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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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これからの確認

 ポーション品評会の運営から正式な通達が届いたのは、宴会の翌日だった。

 本選の出場を決めた十の店舗への、スケジュールの案内。


 本選は二週間後だから、それまでに色々と必要な書類も多い様子だ。



「新しい『ポーション』の製法、材料、使用する機材や魔術……うーん。俺たちってそんなに書くことあるのか、これ」

「あんまりない」


 俺の声に、のんびりとした様子でスイが答えた。

 現在は、イージーズ内のカウンターで、二人並んで座っているところだ。


「魔法は、魔石でポーションを作るときにしか使わない。材料や機材なんて、特別なものでもないんだから、冷凍庫くらいしか書く事ない。なにより製法が混ぜるだけ。特殊な配合比率でもっての、魔力結合の相互作用とか皆無」

「こんなに用紙を貰ってるのが、少し申し訳ないな」


 品評会への提出用書類は、本当にそれだけで終わってしまう。

 俺は大会のスケジュールや、持ち物なんかを軽く確認する。


「あ、武器の持ち込みは禁止か」

「当たり前。なんで品評会に武器が要るの?」

「そりゃそうだな」


 つい最近は腰に下げているのが当たり前だったので驚いたが、よくよく考えたら、銃を持ち込む必要はなかった。

 だが、いざ外さないとならないと、少しだけ不安になるものだ。


「材料は一度運営を通して確認してもらう必要があるのか」

「不正防止みたい。技術に関する重要機密は独占することもできるけど、基本的に情報は公開されるから」

「え、大丈夫なのか? 他に真似されるとかは」

「真似をするには、しっかりと技術の開発者にお金を払う必要がある。そういう意味でも品評会は大々的に開催されるの」


 なるほど。

 ここで真っ先に最先端技術を発表し、それを公開すれば。

 今後、その技術の優先的権利は自分にあるというのか。特許みたいな考え方だな。


「見せるのは『作業』のところだけだから、『寝かせる』とかの工程は省きながら要所要所を見せることになる」

「三分間クッキングみたいなイメージか」

「……それは分からないけど」

「でも、本選は大勢の人間に見られながら、ポーションを作るんだろ? 隠しておきたいことがあっても、バレるんじゃないか?」


 先程の不正防止もあるが、本選では『作る』ところから、評価される。

 いくら秘密にしたいことがあっても、現場を見れば分かってしまうのではないか。


「じゃあ総は、私が魔法で何かやってたら、それが全部見て分かる?」

「……分かりません」


 そういうことか。

 繰り返し何度も近くで見ていたらまだしも、たかが一回かそこら見ただけで、再現するというのは難しいのだろう。


「でも、俺たちにはやっぱりあんま関係ないな」

「うん」


 そこまで確認したあとに、俺とスイはとりあえず紙を畳んだ。

 ふと、スイが目をこすり小さくあくびをする。

 それを俺に気付かれたからか、スイは少しだけ恥ずかしそうに目を逸らした。


「あまり寝てないのか?」

「……ちょっと夜更かししただけ。昨日使いすぎた『ポーション』を補充したから」

「ああ。昨日は大変だったからな」


 よくよく見れば、スイは少しだけ目の下を黒くしていた。

 こんな分かりやすいことにも、俺は気付いてやれなかったのか。

 もしかしたら俺は無意識に、スイをあまり見ないようにしていたのかもしれない。


 昨日のオヤジさんとの会話が、少しだけ蘇った。


「スイはさ」

「ん?」

「一生ポーション屋を続けていくつもり、なのか?」


 俺の突然の問いかけに、ふと、スイは考えを巡らせるように上を向いた。

 しかし、ほとんど間を置かず、答える。


「どうだろう? それが、人のためになる最善の道だったら」

「じゃあ、他の道が見つかったら?」

「そっちにするかも。そんなこと、考えたことなかったから、答えられない」


 少しだけ困った表情になって、スイは苦く笑った。

 だが、俺はその『答えられない』という言葉も出せなかった。


 スイはきっと、考えていないだけで、心はすでに決まっている。

 俺は、そんな彼女の道筋を支えてあげられる。そんな現状に満足していただけだ。

 俺は『スイのため』という理由を作って、行動していた。

 だが、それもいつかは、終わるのだろうか。


 カクテルを世界に広める。

 その点で俺とスイの目標は一致している。

