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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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犬耳キャンペーン


 コルシカへは簡単な書き置きだけをして、俺たちは場所を『イージーズ』へと移した。

 というのも、俺の意見を、ライとオヤジさんにも聞いてもらう必要があったからだ。

 二人は俺たちの帰還を素直に喜び(人によって扱いの違いはあったが)、それから、訳あってここに来たことを説明した。



「それで小僧。話ってのはなんだ?」


 昼時ということで昼食の用意をしていたオヤジさんは、急かすように言う。

 恐らく、調理中に抜けるというのが我慢ならないのだろう。几帳面だし。


「まず、前提条件からなんですけど。オヤジさん、キッチンの人手は足りてますか?」

「……足りている。俺はもとから一人でここを回してんだ」

「……で、でも、最近は忙しそうですよね?」

「ふん。そう見えるんなら、お前の目が悪いんじゃねぇか?」


 わざと憎まれ口を言いながら、オヤジさんは俺を強く睨む。


「お父さん……そんな変な意地張らないでよ」

「正直に言って」


 その父の様子に呆れたのか。娘二人はじとっとオヤジさんを見る。

 オヤジさんはばつが悪くなった様子で、そっぽを向きつつ言った。


「……まぁ、少しだけ人手が欲しいってのも、嘘じゃない」


 どうにも、俺に対しては否定から入らないと、気が済まないようである。

 俺は「あはは」と軽い苦笑いを浮かべ、その次へと移った。


「それじゃ、提案です。このベルガモを雇いませんか?」

「あぁ?」

「え?」


 俺の発案に、オヤジさんは俺を疑うように、そしてベルガモは理解できなさそうに俺を見た。


「随分、調子の良い事を言うじゃねえか? 元強盗だろ?」

「だからです。彼が犯罪を犯した理由を知っているから、彼がもう悪さをすることはないと思えるんです」

「なんでそう言い切れる?」

「自分よりも妹が大切な人間が、妹の存在を知られているのに凶行に及ぶとは考え辛いですから」


 俺は流し目でベルガモを見た。

 さぁ、どうなんだと言わんばかりに。


「あ、ああ。妹の命の恩人に、恩を仇で返すようなことはしない」


 彼は戸惑いつつも、一つだけ頷く。

 まぁ、根は悪い人間でもないし、何かすれば直接妹へと跳ね返るのだ。

 嫌な言い方をすれば、何か問題を起こしたとき、俺たちが彼への報復に妹に危害を加えないとは言い切れない。

 恩と弱み。善意と悪意によって、彼の行動は縛られることになるだろう。


「だが、それではたいした罰にはなるまい」


 じっと話を聞いていたヴィオラが口を挟んだ。


「それこそ、もう一度この男のような輩が来たらどうするんだ? その度に従業員を増やしていくつもりなのか?」

「いや。それともう一つ、ベルガモにはやって欲しいことがあるんだ。それこそ、本来の目的と言ってもいい」


 ヴィオラの言うことこそ、本当は俺が最も気にしていたことだ。


 そもそも、この強盗事件がなぜ起きたのか。

 なぜ『金』ではなく『ポーション』欲しさで、強盗が起こってしまったのか。


 それはこの店の情報が、正確にベルガモの住む階層にまで届いていないから。

 これに尽きる。


 彼はこの店が、どんな『カクテル』でも『銅貨二枚』ということを知らなかった。

 用意するべき金額は、俺換算で『千円』だ。手が届かないことはないだろう。

 そもそも知っていたら、強盗ではなく、最初から助けを求めてきただろう。

 言い換えれば、それはベルガモと生活水準を同じくしているもの、全てに言える。

 この店の話は、その階層にまで正しく浸透してはいないのだ。


 では、何をするべきか。


「強盗の再発防止には、周知の必要がある。だからベルガモの持っている人脈を活かして、そういった本来助けたい人々への、周知を徹底するキャンペーンを行おうと思う」


 それから俺は、そのキャンペーンの内容を伝えた。


 始まりは、ベルガモからだ。

 彼には、罰として、毎日一人以上の友人や知人を『客』として呼んでもらう。

 それが『周知』への第一歩だ。


 だが、それだけでは終わらない。

 そうやって連れてこられた『友人客』は、この店の常連よりも貧乏だろう。

 そんな彼らに、リピートしてもらうために案を出す。


 一つは、ベルガモの友人として来たその日は『カクテル半額』キャンペーン。

 もう一つは、ベルガモの友人が次はホストとなって新しい友人を連れてきたときに、二人とも『カクテル半額』キャンペーン。


 要するに、新規を連れてくれば、その度に『カクテル』が半額で飲める。

 一杯『五百円』で、どんなカクテルも飲めるのだ。

 それを目当てに店の外で知人へと店を周知してくれれば、それだけでこの店の内情が知れ渡っていく。

 本来スイが救いたいと思っていた。貧しい人達へと。


「というわけで、そうだな。そのキャンペーンを一ヶ月くらい見てみたい。その間、ベルガモはひたすら人を呼び続けて貰う。呼べなかったらその日の分は給料無し。賄いだけは出る。そんな感じでどうかな?」


