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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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『アウランティアカ』の主

 俺とスイは、声の主が誰なのか確認したら、揃って頷く。

 そして、無視して店を出ることに決めた。


「お、おい! お前達!」


 ギヌラが道を塞ぐように立ちはだかってくるが、俺とスイはさっと避けて出口を目指す。

 だが、ギヌラはしつこい。俺たちの腕を掴もうとしてきた。

 すかさず腕を振り、それも避ける。

 結果バランスを崩したギヌラは、倒れ込みそうになるのをなんとか堪えていた。

 この時を逃すものかと、俺とスイは小走りで入り口まで駆けた。


「それじゃ、失礼します」

「します」


 俺とスイが、店員に向かって別れを告げ、店から出ようとしたとき。

 俺たちを遮るように、もう一人の男が、ぬっと店の入り口に現れた。


「失礼。スイ・ヴェルムット君とユウギリ・ソウ君で宜しいだろうか?」


 壮年の男性。少し渋い顔の、金髪。

 年齢は二回りほど離れているだろう。四十から五十といったところか。

 すっと伸びた背筋に、引き締まった体。隙の無い雰囲気と、鋭い目つき。

 その様子から、相当な苦労を積んできた人だということが窺えた。


「あなたは?」


 その男性を無視する気にはなれず、俺は無意識に尋ねていた。

 だが、その答えは背後から期せずしてもたらされる。


「ち、父上! そいつら、品評会に出るつもりです! あのようなポーションを出す店を認めて良いのでしょうか!?」


 親父。

 ギヌラの父親。

 そうか。この人がこの店『アウランティアカ』のオーナー店長。


「申し遅れました。私はヘリコニア・サンシと申します」


 彼こそが、この街でもっとも成功したポーションを生み出した男なのだ。

 それを認識した途端、急激に雰囲気が重くなった気がした。

 隣でスイも身を固くしているのが分かる。

 だが、ヘリコニアはしばし、何かを逡巡するように、動きを止めた。


「ち、父上ってば!」

「お前は少し黙っていろ!」


 ギヌラが尚も父に縋るような声を上げるが、ヘリコニアは一喝する。

 その迫力に肩をすくめた俺とスイに向かって、覚悟を決めたように、彼は深く頭を下げた。


「本当に申し訳ないことをしました」

「へ?」

「あなた方へ、息子が散々にご迷惑をおかけしたことを、深く謝罪いたします」


 その腰の低さに驚いたのは、俺だけではなかった。

 スイも、ギヌラも、そしてカウンターの中にいる者達も驚いたようだった。


「本来であれば、すぐにでも謝罪しなければならない事です。ですが、私の立場上、公式に謝罪をするのは外聞が悪い。ですから、あなた方と直接会えるこの時をお待ちしていました。親としての謝罪しかできず、申し訳ありません」


 ヘリコニアは、そういって頭を下げたまま、微動だにしない。

 ギヌラの親と聞いてどのような人物かと訝しんだが、少なくとも息子とは違って、ある程度の筋は通すタイプのようだった。


 さて、俺はどう動くべきだろうか。

 この場で、彼が謝っている対象が『店』だとしたら、俺の出る幕ではない。

 俺は固まっていたスイの肩を、軽くトンと叩いた。


 スイは硬直を解かれた様子で、一度俺を見る。

 俺は言外に、意味を込めて頷いた。彼女もコクリと返す。

 スイは、はふぅと息を落ち着けると、平坦な声でヘリコニアへ告げた。


「……頭を上げてください。謝罪はもう充分です」

「……しかし」

「それを言ったら、私達も、ちょっとやり過ぎました」


 スイは少し言いにくそうだが、それには同意だ。

 俺もスイも、ギヌラのボディーガードを首にしてしまったみたいなものだ。

 暴力に対しての正当防衛といえば聞こえはいいが、こちらにも責任はある。


「いいえ。元はと言えば、このバカ息子が原因です。個人で償えることでしたら──」

「じゃあ、こうしましょう。この『ウチのマスター』が言ったことです」


 スイはふっと視線を俺に投げた。

 はて、俺は何か言っただろうか。


「あの時、お宅の息子さんに言ったんです。『次は正々堂々と来い』って」


 それは、俺が若干頭に来ていた時に漏らした売り言葉だ。

 だが、そうか。

 スイがこの場にそんな言葉を持ち出した意味は良くわかった。


「ポーション品評会。もしも息子さんが出ることになっていたら、正々堂々と戦わせてください」


 スイは、確とした意志を感じさせる声音で言った。

 それはこういう意味でもあった。


『親としての謝罪は充分。それとは別に、本人との決着を付けさせろ』


 ヘリコニアは、驚きながら顔を上げたが、ふっと余裕のある笑みを見せた。


「分かりました。元より次の品評会では、この愚息に経験を積ませるつもりでした。本番までに『ポーション調合師』としての根性を叩き直しておきます」

「その時を楽しみにさせてもらいます」


 スイとヘリコニアが、意味有りげに微笑みあう。

 その後に、ヘリコニアは探るような物言いで尋ねた。


「それに、実を言うと私もにわかには信じていないのです。あなたがたの言う『カクテル』という『ポーション』の存在を」

「……でしたら、その口で直に確かめて貰えれば」

「ふふ。そうですね。良いでしょう。楽しみにしています」


 その言葉で、スイとヘリコニア。二つの『ポーション屋』の、店主の会話は終わった。

 直後に、ヘリコニアはぽかんとしていたギヌラへ向かって怒鳴り上げる。


「聞いていたかギヌラ! これからお前に自由は無いものと思え!」

「し、しかし父上!」

「言い訳は聞かん! このままでは、彼女たちに示しがつかん!」


 ギヌラは、へなへなと膝を折り、その場に座り込んだ。


「そうです。少々渡したいものがあるので、少しだけ待ってもらえるでしょうか?」

「へ? はい」


 ヘリコニアは言って、俺たちに一礼すると、カウンターの中へと引っ込んで行く。

 途中でギヌラの体を掴んで、引きずって行くことも忘れなかった。

 だが、すぐに店内に戻ってくると、スイに一本の瓶を差し出した。

 容量は、ウィスキーの試飲用のボトルと同じくらい。50mlくらいだろうか。


「これは?」

「私達が品評会に出す『ポーション』の試作品です。お詫びに受け取ってください」

「……そんな高級なものは」

「良いのです。本番までには、それを仕上げていると覚悟していて欲しいのです」


 ヘリコニアは言って、一礼の後に再び裏へと姿を消した。

 残された俺たち。

 スイは手に持ったボトルをぼんやりと眺めて、ぼそりとこぼした。


「良いのかな?」

「まぁ良いだろう。やっぱり飲むなら高級品に限る」

「……総。これお酒じゃなくて、ポーションだから」



 色々とハプニング的なことはあったが、収穫もあった。

 ギヌラ関係のゴタゴタに、ようやく決着が付けられそうだと感じていた。


※0731 表現を少し修正し、誤字を修正しました。

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