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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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土蛇と特効薬

 その日『イージーズ』に併設されたバーは、臨時休業となった。

 原因は『マスター』と『オーナー』が共に不在となったからである。

 それは大変申し訳ないのだが、年中無休とうたっているわけではないので許して欲しい。

 それでも、どうしても『カクテル』が飲みたいと言う常連がいたらと、ライに伝言も残してきた。


『テイラポーションをショットグラスに注いで、塩とカットライムを渡しておけ。後は好きにさせろ』と。


 メキシカンスタイルと言われる、テキーラの飲み方がある。

 片手にショットグラス一杯のテキーラを持つ。もう片方の手の甲、親指の付け根に塩を盛り、八分の一にカットしたライムを、塩を落とさないように掴む。

 塩を舐め、ライムを齧り、そしてテキーラをくいっと飲む。そういう飲み方だ。


 味はまさしく、テキーラの魅力そのもの。

 塩とライム、その二つの刺激に整理された舌の上で、荒々しいテキーラの味が踊る。

 それらは口の中で混ざり合って、どこか不思議なまとまりを持つ。

 仄かに残るのは、テキーラの風味ある、スッキリとした後味だ。


 とまあ、味は良い。すごく良い。テキーラが好きなら楽しめる。俺は大好きだ。


 だが、俺が働いていたバーでは、誕生日やなんやでお祝い事があった時に、よく、こういう飲み方をしていた。

 塩は省略されることも多かったが、飲み方にあまり違いはない。

 やっている時には楽しいので、俺は目の前でそういう流れになったら止めない。

 しかし、それを目の前にしていない今だから言っておきたい。


 やめておけ、と。

 どうしてもやるなら、テキーラとライムの順番を入れ替えたほうがいい、と。


 個人的には、テキーラの後味にライムの酸味が混ざるほうがスッキリして好きだ。

 というか、そういう席では、すぐに次のテキーラになる可能性もある。

 そうなってくると、それはメキシカンスタイルではなく、テキーラショットの飲み比べと化してしまう。

 舌をリセットしないと、辛い。

 しても、辛い。



 話が逸れた。

 今は既に、夜と言って良い時間。

 僅かな光を頼りに、俺とスイの二人は、犬耳の男──ベルガモの後ろに付いていた。

 彼に付いて十数分ほど歩くと、目的地に辿り着く。


 そこは、ヴェルムット家がある所よりも、少しだけ貧乏な区画のようだった。

 ベルガモが扉を叩いたその家は、木製。

 いや、家というよりは小屋に近いのかもしれない。

 推測だが、二部屋くらいだろうか。寝室と、それ以外。そんな気がした。

 周りに連なっている家も、軒並みそのくらいの大きさだ。そこに『二人』で、ベルガモ達は暮らしているという。


 ベルガモは一度、俺たちのことを確認してから、扉を叩いた。


「コルシカ。帰ったぞ」


 言葉をかけてから、ベルガモは俺たちに向き直る。


「……どうぞ」


 低く声を出して、彼は俺たちを導いた。


「お邪魔します」


 俺とスイもまた、小さく返事をして家に上がる。

 入った直後に目に入るのは、小さなテーブル。奥には水道とコンロ。その近くには保存のきく食料のストックも見える。

 そうやって観察していると、壁の一つに備えられていた扉が控えめに開いた。


「……兄さん。帰ったの?」


 姿を見せたのは、十代後半くらいに見える、穏やかな雰囲気を持った、犬耳の少女だ。

 少女はベルガモに対して柔らかな笑みを見せたあとに、俺たちを見て少し怪訝な顔をする。


「……この人達は?」

「薬師だ。それよりコルシカ、寝てないとだめだろ」

「だって、兄さんが遅いから心配で──」


 少女はベルガモに少しだけ強い目線を向けるが、言葉の途中でふらりと倒れ込む。


「おい! コルシカ!」


