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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第六章

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連行の裏側について


 俺と領主様は、訳の分からぬまま、夜も明けぬうちに連行されることになった。

 側で見ていたヴィオラや屋敷付きの騎士達は、突然の横暴な仕打ちに手が出そうになっていたが、それを領主様が懸命に止めていた。

 如何に礼を欠いた連行であろうとも、それで王家の命令に逆らったとなれば、立派な『罪』になる。

 たとえ、身に覚えのない容疑で連行されることになっていたとしてもだ。


 といっても、容疑だけで仮にも領主を連行するとなれば、流石にそれ以上手荒な真似をされることもなかった。

 監視付きではあるが、俺と領主様はそこそこ乗り心地の良い馬車に乗せられて、王都へと運ばれていた。

 馬車の内装はさほどでもないが揺れが少ない。俺と領主様は隣合わせで座らされており、その両脇と正面に監視の兵が付いているという状況だ。

 もう夕方も遅くだというのに、夜明けも待たずに急いで発ったところを見ると、どこかに何者かの思惑があるのかもしれない。

 例えば、この件を知った何者かが、追いかけてくることができないように、とか。


「それで、改めてその罪状とやらを確認させて貰えるかい?」


 馬車に揺られて暫く経ち、もう少しで馬を走らせるのは困難な暗さになろうかというころ。

 領主様は落ち着いた声で、監視の中では一番鎧に装飾が多い男性へと尋ねた。


「お話した通り、魔導兵器開発、及びそれによる国家転覆を図った容疑です」

「これはまた、一体、私のどこにそのような疑われる余地があるというのかね」


 領主様の言葉には、穏やかでありながら隠せない怒気が滲んでいた。

 尋ねられた監視の兵は、努めて無表情であろうとしている様子だが、額に汗が滲んでいるのが透けて見えるようだ。


「さ、さる筋からの、情報です」

「さる筋とは?」

「お答えできません」


 捕まっているのは領主様であるのだが、これでは立場が逆の尋問のようだ。

 とはいえ、このままやり込められるのは嫌だったらしい監視の兵が、早口であるがその『さる筋の情報』とやらを少し漏らす。


「詳しくは言えなませんが、貴殿は『カクテル』という新種の魔法を発見したにも関わらず情報を隠匿。さらに、それを新種のポーションだなどと偽って、広範囲に広めようと画策したとの情報が寄せられています」

「あまりにもお粗末な調査だと言わざるを得ないね。もしくは、情報を漏らした誰かが恣意的に私が『悪くなる』ように情報をねじ曲げたか」

「これは第四王子の了承を得た正統な摘発です。言い訳は法廷で行うと良いでしょう」


 領主様のため息混じりの言葉に、監視の兵が怒りで顔を赤くしつつ言った。

 第四王子、確か、俺達にドラゴンゾンビの対応を押し付けた王子だ。そして、それから調べたことであるが、その第四王子はまだ一桁の少年だそうだ。

 つまりは、ほぼ間違いなくその裏に誰かが居るのだろう。

 領主様はその後も情報を引き出そうとするが、それから先は、彼らも会話に応じてくれなさそうだった。

 領主様はようやく視線を俺に合わせ、監視の兵に聞こえないような小声で言う。


「さて、夕霧君。どうやら、この一連の連行劇は前々から計画されていたもののようだ」

「……やはり、そうなのですか?」


 夕方に街を発ったことを根拠に俺はそう考えていたが、領主様はそれ以外も合わせてそう考えたのだろう。確信を持った表情であった。


「あまりにも、手際が良い。良過ぎる。祝勝会の日時や場所を元に入念に計画をしなければ、こうまでスムーズに私達二人を狙って連れ去ることはできまいよ。何より、私だけでなく君にも同じ罪状がかけられているのが不自然だ」

