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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
エピローグ++

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白州の残り香1

書き残したことがあったので


※追記

あくまで完結後の蛇足のため、完結の余韻を損なう可能性がございます。ご注意ください。

「「乾杯!」」


 酒の入ったグラスを軽く打ちつけながら、俺達は声を揃えた。

 キンキンに冷え、僅かに白くなったグラスに揺れる泡と黄金が喉を通ると、刺激的な爽快感と確かな苦味が感じられる。

 日本では代表的なピルスナータイプのビール。その爽やかな苦さと喉越しには、汗として流れた水分の量だけ味を良くする魔法がかかっているに違いない。

 くーっと唸りたくなる気持ちになりながら、それがどこか恥ずかしくて、そっと心の中だけで唸っておくことにしよう。

 くぅ〜。美味い!


「くぅ〜! この一杯の為に生きてるねぇ!」


 と、俺の内心の決意とは裏腹に、目の前の男は豪快に唸ってみせた。

 そうされると、途端に我慢した俺が格好付けただけの子供に思えてくる。

 いや、事実格好つけただけか。

 普段から格好付ける仕事ばかりしているせいか、たとえ昔の友達と飲んだときでさえ、そういう癖が抜けないのは、果たして良い事か悪い事か。


「おいおいどうした夕霧。折角の飲みの席で難しい顔してよ」


 そんな俺を見て、大学時代からなんだかんだと付き合いの続いている青木が言う。


「いや、どうも職業病でな。どうしても酒が入るとハメを外せないというか、周りの席の様子が気になってしまうというか」


 俺はそう言い訳した。

 本音を言えば、単純に大人になった自分を演出したというか、まぁ、格好付けただけなのだが、それを正直に言うのも憚られた。

 別に嘘も言っていない。

 この場所は、あくまで適当に選んだ大衆酒場であって、俺が普段働いているバーでもなんでもない──ないのだが、他の席のお客さんのグラスが空いていると、おかわりを尋ねなくて良いのかと不安になってくるのだ。

 とまぁ、そういう本音と誤魔化しを混ぜた言い訳を返せば、青木は呆れた顔で言った。


「いやいや、自分が客として入ってる時くらい、接客は忘れろって」

「接客したいわけじゃないんだ。ただムズムズするっていうか」

「本当に職業病だな! じゃあもうあれだ。この店の店員を先輩として見守っている気持ちで頑張れ」

「頑張るか」


 青木の示した方策に、少しだけ重ねる形で俺は自分を無理やり納得させることにした。




 さて、そろそろ現状の話でもしようか。

 俺の名前は、夕霧総、多分年齢は26歳、職業はバーテンダーだ。

 なぜ年齢の前に多分が付くのかと言われると、それは俺の特殊な過去のせいだ。

 実は俺は、過去に三年程異世界に行っていたのである。


 勘違いしないで欲しいのだが、異世界に行ったと言っても、そこでチート能力を手に入れて右に左に駆け回ってハーレム無双した、なんて話ではない。

 そもそも、そこはステータスなんてものは存在しないし、スキルなんてものも存在しない世界だった。

 魔法はあったけど、それだって個人個人が頑張って習得したもので、消費MPなんて概念もないし、魔力の数値だってわかりゃしない。

 そんな世界で俺に与えられたのは、幾ばくかの幸運な出会いと、使い道の少ない魔法の才能くらいで、その魔法の才能に至っては曰く付きというおまけもあった。


 俺はそんな世界でずっと、バーテンダーを続けていた。


 もちろん、バーテンダーをする上では色々なことがあった。

 その世界にはそもそもバー文化など存在しなかったし、当然のようにカクテルの文化も存在しなかった。

 更に言えば、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラ、そしてウィスキーと言った現代では当たり前にスーパーで買えるようなお酒すら存在しなかったのだ。

 そんな状況ではあったが、そこはファンタジー世界。そこで俺は、それら四大スピリッツの代わりになるようなモノに出会えた。


 それが、ポーションだった。


 このポーションというのも、ゲームのようにHPを回復させるようなアイテムではなく、失った魔力を補充するための飲み物である。

 徹頭徹尾、ゲームらしい世界ではなかった。

 そして俺は、そんな世界においてポーションと割り材を組み合わせた全く新しい即席ポーションとして『カクテル』を普及させ、ポーションを娯楽として飲む文化を広めるために活動していたわけだ。