 俺はオヤジさん、スイ、ライ、ヴィオラ、そしてベルガモと流し見た。

 それぞれが、驚いていたり、悩んでいたり、感心していたり呆れていたり。

 複雑な表情を浮かべていた。



「……よく、そんなこと思いつくね」



 感想を真っ先に述べたのは、スイだった。

 彼女は、肯定的に俺の意見を聞いていた。


「ベルガモの一件から、ずっと考えていたんだ。どうやったら、そういう『救いたい』人々に、正しく情報が行き渡るか」

「……私は、賛成。もうこれ以上、こういうのは嫌だから」


 スイは一抜けで、俺の案に乗った。

 もともと、この案は彼女の思いを全面に押し出して企画されたものだ。

 スイに反対されていたら、なす術がない。



「利益はどうなるんだ? 言っちゃ悪いが、半額なんてよっぽどだぞ。店が立ち行かなくなる」



 難色を示したのは、オヤジさんである。

 確かに、普通に考えて『半額』をバラまくのは痛いにもほどがある。

 だがそれは、このキャンペーンを『カクテル』だけに限定することで乗り切れる。


「確かに痛いですが『カクテル』だけなら、半額でも原価を割る事はありません。利益率はグンと下がりますが、もともとそれほどお金を使ってくれる層では無いですから。周知のための一ヶ月と割り切ります」

「それじゃ、客として定着しないんじゃないのか?」

「一ヶ月に一回でも、思い出したときに来てくれるなら、充分です。何よりの目的は『強盗』の再発を防ぐことですから」


 俺の答えに、オヤジさんはまだ難しい顔をしていた。

 理屈は分かるが、やはり大々的なやり方はあまり歓迎したくはないのだろう。


「お父さん。お願い」

「……スイ」

「私は、ここを知らないで救えなかった人を、一人でも減らしたい」

「…………」


 スイは真剣な目でオヤジさんを見ていた。

 オヤジさんはそこに、どこか哀愁を感じさせる眼差しを浮かべ、言った。


「……わかった。一ヶ月なら様子を見よう。そのキャンペーン期間中、多少荒れるのは覚悟しとけよ。貧乏な連中は、行儀の良い奴ばかりじゃないからな」

「……肝に銘じます」

「もしも問題が起きたら、お前も『そいつ』を使う覚悟はしておけよ」


 オヤジさんは、そいつと言って俺の腰の『銃』を指差した。

 なるべくなら使いたくはない。そうならないためにも、気を配らなければならないだろう。


「わかりました」

「ならいい」


 そして、最大の壁と思われていたオヤジさんも、傍観の位置についた。

 その後、ライ、ベルガモの二人はすぐに声をあげる。



「私は難しいことは良く分かんないけど。お姉ちゃんが良いって言うなら良いと思う」



 ライは、あまり考えていないことを素直に言って、すぐさま賛成に、



「……俺は、やれって言うなら何でもやるさ。もともと牢屋だったんだ。それをこんな温情まで受けて、蹴る理由がない」



 ベルガモも、一も二もなく賛成した。


 そうなると、残るはヴィオラだけである。

 全員の視線が集まる中、ヴィオラは鋭く俺を睨みながら、意志を確認した。



「お前のやり方が、吉と出るかは分からないぞ」

「ああ。メリットもあるし、デメリットもある。それは思う」

「大きなことをやると、どんな影響が出るのかは分からない。何かが起こったとき、責任を取るのはお前だぞ」

「分かってる」



 そこまで意志を確認したあと、ヴィオラはベルガモを睨んでから言った。


「……それでも、また起こってしまったらどうする?」

「……その時は、その時に考える」


 確かに、これは一時的な措置だ。それをしてなお、ベルガモのような強盗が起こらない保証はどこにもない。

 だがそれでも『ポーション』を求めて強盗をする──そんな間違いだけは、もう二度と起こって欲しくない。

 一度だけスイを横目で見て、ヴィオラに誓う。



「もし俺の考えのせいでスイに危険が迫ったら、俺が責任を持って助けるから」



 そこでヴィオラは考え込むように俯き、指を一つ出した。


「では一つ。この男には監視を付けろ。私は定期的に調査に来る。そのとき、何か問題を起こしていたとしたら、猶予無しで捕らえる。良いか?」

「……問題無い」


 俺の言葉を受けたヴィオラは、ふっと優しげに笑みを浮かべた。


「なら良い。もともと示談で終わるのなら、あまり私が口を挟むことでもない……しな」

「それじゃ?」

「ああ。君のやり方で、彼の罪は裁かれるということにしよう」


 ヴィオラもようやく、この案を認めてくれた。

 俺は内心でガッツポーズを取る。

 緊張で張り詰めていた空気が解かれると、周りの人間からも安堵の息が漏れていた。


 俺はなんとはなしに、ベルガモを見る。

 その頭から飛び出している犬耳を、見る。

 ポン、と手を叩いて言った。



「よし、このキャンペーンは『犬耳キャンペーン』と名付けよう」



 そして、この店始まって二度目のキャンペーンが始まることになった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


少し考えていた再発防止キャンペーンの話になります。

実際、日本でやろうと思ったら半額なんてとてもとても、ですが。

この店が食事だけでも十分な稼ぎはある。

というのを念頭に、生暖かい目で見ていただけると助かります。


明日は二回更新の予定です。

十九時と二十二時くらいだと思いますので、

覗いて頂けると幸いです。

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