「……そうでしょうか?」


 カクテルの生みの親は、この世界では俺ということになっている。

 であるならば、むしろ領主様よりも主犯と目されていてもおかしくない筈だ。

 そんな、俺の疑問を拾うように、領主様はこたえる。


「確かに、カクテルの生みの親は君だ。しかしそれは、飲み物のカクテルに興味を持って調べ、そしてカクテルの比較的中心に近づかないと手に入らない情報だ。もし、カクテルを新しい魔法技術と考えるならば、君よりもスイ君に注目するのが道理だからね」


 そうだ。

 対外的に、カクテルはスイが考えたものということになっている。

 スイに近しい人間、例えばローズマリーのような魔導院の同級生などは訝しむようだが、それ以外では『二千年の魔女』を──近頃、街では『幾百万の蒼』などとも呼ばれるようになった彼女を疑うようなことはない。

 新しい魔導技術が生まれれば、普通はスイが考えたものだと思われる。

 つまり、国家転覆の容疑をかけられるのは俺よりスイという話だ。

 だが、実際に連行されているのは俺だ。別動隊が動いている、という様子はない。俺と領主様の二人を捕らえて、馬車は即座に出発したからだ。


「相手の目的は、俺と領主様の、排除ですか?」

「そうだね。そして、それを目論む相手は分りやすい。カクテルに興味を持って調べて、君の所にまで辿り着き、なおかつ、カクテルから『生みの親』と『後ろ盾』を取り払いたいと考えている相手。つまりはその場所に入り込んで『甘い汁』を吸いたい人間」

「なるほど」


 ここまで説明されて、領主様が誰を想定しているのかが分からないほど鈍いつもりもない。


「さる筋というのは、ラグウィードのことですね」

「私はそう考えている」


 あのぽっと出の狸親父。

 なるほど、どうやらとことんまで、カクテルの邪魔をしなければ気が済まないらしい。

 最初は強引にカクテルの利益を手に入れようとし、それに失敗すれば領主様や俺に取り入ろうとする。

 それさえも失敗すれば、今度は主要なポストを引き摺り下ろし自分がその立場に付こうとする。

 いや、違うか。もしかすれば、手に入らないのなら、いっそぶち壊してしまえ、という気持ちの行動なのかもしれない。

 いずれにせよ、彼は清々しいほどに俺達と敵対する立場を選んだようだ。


「ドラゴンゾンビの登場が、完全に相手の追い風になってしまいましたか」

「そうだね。きっとそれさえなければ、カクテルが普及するまで『魔法』として扱われることは無かっただろう」


 ドラゴンゾンビの存在さえなければ、出来たばかりの銃のお披露目を強引に合わせることはなかった。

 それはつまり、相手の付け入る隙を出さなかったということ。

 そうなれば、恐らく領主様がラグウィードを排除する方が早かったのだろう。

 それを怖れていたからこそ、ラグウィードは俺と領主様に罪を被せて、処罰を下す計画を立てていたわけだ。そして、その計画はドラゴンゾンビの出現によって、文句がないほど上手くハマってしまった。

 今回のこれは、タイミングとスピードの勝負で運悪く破れたようなものなのだ。

 第四王子とラグウィードに何らかの関係性があるのだとすれば、時間稼ぎ、あるいは俺達のカクテル計画そのものを潰すために、ドラゴンゾンビの対応を領主様へ強引に押し付けた可能性すらある。


「……無実を、勝ち取ることができるでしょうか」


 相手が分かったところで、ふと浮かんだ疑問を口にしていた。

 領主様は困ったように笑った後に言う。


「問題無い。と言いたいところだが、それは相手の根回し次第かもしれないね。とはいえ、少なくとも、我々に落ち度はないよ。あえて言うならば『銃』の報告が多少遅れた程度だが、魔王襲来の緊急事態を考えてそこを突くほど、正義のない王家では、無い筈だ」


 領主様はそう言ってくれるが、俺は少し眉を顰めた。

 ここ最近の、王家への信頼は俺の中で下降の一途であったのだから。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

連載に休みを挟んでしまい申し訳ありません。本日からまたしばらく隔日更新に戻ります。

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