 だが、それがもし叶ったら。


 スイはそれでも前に進むだろう。

 だけど俺は、それに付いていくことが、出来るのだろうか。

 そもそも、付いていくべきなのだろうか。


「総? どうしたの?」

「……あ、いや」

「昨日、お父さんに何か言われた?」

「別に、たいした事じゃないよ」


 俺はどうしてだか、スイに自分の心を隠すような発言をしていた。


「ふーん?」


 スイはそんな俺を探るように、上目遣いで俺の顔を見てくる。

 そんな仕草が、妙に可愛らしくて、俺はまた昨日のオヤジさんの言葉を思い出した。

『例えば、スイと結婚して、二人で多くの人間を救い続けるのも、一つだ』


「……スイって、今まで付き合った人とか居るのか?」

「へっ!?」


 スイはビックリした様子で、そのまま数十センチ後ろに下がった。

 そしてワタワタと、今まで見た事がない勢いで慌て始めている。


 アホか俺は。なにいきなり脈絡のない話をしてるんだ。

 だが、スイは必死になって俺の言葉に答えた。


「い、いないけど! お父さんの目が厳しくて、男の子とか近づいてこなかったから!」

「そうなのか?」

「う、疑ってるの?」

「だって、こんなに可愛いのに」

「っ!?」


 スイが羞恥で顔を真っ赤にした。

 相変わらず、褒められ慣れていない少女だ。



「何言ってんのよ! 総のアホっ!」

「いてっ」



 と観察していたら、後頭部に衝撃が走った。

 頭を撫でながら振り返ると、少しイライラしたライが、腕を組んでいた。

 彼女はため息を吐き、すすっと移動する。丁度俺とスイの中間あたり、両方と隣り合う感じの位置だ。


「いきなり何聞いてるの。というかお姉ちゃんに彼氏ができるわけないじゃん」


 できるわけない、という発言に、少しだけスイがムッとした雰囲気を出した。


「なんで言い切るの?」

「だって、お姉ちゃん。同年代の男子に恐れられてたから。『青い悪魔』とか言われて」

「……言わないでよ」


 スイは、その言葉を聞いてショックを受けた様子だった。

 だが、その『青い悪魔』というのは、先日ヴィオラからも聞いた名だ。


 曰く、無表情で怒りの沸点が低いため、男子は気軽に悪戯をしかけることができない。

 仮に機嫌を損ねると、その溢れる魔法の才能と容赦の無さで、トラウマになるほどの目に遭わせられる、とか。

 その逸話と、透き通るような青い髪の毛から付けられたのが、『青い悪魔』という異名らしい。


「それでヴィオラさんが『黒い悪魔』で、二人揃って『群青』とか言われてたよね」

「わ、私はヴィオラの巻き添えだから」


 スイは俺のほうを見て、少しだけすました顔で宣言した。

 ついでに、ヴィオラの異名は今初めて知った。

 だが、ヴィオラも同じことを言っていたな。

『私は、スイの巻き添えだ』と。


 俺はライにすっと視線を送るが、彼女は首を振り、告げた。


「だから二人には浮いた話は一切なくて、二人の前を遮った無法者は……」

「……もうこの世には、居ないと」

「残念ながら」



「人を死神みたいに言うのはやめて」



 スイは頬を膨らませて、俺たちを睨んだ。

 どうやら、からかわれたことにご立腹だ。

 俺とライは、顔を合わせて少し笑った後に、スイに謝った。


「ごめんごめん」

「ごめんってお姉ちゃん。でも少しくらいは許してよ。私なんて、お姉ちゃんの妹ってだけで、その頃は無駄に一目置かれてたんだから」


「知らない」


 俺たちの謝罪に、しかしスイはまだ機嫌を直さずにそっぽを向いたままだった。

 流石に参ったのか、ライはもう少しだけ食い下がる。


「だからごめんってば。私だってお姉ちゃんと一緒なんだから。そんな怒らないでよ」


 一緒? ということは。


「え? ライも付き合ったこと無いのか? そんなに可愛いのに?」

「なっ!?」


 俺が素直な感想を述べると、ライもまた、顔を赤くした。

 だが、すぐに表情を改めて、何かを言いたそうに口をパクパクとさせたあと。


「総の馬鹿!」


 それだけを告げて、そそくさと俺から離れ、掃除へと戻った。

 それっきり、こちらとは目も合わせようとしない。

 おかしい。褒め方は別に間違っていないはずなのに、どこで機嫌を損ねたか。


「なぁ、スイ」

「知らない」

「……なんか機嫌悪くないか?」

「気のせい」



 スイはスイで、俺とは目も合わせようとしないのだった。

 むしろ先程よりも、苛立っている様子に見える。

 そのせいで、直前までいったい何を話していたのかも、忘れてしまった。



※0826 誤字修正しました。

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