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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
エピローグ++

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白州の残り香3

ここから余韻ブレイカー



 詳しい話を聞けば、というよりも、青木が一人で突っ走った話を聞くとどうやらこういうことらしい。



 もともと、異世界に行く前の俺はバリバリに伊吹のことを引きずっていたし、それは過去を知っている青木から見れば明らか過ぎるくらい明らかだった。


 だが、ある時を境に、俺の様子は突然上向きに変わる。


 一時は俺が何か違法薬物に頼ったり、自殺を決意してハイになっているんじゃないかと心配していた(失礼な! と言い切れないところがある)らしいが、暫く経っても俺がそういう問題を起こす様子はない。

 ことここに至って、青木はようやく俺が伊吹に対してなにかの区切りを付けたと思うようになった。


 だが、それと同時に聞こえてくるのが、俺の噂である。

 俺が童貞であったことは、当然青木の知る所でもあり、伊吹を吹っ切れていない頃の俺がそういう行動に出るとも思えない。

 だから、その頃の俺が女性に誘われたところで、冗談でも乗らないことは理解ができた。


 だが、伊吹を吹っ切ってからの俺も、女性に対しては以前と変わらず距離を取ったままだった。


 自分で言うのもなんだが、異世界から帰ってからの俺は、それ以前に比べれば多少はモテるようになった。

 青木は「多少どころの話ではなく、本気で誘っている女性客も要る筈だ!」などと意味の分からない供述をしているが、まぁ、以前よりはモテるというのは間違いではないだろう。


 にも関わらず、俺は女性と距離を取ったまま。

 挙句、女性の誘いを躱すときはにこやかな笑みを浮かべてこう言うのだ。


『自分、地毛が青髪の女の子が好きなんで』


 その結果、俺は店でオタクの称号を賜ったわけだが、さて、ここで青木の想像に話は戻る。


 伊吹への思いを吹っ切った俺。

 同時に、モテるようになった俺。

 にも関わらず、青髪の女の子一筋などと言う俺。


 さぁ、ここから導き出される結論は?




「確かに恋愛は自由だ。自由だが、二次元の女の子は決してお前の気持ちに応えてくれるわけじゃないんだ。鳥須さんのことがあって、お前が死なない世界の住人に安らぎを覚えてしまうのは分かる。現実の女性に恋をして、また失ってしまうのが怖いってのは分かるんだ。だけど、そろそろもう一度、現実と向き直っても良い頃なんじゃあないか、夕霧?」


「お、おう」


 つまりそういうことだ。

 青木は、俺が二次元の青髪美少女に恋をすることで、伊吹への思いを吹っ切る事に成功したと思っているわけだ。

 その結論に辿り着いて、何とも言い難い気持ちが俺を支配した。



 いや、違うんだけど。

 特定のキャラにガチ恋しているとかいう事実はないんだけど。



 いや、筋は通ってるよ? 多分?

 だけど、話が些か飛躍しちゃいないだろうか。

 そりゃ、具体的な話を全く出来なかった俺にも非はある。


 だって「実は異世界に行っていて、そこで出会った青髪の女の子に『私のことを忘れたら絶対に許さない』と唇を噛みちぎられながら告白されたから、今は女性と付き合う気がない」とか、言えないじゃん。


 俺だって分かるよ。これ言ったら、二次元にガチ恋してるどころの騒ぎじゃなくやべー奴扱いになるって。

 だから、当たり障りない程度にぼかして、青髪の女の子だなんて言っていたわけだ。

 特定のキャラを出すと深堀りされて面倒そうだから、そういう属性が好きなんですって話にしていたのだ。


 だというのに、勝手に二次元の特定のキャラにガチ恋しているとまで思われるのは、想定外だよ。


「なぁ、青木、恐らく大変な誤解があるんだが」

「みなまで言うな。分かるよ。この子だろ?」


 とりあえず、どうしようもなく突っ走っている青木を止めに入ろうとしたところで、青木は訳知り顔で俺の言葉を遮り、スマホの画面を見せて来た。

 その画面には、なるほど確かに、青髪の美少女の姿がある。

 なにかのソシャゲかブラウザゲーだろうか。

 最近の流行のゲームにはあまり触っていないので分からないが、どこかで見覚えのあるような顔立ちだから、有名なのかもしれない。

 でも、当然だけど知らないキャラである。


「青木、落ち着け。俺はそのキャラは知らない」

「俺にまで誤魔化さなくて良いんだぞ」

「なんでそこは頑ななんだよ」


 そこから、何故か思い込みが激しい青木の誤解を解くのに、およそ徳利一杯分の時間がかかった。

 懇切丁寧に、俺が青髪の子が好きだと言っていたのは、一般的な属性の話であって、特定のキャラにガチ恋しているわけではないこと説明し、実際に俺のスマホには青木が思い込んでいたキャラに関する何もかもが入っていないことを見せて、ようやく青木は納得したのだ。