 まぁ、その後に紆余曲折あって、俺が一方的に辛いだけの別れも乗り越え、異世界から再びこの日本に帰って来たのが、三、四年程前か。

 問題は、俺が帰って来たとき、この身体というか、時間が丁度俺が異世界に行く前の、23歳の頃に戻っていたということだ。

 そのあたりは、俺を異世界から送還したアイツのアフターサービスか何かなのだろうが、それによって俺の自意識は三年程、肉体年齢より年老いているということになる。

 まぁ、たかが三年と言ってしまえばそれまでで、三つ子の魂ということわざもあるくらいだし、困ったことがあるわけでもない。

 単純に、三歳若返ってお得、程度に考えている。


 まぁ、俺の過去についてはそのくらいとして、現在の話をしようか。


 異世界から帰って来た俺は、異世界に行く前に色々と雁字搦めになっていた状況を脱していた。

 だが、世知辛いことにこの世界では過去の思いを断ち切ったとて、生活をするのに金が要る事には変わりない。

 俺の持っているスキルと言えば、大学時代にちょろっと勉強した情報系の知識と、死に物狂いで手にして来たカクテル作成技術くらいだ。

 話術の方も人並み程度にはあると思うが、それ一本で仕事にできるほどではない。

 というわけで、異世界から帰って来て、カクテルへの呪縛から解かれた今でも、生きる為に俺はバーテンダーを続けている。

 バーテンダーが嫌なわけではないしな。

 むしろ、昔より好きになったくらいなんだから。




「で、本題なんだが」


 ビールとお通しのみだったテーブルに、様々なおつまみが並び、それを一通り楽しんだ頃に、青木が真剣な顔で言った。

 俺は、枝豆に伸ばした手を引っ込めて、マジ顔の青木へと向き直る。


「なんだ?」

「お前、バーテンダーだよな?」

「バーテンダーだけど」


 確認するまでもなく、俺はバーテンダーだし、青木も知っている店で働いている。

 だが、青木の表情がいつにもなく真剣なので、もしかしたら、転職の誘いとかだろうかと思った。

 だとしたら、急に言われても困るな……と頭の隅で考えていたところで、青木は俺の予想とは全く違うことを言った。


「てことはさ、やっぱり、モテるんだよな?」

「あ、すみませーん、お冷や一つお願いします。相方が酔ってるみたいで」

「おおい!」


 いきなり寝ぼけたことを言い出した青木を心配してお冷やを注文してみたのだが、どうやら余計なお世話だったらしい。

 まぁ、注文してしまったのは仕方ないので、届いたお冷やをそっと青木に差し出しておく。

 青木は、微妙な表情でお冷やを飲み干してから、もう一度言った。


「冗談でもなんでもないんだ。俺はただ、バーテンダーってモテるのかを聞きたいだけだ」

「…………はぁ」


 どうやら本当に真剣な質問だったと分かったので、俺は諭すように、真実を述べる。


「良いか青木。この世の真理を教えてやる」

「お、おう」

「バーテンダーも、モテる奴はモテるし、モテない奴はモテない」

「夢がないんだよ!」


 俺の格言に対し、青木は憤慨したように言って、そこから項垂れた。

 だが、どこの世界だってそうだろう。

 確かにバーテンダーは、まぁ、モテるための技術自体は持っているかもしれない。

 つまりは、気遣いと話術だ。

 人をいい気分にさせるための技術は、そのまま女性をもてなす技術に変わる。

 カクテルの作成技術も、無いよりはマシくらいの効果はあるだろう。


 だが、問題はそれをどう使っていくかである。


 その技術を素で身につけているようなコミュニケーション強者であれば、プライベートだろうとそういった気遣いをふんだんに発揮し、色々な女性を虜にしていくかもしれない。

 反面、そういう技術を仕事中のスキルと割り切っているタイプは、プライベートでは意外と気が利かない、なんてことも往々にして起こりうる。

 俺もどちらかと言えば後者だろう。自然にグラスが気になる程度の職業病はあれど、プライベートで自分を殺してまで相手を立てようとかは思えない。


 え? 仕事中はモテるんじゃないかって?

 カウンターの中と外では世界が違うんですよ。仮にモテたとしても、それはお仕事の関係以上のものではない。

 俺はそう、確信している。


 というわけで、モテるための技術は持っているかもしれないが、結局モテる奴はモテるし、モテない奴はモテない、としか言えない。

 そういう説明をしてやったところで、青木はカッと目を見開いた。


「といことはだ。プライベートでも意識的にスキルを使うようにすれば──その気になればモテられるってことだよな?」


 どうやら、青木はまだ、何かを諦めていないようだった。


「そりゃ、そうかもしれないが、プライベートでまで仕事してちゃ疲れないか?」

「良いんだよ! 恋愛っていうのはそういう駆け引きがあるもんだろ!」

「そんなことを俺に言われてもな」


 かくいう俺が、プライベートではモテるタイプじゃないので、なんとも言えなかった。

 もっとも、俺がこれくらいローテンションで話を出来るのは、大学時代の友人達くらいなのだが。

 大学時代の友人と会うと、どこか俺も大学時代に引っ張られてしまう。バーテンダーになってから出会った人には、もう少し接客根性が出てしまうからな。

 そういう意味でも、大学時代の友人達との飲みは気が楽で好きなのだ。


「それで、そんなことを聞いてどうしたいんだ?」


 と、いつまでも青木の話が進まないので、俺は先を促すことにする。

 青木は、静かに俺を見上げたかと思うと、鋭い眼光で刺すように俺を見ながら言った。



「無いんだよ。出会いが。出来ないんだよ。彼女が」

「そうか……」



 俺は、青木の言葉を受け、とりあえず話半分で良さそうだと思って、先程引っ込めた手を枝豆に伸ばした。

新作の宣伝をかねて書き残したことを蛇足のごとく追加します。

宣伝という生臭い目的もあるので、よければ新作の方も読んでやってブクマとかしてやってください。


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[良い点] 新エピソード嬉しいです!これを機に全部読み直します
[良い点] 久方ぶりの更新うれしいです!
[良い点] 推しの新作エピソード、気になります…!
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