 ベルガモが走り込むように彼女を支えた。


「だから言っただろ。良いから寝てろ、良いな」

「……はい。それでは、失礼します……」


 少女は、俺たちに一礼をした後、扉を締めた。

 後に残された微妙な空気の中、ベルガモが気を取り直したように言う。


「座ってくれよ。俺が聞いた詳しい事情を説明させて欲しい」


 その言葉に甘えて、俺とスイはテーブルを囲んだ二つの椅子に腰掛けた。



 事情を聞くとこんな流れだった。

 昨日まで、少女──コルシカはなんの問題もなかった。

 もともと活発な性格ではないが、病弱でもない。その日も、ベルガモは肉体労働に出かけ、コルシカは山の方で売れる野草を探しに行ったらしい。


 街の外には魔物も出る。だが、彼女は『テイラ属性』──つまり『土属性』の魔法の才があるらしく、これまで危険な目に会う事はなかったという。

 だが、昨日。彼女は野草を積んでいる最中に、足におかしな痛みを感じた。

 慌てて様子を見ると、そこに何かが噛み付いたような痕があったという。

 だが、体調に異変は感じなかったらしい。すぐに家に戻りはしたが、それからベルガモが帰ってくるまでは、普通に生活できていた。


 しかし、その夜、異変が起きた。

 食事中にコルシカが、急に倒れ込んだ。

 ベルガモは慌てて、知り合いの伝手を頼って医者に見てもらったのだが、何も分からないという。

 だが、コルシカの病状は徐々に悪化していく。

 そんなとき、誰かに聞いたらしい。


『これは、魔力欠乏症の症状だ』と。


 その病気の知識はあった、解決法も聞いていた。

 魔力欠乏症を治すには、『ポーション』を飲ませれば良いのだ。



「それで、思いあまってウチに襲撃をしたってわけか」

「……本当にすまないと思っている。だけど!」

「事情は分かった。スイ?」


 話を一通り聞いたあと、スイはふっと決意した表情を浮かべ、ベルガモに尋ねた。


「コルシカさんを、直接、診てもいい?」




 ベッドに横たわるコルシカの額に、スイが手を当てた。

 そして、何度か聞いたことがある詠唱。


《万物の精霊よ。その目を貸し与え給え》


 唱えたあと、スイは少しだけホッとしたような、苦しそうな、複雑な表情をした。


「ど、どうなんだ!?」

「兄さん、落ち着いて」


 ベルガモがスイに詰め寄るように尋ねる。

 スイは、少し言葉に迷ったあと、淡々と事実だけを告げた。


「まず、コルシカさんは、今すぐ命に別状はない」

「ほ、本当か!」


 スイの言葉に、ベルガモが嬉しそうな顔を見せた。

 だが、スイの言葉にはまだ続きがあった。


「だけど、処置をしないとたぶん、三日以内に死に至る」

「……え?」

「これは、土蛇──アースヴァイパーの毒の症状なの」


 呆然としたベルガモ。彼は、あまりに突然の事態に、目を伏せてしまう。

 そこからは、俺が言葉を引き継いだ。


「その、毒っていうのは、どういう症状なんだ?」

「……体内の『テイラ』の減少」


 スイの口から、アースヴァイパーという魔物の生態が語られる。

 そいつらは、土蛇と呼ばれる。

 何故かと言えば、魔物には珍しく魔力適性があって、体色を土色に変化させられるからだという。


 そして、彼らの毒もまた、土に関係している。

『テイラ属性』の魔力の減少。毒というよりは、呪いにも似た魔法のようなものだ。

 受けた者は、その減少によって魔力のバランスを崩し、身動きができなくなる。そうなった獲物を、土蛇はゆっくりと捕食するらしい。

 そう。その毒で魔力欠乏症に似た症状が発生するのは、当然のことだったのだ。



「コルシカさんはもともと『テイラ』の魔力が、常人よりも大分多いから、なんとか保っている。抵抗力が強いみたい。でも、すぐに対処しないとやがて……」


 スイの説明を受けた兄妹は、すっと顔を青ざめさせていた。


「な、なんでそんな危険な魔物が、こんな所に居るんだよ! ふざけるなよ!」

「分からない。もともと土蛇は、もっと人が居ない所に棲むのに」


 狂乱の様子でスイに食ってかかるベルガモ。だが、スイは淡々とした態度を崩さない。