「すまん夕霧、俺の早とちりだった」

「全くだよ。なんでそんな思い込みを?」


 ようやく普通に話せるようになった青木に、俺はため息混じりに尋ねる。

 すると、問われた青木は、少し言い難そうにしながら、ぼそりと言った。


「だってさっきの子がさ」

「うん」

「鳥須さんに、似てたから」

「…………うん?」


 言われて、俺はもう一度、青木が思い込んでいたキャラを見てみる。

 なるほど。言われてみれば確かに、と思った。

 髪の色こそ青だが、全体的な顔立ち、目元だったり、口元だったり、あとは表情や、サンプルの台詞まで、どことなく伊吹っぽかった。


『ふふ、しょうがないなぁ、お姉さんに話してみたまえ』


 とか、実際に覚えてはいないけど伊吹が言っててもおかしくない。

 むしろ言ったなこれ。間違いなく言った。

 原作では言って無いだけで、本当は言ってると思う。


「つまり、青髪の子が好きって俺の発言と、この微妙に伊吹っぽいキャラの合わせ技で、もうそれしかないと思ったと」

「そういうことなんだ」


 申し訳なさそうにする青木に、俺はそれ以上何も言えなかった。

 もし、俺が異世界に行く事がなく、今も伊吹を追い続けていたら。

 あるいは、青木が言ったように、このキャラに伊吹の幻影を見て、ガチ恋することになっていた可能性は、あるだろう。

 そんな可能性はない、などと胸を張って言える人間だったら、異世界であそこまで女性関係をうだうだやったりしていない。

 どれだけ側に居る女性を大切に思っていたとしても、心の片隅に常に居座っているくらい、伊吹は大切な人だったから。


「まぁ、俺を心配してくれた気持ちは嬉しいから、とりあえず、ありがとう」


 ともあれ、青木の誤解も解け、青木からの友情もある程度感じられた今日という日だ。

 ここは礼を言ってこの話はおしまいにしてしまおう。

 そう思って俺は笑顔で言ったのだが、青木は違うことを思ったらしい。


「良いんだ。それより夕霧、確認だが、本当に二次元に恋人がいるってわけじゃないんだよな?」

「しつこいなおい。いねえよ」

「うむ、じゃあ、その、あれだ」


 俺が改めて否定すると、青木は少し何かを言いかけては、それを押しとどめることを繰り返す。

 俺がそんな青木を急かすことなく待っていると、青木は思い切ったか、手元の焼酎を一気に呷り、それから思いを口にした。


「だったら、合コン、とか興味ないか?」

「合コン?」


 これまた、随分と俗な誘いだな、と思った。


「別にそこで彼女を作れと言うつもりもない。ただ、お前には仕事で培った話術があるし、女性をもてなす技術もあるだろう? 他の男のサポートをしてくれるだけでも、十分なんだ。数合わせでも構わないからさ」


 青木は少し早口になりながら、その合コンの予定を話した。

 そもそも、女性との出会いがないことを嘆いてはいたが、青木はそこまで焦ってもいなかった。

 だが、青木が彼女を欲していることが、ひょんなことから青木の大学時代の先輩(俺とは交流のない人だ)に届いたらしく、その先輩から合コンの誘いがあった。

 しかしそこに急な欠員があり、可能なら青木の友人を一人連れて来て欲しいと要求があった。

 ここで青木は考えた。その友人として俺を誘ってはどうだろう、と。

 青木は俺を心配していたし、俺を二次元から現実へと引き戻す良いきっかけになるかもしれない、と思って了承したのだとか。

 今日の話題の振り方も、実はこの誘いに繋げるための、青木なりの考えがあったという。


「もちろん無理にとは言わないが、少し考えるだけでも!」


 青木の必死な願いに、俺は再び苦笑いを浮かべるしかなかった。

 当初の思惑からは多少離れたかもしれないが、青木の中では俺がフリーだという点は変わっていない。

 だったら、俺を誘ってもなんの問題もない、と考えるのはおかしくない。

 そう。青木の視点からすれば。


「青木、お前は大事な友人だ。そんなお前のお願いを聞いてやりたいと思う気持ちは俺にもある」

「本当か!」


 俺の前置きを聞いて、青木は地獄に仏を見たというような明るい顔になった。

 だが、話はこれで終わりではないのだ。


「そう、俺はできれば行ってやりたいと思うんだ。だけど」

「だけど?」


 俺が微妙な話の区切り方をして、青木は訝しげな顔を向ける。

 丁度、その時だった。



『ワァーン! ワァーン! ワァーン!』



 マナーモードにしていた筈の俺のスマホから、何故か特大のアラーム音が鳴り響く。

 そう、こちらのスマホの設定など『彼女』にとっては無意味なものなのだ。

 居酒屋で鳴り響く轟音に、俺は少し慌てつつもスマホを取り出す。

 すると、俺が何をするでもなく勝手に通話は繋がり、自動でスピーカーモードになったスマホから『彼女』の声がした。


『浮気したら、殺すから』


 それだけで、通話は終わった。

 突然の事態に目を丸くする青木に向かって、俺は肩を竦めながら言った。




「この通り、俺は良くても『彼女』は許してくれないらしい」




『彼女』──スイ・ヴェルムットは、どういうわけか俺に女の陰がちらつくと遠隔から察知して、こうして律義に妨害を仕掛けてくれるのであった。


 愛されている、とでも言えばいいんだろうな……。





いただいた感想、返事は書けておりませんが、届いたものは全て読んでおります。

ひとつひとつ、元気をいただいております。

ありがとうございます!

(カクポは長いので読み返す方は睡眠不足にお気をつけて)


あと新作の宣伝も目的なので、こちらもよろしくお願いします!(おかげさまでちょっと上がりました)

ニッチな作品ですが、カクポとは違う切り口のお仕事ものとして楽しんでいただけたら


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