼みたかったが、見ている感じだと係の人間がやってくれるようだし。


「じゃあ、俺たちは控え室に戻るから」

「分かった! ここの講評が終わったら行くからねー」


 こちらの顔も見ず答えるライに少し呆れながら、俺とスイは人ごみを離れた。




「あれ?」


 スイがその声を上げたのは、控え室の扉に辿り着いたときだ。

 差し込んだ鍵を、少し不思議そうに見つめている。


「どうした?」

「私、鍵かけて出たよね?」

「ああ。確認したしな」


 俺たちはこの部屋を出る時、確かに鍵がかかっているのを確認した。

 それから控え室には戻ってきてはいない。

 だというのに、スイは呆然と、口走った。


「……鍵が、開いてたみたい」

「……まさか?」


 スイがもう一度、鍵の操作をしてドアを開ける。

 俺は飛び込むように部屋に入り、中を見渡した。


 小型の冷凍庫は当然ある。

 その中に『ジーニポーション』も『氷』も『レモン』も入っている。

 作業台の上には、魔石と水のボトルも置いてある。


 しかし、ただ一つだけ見つからないものがあった。



「……『コアントロー』が、ない」



 俺たちの、決して欠けてはいけない切り札。

『コアントロー』だけが、その姿を消していた。


※0203 誤字修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