 ベルガモの威勢はすぐに萎えた。へたり込むように、コルシカの眠るベッドに腰掛ける。


「ポーションで、どうにかならないのかよ……?」

「ポーションはあくまで補助材。土蛇の毒をどうにかしない限り、ポーションの魔力が定着するまえに、毒に吸われてしまう」


 スイが首を振る。

 だが、俺の目にはスイが諦めてしまっているようには見えない。



「じゃあ、スイ。土蛇の毒の解毒方法は分かるのか?」



 俺の尋ねる声に、スイはコクリと頷いた。

 途端、意気消沈していたベルガモが、ばっと顔を上げた。


「ほ、本当か!?」

「本当。むしろ土蛇の脅威は、その『特効薬』が見つかって、大分減ったの」


 スイの言葉に、兄妹は希望を取り戻した様子だった。

 だが、スイはすぐに状況の悪さを報告する。


「でも、その特効薬は、王都とか、ここより大きい街の冒険者向けの店でしか、取り扱ってない。ここから王都までだと、往復で四日はかかる」

「……そんな……」


 それじゃ間に合わない。

 そんなことはスイにも分かり切っている。

 俺はぱっと浮かんだ疑問を、スイにぶつけてみた。


「連れて行くのはダメなのか?」

「さっきの日数は、安静にしていての時間。変に動けば、それこそ危険が大きい」


 スイの言葉は、さらに深い絶望へと兄妹を落とした。

 それを打ち消すように、更に先の言葉を告げた。



「でも、特効薬の原生地には、この街から一日かからず辿り着ける。そして今は丁度、実を付ける時期。直接向かえば、ギリギリ間に合う」



 スイが、まっすぐに言った。

 俺は、そこに付随するいくつかの疑念を尋ねる。


「そこは安全な場所なのか?」

「いいえ。魔物が生息する森の中」

「いけるのか?」

「いける」


 スイは、意志を持ってはっきりと頷いた。

 正直言えば、これはもはやポーション屋とはなんの関係もない話だ。

 うちのポーションでは治せませんで済む話だ。

 だが、スイがそれで済ますような性格でないことは、もう充分に分かっている。

 それなので、俺は彼女の行動には驚かなかった。



「だから、私が直接採ってくる。その特効薬──『コアントローの実』を」



 しかし、その特効薬の名前には、驚きを隠せなかった。


「ス、スイ!? 今、なんて言った!?」

「え? 私が直接──」

「違う、特効薬の名前だ!」


 きょとんとしたスイが、もう一度告げた。

 俺の聞き間違いではない、そう説明するように。



「『コアントローの実』?」



 頭をガツンと殴られた気分だった。

 そして、同時に二つの事柄を、俺は思い出した。


 まず一つ。

 トニックウォーターを作ったときのこと。

 まるであつらえたように『トニ』という香草が、決め手となった。

 その名前を、なぜああもあっさりと受け入れていたのだろう。


 そしてもう一つ。

 この世界に召喚されてすぐ知った、言葉の翻訳について。

 この世界にあるものは『俺が知らない物』でも『俺が認識できる』名前になる。そういう名前に、自動的に翻訳されるらしい。



 それはつまり、こういうことではないのか。



 もし、この世界に『リキュール』に似た物が、既に存在しているのなら、

 それが既に、名前の付いたものだとするのなら、



 それには、俺の知っている『リキュール』の名前が、最初から付いている。



ここまで読んで下さってありがとうございます。



ある程度のリキュールは最初から、ファンタジー要素の『植物』として出すつもりでした。

逃げと感じられて、がっかりした方も居るかと思います。

ですがリキュールは、それだけ難しい面も多いと思っております。

ご理解いただけると幸いです。


言い訳ばかりで申し訳ありません。

ここから、少しバーを離れた展開が続きます。

魔法の説明などが多くなりますが、カクテルを主軸にしたところは変わりません。

お付き合いいただければ幸いです。


※0805 誤字修正しました。

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