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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第六章

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時間差の顛末


 俺が目を覚ましたとき、そこは見慣れない部屋の中だった。

 だが、知らない天井ではない。

 薄暗い灯りに照らされたその部屋は、以前寝込んだときから、好意で魔導院に貸してもらっていたある意味いつもの部屋だ。

 時刻は夜。目が覚めるとだいたい夜なのは、俺がバーテンダーだから、縁があるという話なのだろうか。


「……ん」


 自分が寝かされているベッドの傍らに、見知った少女の姿があった。

 誰がかけたか毛布を一枚羽織り、俺の眠るベッドにうつ伏せになって眠りこけている。

 以前、急遽魔導院に転移してきた時もそうだったが、相変わらず、スイはずっと俺を診ていてくれたらしい。

 不意に気持ちが溢れ、俺は彼女の青髪をそっと梳かすように頭を撫でる。

 心の中で伊吹に会って、そして今、スイの姿を見て。

 俺は理解した。今の俺にとって、伊吹よりもスイの方が、より愛しい存在になっているのだと。

 元カノにきっぱりと振られて、今の彼女に向き直ったみたいで嫌なんだが、スッキリとした心のことを思うと、当たらずとも遠からずか。

 少なくとも、俺はこれから先、伊吹とスイの間で迷う事はないだろう。



 それが、たとえ仮初めの時間の話であろうとも。



「んん……」


 なおも俺がスイを撫でていると、寝入っていた彼女がくすぐったそうに呻く。

 俺はそっと手を戻したが、既に覚醒に向かっていた彼女は、重そうに瞼を開いた。


「…………総?」


 目を覚ましたスイは、確認するように俺の名前を呼んだ。

 俺もそれに頷き、寝起き故か少し掠れた声で応える。


「おはよう、スイ」

「っっ! 総っ!」


 応えた直後、スイは一も二もなく俺に抱きつく。

 慌てて彼女を抱きとめるが、落ち着くように言ってもその力が緩むことはない。

 ふわりと香るどこか甘い香りと、見た目よりも幾分も華奢で柔らかな身体が、彼女が嫋やかな少女であることを実感させる。


「総! もう、目覚めないかと! もう! もう!」


 ぎゅっと俺にしがみつくスイの頭を、もう一度優しく撫でる。

 彼女の声は、少し涙声で、たまに鼻をすする音も混じっている。

 随分と心配させてしまった。まぁ、俺自身、流石に死んだと思っていたので、謝罪を混ぜながらなだめすかす。


「ごめんよ。でも、あの場ではああするしか無かったから」

「私に嘘吐いた! 七連装だなんて聞いてない!」

「それもごめん、ごめんな」

「もう、目を覚まさないかと思った! 一週間も眠ったままで!」


 一週間。

 俺の体感的には、ヘルメスの封印を見届けた直後に気絶し、そこからシームレスに伊吹と会話して目覚めたので、数時間程度の感覚だった。

 だが、確かに言われてみれば全身が相当重い。魔力欠乏症のせいではなく、単純に寝込んでいたことで身体が錆び付いているのか。


「ごめん。でも、スイのおかげで助かったんだ」

「…………何が?」

「このお守りが無かったら、多分死んでただろうって」


 この、と言ってもスイは俺の胸に顔を押し付けているので見えはしないだろうが。

 俺の目には、スイを撫でる右手首に巻いたままの、魔力を失って青くなったお守りが映っている。

 これは、伊吹にとりとめのない雑談途中で言われた話だが。

 ヘルメス戦の最後、俺がギリギリのところで死なずに済んだのは、トライスの助力に加えて、このスイ特性のお守りの効果もあったから、らしい。

 このお守りもまた、すっからかんになりかけた時に魔力を放出し、俺の魔力を僅かに癒してくれたおかげで、魔力欠乏症で死に向かう俺の身体は線を越えず済んだ。

 本来なら、敵の攻撃から僅かに身を守る効果のお守りが、俺自身の攻撃から身を守ってくれたというのは、なんとも締まらない話ではあるが。


「……誰に聞いたの? そんなこと」


 だが、スイは俺の言葉が伝聞調だったことにひっかかりを覚えたようだった。

 とはいえ、心の中で伊吹の魂に聞きました、などとやや電波なことを言っても仕方ないので、俺は慌てて誤魔化す。


「いや、そんな気がしただけだ。気を失う前、このお守りが、暖かかったから」

「……そう?」

「それより、その、そろそろ、他の人に俺が目覚めたことを、知らせに行ってくれたりとか……腹も減ってるし」


 不自然にならないように言い繕って、スイにそう伝えた。

 俺自身としては普通に自分で起きて動いても構わないのだが、スイに止められるような気がしたのでそうお願いしてみる。


「ん、分かった。絶対安静だからね」


 幾分か落ち着いたからだろうか。

 スイはすぐに頷き、足早に部屋を出て行く。


「…………」


 俺は、そんな彼女の後ろ姿を眺めたまま、トライスとの会話と、選択についてを思い出していた。



「総! 良かった! 本当に君は無茶をする!」


 スイが大急ぎで医者らしき人を呼びに行った際に、慌ててやって来てくれたのは医者だけではなかった。

 開口一番、俺の無事を喜んでくれたのはヴィオラ。

 その背後にはリトロと、ローズマリーの姿も見えた。

 ローズマリーに監視が付いていないことが少し気になったが、まずはヴィオラに挨拶を返す。


「心配かけたみたいでごめんな」

「全くだ! スイも総も、周りの心配というものをもっと気にしてだな!」

「いや、本当に申し訳ない」


 プリプリと怒っているヴィオラに、俺は一先ず平謝りを返すほかない。

 これが数時間で目覚めたとかだったら、「そういう自分も領主様の心配を気にせず騎士やっているくせに」とか憎まれ口の一つでも叩くんだが。

 いかんせん、今回はかけた心配が多大だろうから何も言えない。

 とはいえ、説教され続けるのもアレなので、適当に話題を逸らしてみるか。


「そういえば、領主様は?」


 ふと思い出したように聞いてみた。

 別に俺が目覚めたときに、いの一番に駆けつけて来て欲しいというわけではない。

 だが、彼の性格であれば、少しくらいは顔見せに来ても良いかと思ったのだ。

 今は、前回と違って魔王対策で大わらわというわけではないだろうし。


「ち……領主様なら一足先にネストの街に戻った。私は、君とスイの護衛のようなものとして残されたんだ」

「なるほど」


 そりゃそうか。

 魔王のことがなく、取り調べもなければ、そりゃ街に帰るに決まっている。

 なんたって領主様なのだから。

 俺のイメージでは魔王戦はついさっきだが、世界では一週間が経っているのだと、改めて実感させられた。


「というか、どうして君は、そんなすっきりとした顔をしていられるんだか。魔王との戦いのその後とか、色々聞きたいこともあるのではないか?」

「……まぁ、気になることはあるけれど、魔王の封印に成功したって手応えはあるからな」


 手応えに関しては、伊吹からのお墨付きの話なので嘘ではない。

 それに、俺は恐らくこの国の誰よりも、この事態が終わっていないことを知っている。

 そして、それを終わらせる方法も同様に。

 だから、俺は慌てるつもりも、焦るつもりもない。


 ここから先は、俺の選択に俺自身が責任を持つだけの話なのだから。

 とりあえずは、診察とヴィオラの説教が終わったら、まずは隣でやや呆れているリトロに戦いの後の顛末を聞く所からだろう。



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